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偽りの王  作者: ゆなり
57/122

五十六

 突然起きた激しい物音に、何事が起きたのかと従者達はすぐさま駆けつけた。

「若様! 何事ですか?」

「ご無事ですか!?」

 手に手に己の武器を携え、足音も高く駆けつけたのだ。

 変事が起きているのであれば、侵入者の意識を自分達に向けさせ主である二若(ふたわか)の助けとなるためであったし、人がこれから駆けつけるのだと見せつけ襲撃を諦めさせるという目的もあった。

 全ては二若(ふたわか)の助かる確率を少しでも上げるためだけの行動だった。

 犯人を捕まえたりその裏に繋がる人物を特定する事などは二の次なのだった。

 そうやって駆けつけた従者達が見たのは、荒れた室内に事切れた黒尽くめの男だけだった。

 本来ならば部屋にいるはずの彼らの主の姿はなかったのだ。

 黒尽くめの男は頚動脈に太く長い針が刺っており、他に外傷らしい外傷はないのに、血が床の上に落ちていた。

 尋常な事態ではないとすぐさま判断し、従者達の内の一人がすぐさま主の上司、つまり宮の主である佑茜(ゆうせん)に報告に走った。従者達だけでは力不足だとすぐさま見て取ったのだ。

 力不足ならば他に助力を請わねばならない。この場合それに相応しい相手は、佑茜(ゆうせん)以外にありえなかった。いずれこれが主を不利な事態に追いやるのだとしても、今現在は佑茜(ゆうせん)の力がどうしても必要な場面なのだとそう判断したためだった。

佑茜(ゆうせん)様にご報告する」

「……、わかった。耀(よう)、気をつけろよ」

「俺と(れい)は先に付近を捜索している」

 残った二人は近辺を探った。他に襲撃してきた者の仲間がいる可能性がある中、酷く緊張しながらの捜索だった。だがそれでも、佑茜(ゆうせん)に報告する任よりは、かなり気の楽な作業だった。

 二若(ふたわか)の部屋を出て真っ直ぐに佑茜(ゆうせん)の居室に向かった耀(よう)は、緊張に顔を強張らせながらその部屋に入った。

 寝入っている筈の宮の主である佑茜(ゆうせん)は、鋭い眼光でもって耀(よう)を迎え入れた。

 召使に手伝わせ、既に寝巻きから普通の服に着替え終わる所であった。

「怪我をしたのか」

 抑揚のないその声音に、耀(よう)は冷や汗をかいた。

 耀(よう)には誰のことを指しているのかすぐさま理解した。彼の主である二若(ふたわか)は怪我をし身動きできないから、自ら報告する代わりに従者を遣わしたのかと、佑茜(ゆうせん)は言っているのだ。

 一拍だけ答えにつまりすぐさま意を決して口を開いた。

「室内には襲撃者と思われる男の遺体があるのみで、若様のお姿が見当たりませんでした」

 それだけを聞き、佑茜(ゆうせん)はすぐさま身を翻して部屋を出て行った。

「お前は捜索に戻れ」

「は、はい」

 追いかけようとした耀(よう)は、機先を制するようなその台詞に辛うじて返事を返した。

 報告を受けた佑茜(ゆうせん)はすぐさま捜索隊を組織し、二若(ふたわか)の行方を捜したがその姿は見つからなかった。


☆★☆★☆★☆★☆


 明け方になり、行方不明であった二若(ふたわか)は自力で宮に戻ってきた。

 捜索隊に加わっていた従者達は知らせを受け、急ぎ戻ってきた。

 従者達が見たものは、荒れたままの部屋の中、長椅子にグッタリと身を持たせかけている二若(ふたわか)の姿だった。

「若様!」

「いったい何があったのですか!?」

「お怪我はありませんか」

 従者達は口々に声をかけた。

 捜索隊の指揮を執っていた佑茜(ゆうせん)も息を切らせて駆けつけてくる。

 その頃には耀(よう)二若(ふたわか)の腕の傷を治療し、譲と(れい)は着替えのためにバタバタと走り回っていた。

 佑茜(ゆうせん)二若(ふたわか)の姿にニコリともせず厳しい表情のまま詰問した。

「どういうことだ?」

 低いその声に、従者達は身をすくませた。

「賊に教われました。一人は倒したのですが、多勢に無勢。逃げるのが精一杯でした」

 二若(ふたわか)はかすれ声で言った。

「ほう。その賊はどうした」

「何とか撒いて戻ってきた次第です」

 佑茜(ゆうせん)はそれを信じた様子ではなかったが、よく休むよう言い置いて部屋を出て行った。

 従者達はほっと息をつく。

 二若(ふたわか)はその後姿をジッとみていた。

 二若(ふたわか)の部屋を後にした佑茜(ゆうせん)真祥(しんしょう)を呼び出した。

紘菖(こうしょう)様はどうでした? 怪我は?」

 他の者と同じ様に捜索に参加していた真祥(しんしょう)は、息せき切って尋ねた。

 佑茜(ゆうせん)からギロリと険しい眼差しを向けられ、真祥(しんしょう)は口を閉ざした。

 いつになく不機嫌なその様子に、真祥(しんしょう)はそれ以上訊ねる事ができなかったのだ。

「お前はこのままアレの動きを見張れ。何をしているか逐一報告しろ」

「……なんだって?」

 真祥(しんしょう)佑茜(ゆうせん)の命令が信じられずに聞き返した。

「見張れ、といった」

「それは紘菖(こうしょう)様を、ですよね? 何でなのかと聞いていいですか?」

 絶対零度の眼差しに、真祥(しんしょう)は口を閉ざした。疑問も反論も許さないといった佑茜(ゆうせん)の様子に、渋々頷いたのだ。

「わかりましたよ。御心のままに」

 真祥(しんしょう)はふと気が付いた、というように疑問を出した。

「ところで、稼祥(かしょう)様にはお知らせしないでよいのですか」

「必要ない」

「ですが、」

「知らせようものなら、あいつは自分の婚礼を放り出して戻ってくる。今はまだあいつが戻ってこなければならないような事態ではない。だから放っておけ」

「後で知らされたら、幾ら稼祥(かしょう)様でもお怒りになりますよ」

 真祥(しんしょう)の指摘に対する佑茜(ゆうせん)の答えはなかった。

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