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偽りの王  作者: ゆなり
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七十一

 警吏達が下船し、輸送船は再び動き出した。

 その頃はまた船倉へ戻されていたため直には見ていないが、臨検は無事終わったようだった。

 夜になり仕事を終えた二若(ふたわか)は私にささやいた。

「明日、船を下りる」

 半ば予想していたが、一応尋ねた。

「湖旦まで行くのではないのですか?」

 現状ならば国に戻ろうとするならば、湖旦まで船で移動し、そこから馬などで北上すると言うのが最も合理的で経済的な道程だった。

 だが明日降りるとなると、今の位置から考えて瑞徐という港が候補となろう。

 そこから徒歩か馬となると、一旦南下して西大街道へ出て西進し、玉祥(ぎょくしょう)の故郷手前にある支街道を北上する事になる。回り道ではあるが、確実性を期すのならば、そちらを選択するのも一つの手だ。

 私の言葉に二若(ふたわか)は頷いた。

「そのつもりだったが、念の為」

「あの臨検はやはり何か裏があったのですね」

 警吏たちの様子では行方不明の”紘菖(こうしょう)”を探しているという雰囲気はなかった。

 不審者を探しているのだとしても、帝国に弓引く大逆賊を炙り出そうといった熱意はなかった。その割には全船停止しての臨検だなんて大掛かりな事をしている。

 私には別の思惑があるような気がしたのだ。

 あの警吏達は私を嫌に観察していた。

 輸送船に乗っている女が珍しいと言う事はなかろう。私に条件に合致する何らかの要素があり、それを探られたのだと思われる。

 だが、その条件が何で、何故疑いが晴れたのかは謎だ。

 二若(ふたわか)が賄賂を渡して……という素振りも多分なかった。やり取りの全てを知るわけではなく、また私に理解できないやり取りもありどうにも納得できない部分があったが、どうにか疑いは晴らせたらしい。

「ああ。俺達を探していると言う様子はない。だが……」

「だが、なんでしょう?」

「あいつ等の目的は、宮殿を襲撃した者またはその関係者を追っているのは間違いない」

 私は二若(ふたわか)の言葉に眉根を寄せた。

「時期的に見て、また臨検の規模から見て、理由としては妥当なところだろう。つまりそういう”名目”で”誰か”を探しているという事だな?」

 その誰かと言うのは、かなりの高確率で私達である可能性があるということだ。そう、二若(ふたわか)はいいたいのだろう。

 二若(ふたわか)は相手の心の声を聞ける。だが、あくまでも悪意ある思惑しか聞けない。

 疑いと悪意は決して同質ではなく、二若(ふたわか)にもハッキリと判断できないのだろう。

「察しのいい事で。……条件と違っていたために目溢しされたようなものだな。大丈夫とは思うが念の為道を変える」

 二若(ふたわか)の判断は妥当な線だろうと、私は同意を返した。

「船長にはなんと?」

「話は通してある。湖旦までとハッキリ言っていたわけじゃないから、特に疑ってはいないようだった」

「そうか」

「ところで、口調が戻っている」

 その指摘に口元を押えた。

「これは失礼いたしました。わたくしとした事が」

 ホホホホと笑顔を載せて言えば、二若(ふたわか)は重いため息を付いた。

 ため息を付きたくなる気持ちは理解できるが、あからさまな態度を取らなくてもよいではないか。


☆★☆★☆★☆★☆


 輸送船は昼過ぎに港へ入港し、荷揚げ荷降ろしを二若(ふたわか)がこなした後に私達は下船した。

 この瑞徐という港は、天曼河へ別の糸鳥という川が合流する水路の交差点となっている。

 糸鳥という川はあまり大きくはないが、中級の船でもなんとか通れる深さがあった。

 そのため海から天曼河を遡ってきてそのまま天曼河の上流へ向かう船、方角を変えて進路を糸鳥川の上流に取る船、糸鳥から天曼河を経て海へ向かう船、糸鳥川を下ってきて天曼河に合流後天曼河を更に遡る船と、目的も行き先も様々な船が多数行きかっていた。

 船の往来が激しいと言う事は、それだけ物と人の流れも大きいと言う事だ。

 私達が下船する事を不審に思うものはいなかった。

 船員や他の乗客等に見送られ和やかに彼等と別れた。

 未だ体調の優れない私は二若(ふたわか)に背負われての移動となった。

 毒が抜けるのに随分とかかるものだ。

 医術に精通していないため判断が付かないのだが、これが普通なのだろうか。

 弟の足手まといという現状に、どうしても気が重くなる。

 街を抜けた二若(ふたわか)は糸鳥川を徒歩で遡り始めた。

 糸鳥川を遡ると方角としては北上する形となる。わたしはてっきり南下して西大街道に出るのだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。

「方向が随分と違わないか?」

「もう二・三日上流に、船では行けない小さな支流があるんだ。そっちを辿って行くと、国の南東辺りまでいけるんだ」

「そんな川があるのか?」

「地図には載っていない小さな河川だから、お前は知らないはずだ。国まで伸びているわけでもないからな」

 裏道、のようなものか。

 こういった知られざる道を使い、裏の世界の者達は役人の目をかいくぐっているのだろう。

 ある種興味深い世界ではあるが、私がそれを実際につかうとなると、しかも裏の世界の者達と同様役人達の目をかいくぐる目的でそれを行うのだと思うと、かなり複雑な心境であった。

 しかしながら、私は言いたい。

 お前、どこからそんな知識を仕入れているんだ。

 子供一人の力で生き抜いてきたのだから、想像を絶する苦労があったと思う。私や三姫(さんひめ)とはまた違った辛酸を舐めてきたのだろう。そのくらい想像は容易い。

 だが、こんな後ろ暗い知識ばかり深めるような生活とはどんな物なのか。

 出来る事ならば真っ当に生きていたのであって欲しいとは思うが、どうやらそれは無理な願いのような気がしていた。

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