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偽りの王  作者: ゆなり
71/122

七十

 しげしげと物珍しげに私をみていた警吏の一人が口を開いた。

「本当に世間ずれしていなさそうなお嬢様だな。こんな子にぜひとも……「ああっと」……だ」

 途中で二若(ふたわか)が大きな声を出したため、よく聞こえなかった。

 私はどうしたのかと見上げた。

 二若(ふたわか)は口を開いた警吏を険しい目で睨んでいた。

「どうし、」

「大変だー、顔色が悪くなってる。ちょっと休まないと駄目だな」

 私の言葉を遮り、二若(ふたわか)は棒読みな台詞でそういった。

「何を……」

 戸惑う私を船の縁へと強引に運んでいく。

 警吏達は追っては来なかった。

 日陰になる場所に私を安置すると、二若(ふたわか)は警吏の方へと戻っていった。

 深刻な顔をして二若(ふたわか)達は私抜きで話を進めている。

 一体何が起きているのか?

 全く展開が読めず、付いていけなかった。

 腹の底の読み合いは私の本職だと言うのに、その私に判らないやり取りをしているとは、こいつ等は一体どういう頭脳をしているのだ!?

 内心で焦りが生まれた。

 暫く話し込んだ後、警吏達は私の方へとやって来た。

 目の前にしゃがみ、目線を合わせて話しはじめた。

「体調が悪いところ無理をさせて悪い。確認させてもらうが、構わないか?」

「はい。何なりとお聞き下さい」

「君は医者に診てもらうためにお兄さんと旅をしているんだね?」

「その通りです」

「心臓の病気で、人に移るものではない」

「はい」

 幾つかの通り一遍の質問をされ、それに二若(ふたわか)と打ち合わせ通りの答えを返していく。

「よくわかった。ありがとう」

 質問に満足したのか、納得してくれたのかは定かではないが、元部下はそういった。

 どことなく和やかな空気が漂っていた。

「本当に、淑やかで優雅なお嬢様だなぁ。こんな品のある女の子なんて、色町の遊女でもお目にかかったことがないぞ」

 何気なくそういった。

 私は首を傾げてしまった。

 ユウジョが何を指すのかわからなかったのだ。

「色町……? わたくしは足を踏み入れた事はございませんが、美しい歌や踊りで殿方をもてなすと言う、あの色町の事でしょうか?」

「そう、その色町」

 つまり、そこのユウジョ達ということから、色町の女性達のことを指すのだろう。

 ユウジョが、色町で働く女性の総称とは知らなかった。

 ユウジョの、ジョは女としても、ユウはどの様な字を当てるのか?

 勇敢の勇とかだろうか。

 世間に疎いとひどく突きつけられた私だが、それでも色町のことは知っている。

 富と人の集まる場であり、欲望が渦巻く街であるからだ。

 当然比例するように各種犯罪が多く発生する。小さな揉め事は日常茶飯事だ。

 厳重警戒区域であり、大掛かりな摘発を何度も行った。

 小さな揉め事や犯罪の摘発は玉祥側の管轄であり、基本的には私と関係はないのだが、それでも各種陰謀の調査結果などから係わる事がないわけではない。

 摘発に慣れない人間がいると邪魔だと、現場に足を踏み入る事は殆どないのだが、逃走させないよう外回りを固めるのに人員を指揮したりと、色町に出向いた事は何度かある。

 摘発が終わった後の検分や、下手人の尋問などで現場に行く事だってあった。

 故に、ある程度以上は色町というものを知っていたが、そんな事はおくびにも出せない。

「大勢の集まる場所であり、子供や女性には危険と言われております。そこを闊歩できるのは立派な殿方だけなのだと……。そこで殿方をもてなす女性方は、勇気も教養もある立派な職業婦人ですわ。私の様な無教養なものとは比べようがありません」

 あまりよく知っていると思わせるのは拙いと、正しいながら曖昧な表現でそう私は告げた。

「……」

 私の言葉に対する反応がなく、顔を上げて訝しげに見やると、彼等は唖然とした表情を浮かべていた。

 何でだ!?

 私は逆に驚いてしまった。

 間違った事は何も言っていないはずだ。

 二若(ふたわか)を振り仰げば、微苦笑していた。

 よく判らないが、よほど頓珍漢な事をいったらしい。

「あの……?」

 私は声をかけた。

 元部下は、首を振りつつため息を付いた。

 もう一人の警吏はニヤッと口の端を持ち上げる。

 そこはかとなく馬鹿にされているような気がする。

 わけが判らないだけに、ひどく腹立たしい。

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