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偽りの王  作者: ゆなり
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五十九

紘菖(こうしょう)様は、身分あるお方です。小さいとは言え一国の王が、あのような言い掛かりを付けられ唯々諾々と従っては、その沽券に関わります」

真祥(しんしょう)はそれだけを言い切り、真っ直ぐ佑茜(ゆうせん)を見つめ返した。

動揺している事すら悟られてはならないと、真祥(しんしょう)は必死になって表情を取り繕っていた。

検分するかのように、ジッとそれを観察していた佑茜(ゆうせん)の口角がついと上がり、頷く。

「確かに、道理だな」

その言葉を境に緩んだ空気に、真祥(しんしょう)はこっそり息をついた。

その間隙をつくかのように、佑茜(ゆうせん)の言葉が飛ぶ。

「確か、お前にはアレを見張れと命じてあったように思ったが?」

佑茜(ゆうせん)の元へ報告に来るという事は、監視対象から離れることを意味していた。

それを佑茜(ゆうせん)は指摘しているのだ。

「申し訳ありません。緊急事態と思い、持ち場を離れておりました」

一礼し、真祥(しんしょう)二若(ふたわか)を監視すべく足早に戻った。

佑茜(ゆうせん)はぶらぶらとした足取りでその後に続く。

書琴(しょきん)達を出迎えた宮の男は、主の姿にホッと表情を弛めた。

佑茜(ゆうせん)は鷹揚に頷き、仕事に戻るよう身振りだけで指示をして男を追いやった。

男は主の横に立つ真祥(しんしょう)に顔を顰めながらも、自分の持ち場に戻っていった。二若(ふたわか)の私室前で二人は並んで陣取り、その中の様子を窺った。

私室の中では、未だ書琴(しょきん)二若(ふたわか)を攻め立てていた。

書琴(しょきん)の連れてきた官吏は、ややうんざりといった雰囲気を漂わせている。

皇帝の命で書琴(しょきん)を拘束し取調べをしている彼らには、書琴(しょきん)のこの行動はただの苦し紛れにしか思えなかったのだ。

それに巻き込まれた二若(ふたわか)へ僅かばかりの同情の念を抱きつつも、相手は皇子の為そのような事はありえないと一刀の下に切り捨てることも出来ず、仕方なく書琴(しょきん)に付き合っていたのだ。

かといって、官吏からすれば二若(ふたわか)とて身分の高いやんごとなき人物である。

書琴(しょきん)の言葉を鵜呑みにして、問答無用で拘束する事が出来る相手ではなかった。

何らかの証拠品や証言が有るのならばともかく、このような言い掛かりで引っ張っていく事は、断じて出来ないのだ。

「ですから、何故わたしが女だということになるのですか」

「お前が本物を弑して成り代わったからと言うておろう! そうやって国を手に入れた次は、帝国か? それともテグシカルバに擦り寄って、上手い汁を吸おうと言うのであろう?」

「どのような証拠あってその様な戯言を仰るのか。私は他の誰でもない本物ですし、姉は国で私に代わり政を治めております」

「証拠か? そのようなもの、そなた自身が証拠であろう。違うと言うのであれば、そなたが男だとこの場にいる全員に証明してみてはどうだ。最も、その様なことできはせぬだろうがな!」

ハハハと嘲りも露に書琴(しょきん)は嗤った。

二若(ふたわか)はため息をつき、肩を落とした。

それを見て取った書琴(しょきん)は、それ見たことかと勝ち誇って背後にいる官吏達を見やる。

「私が男だと、証明すればよろしいのですね」

二若(ふたわか)のその言葉に、書琴(しょきん)は出来るものなら好きにしろと言い放った。

寝台の上に身を起こしていた二若(ふたわか)は、掛け布を押しやり帯を解き夜着の前身ごろを開いた。

二若(ふたわか)は肌着など身につけず素肌の上から夜着を纏っていたため、裸の胸が公衆の面前に晒された。

止めなければと身を乗り出していた真祥(しんしょう)は、そのまっ平らな胸を目にして驚愕を浮かべた。

女だと言い張っていた書琴(しょきん)も、唖然としてそれを見つめている。

成り行きを黙ってみていた官吏達は、やはりといった様子で眉を顰めた。

「なんだと!?」

二若(ふたわか)書琴(しょきん)の驚きに片方の眉を上げ、いった。

「納得していただけましたか?」

「そんな……、そんなはずはない……!」

「まだ足りぬと仰るのでしたら、下のほうもお目に掛けますか?」

皮肉気な二若(ふたわか)のその言い様に、書琴(しょきん)の背後に控えていた官吏の中で年かさの者が進み出て、首を振った。

「その必要はございません。紘菖(こうしょう)様が男性だと皆納得いたしました。御怪我をされたばかりで御休みの所お邪魔しまして、申し訳なく思います」

「貴公らにしてみれば致し方のないことだと理解しておりますゆえ、気に病まないでいただきたい」

「寛容なお言葉ありがとうございます」

「これにて私の疑いは晴れたと、思って良いのでしょうか?」

「勿論でございます。お騒がせし申し訳ありませんでした。ささ、書琴(しょきん)殿下これでお気が済まれましたでしょう。どうぞお戻りください」

その官吏に半ば引っ立てられるようにして、書琴(しょきん)は連れて行かれた。

書琴(しょきん)は諦め悪く、そんなはずは無いと誰にともなく訴えていたが、その言葉をまともに受け取る者はいなかった。

佑茜(ゆうせん)真祥(しんしょう)は、書琴(しょきん)一行が戻る際に姿を見られると面倒だと、早々にその場を立ち去っていた。


☆★☆★☆★☆★☆


「どういう、事だ? 紘菖(こうしょう)様は……」

佑茜(ゆうせん)の居室に戻り、真祥(しんしょう)は言いかけたが、途中で口を閉ざした。

「どうした? ”二若(ふたわか)”が、何だと言う?」

佑茜(ゆうせん)真祥(しんしょう)と連れ立って二若(ふたわか)の部屋へ足を伸ばしたのも、その反応をつぶさに見届けるため。そう、彼は気が付いてしまった。

いっそ楽しげと評してもよい主の様子に、真祥(しんしょう)は再び冷や汗が噴出してくるのを感じた。

佑茜(ゆうせん)は強張った表情の真祥(しんしょう)をただ観察している。

ある種の確信を持った声音で、佑茜(ゆうせん)真祥(しんしょう)に問うた。

「お前は、いったい何を見た?」

口の中が緊張で乾ききっていたが、真祥(しんしょう)は言葉を搾り出した。ここで偽りを口にすれば命はないと、佑茜(ゆうせん)の眼差しは真祥(しんしょう)に、そう思わせた。

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