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偽りの王  作者: ゆなり
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五十三

 やらねばならない諸々について、優先順位を付ける事からはじめた。

 勿論全て片付けてから逝きたいとは思えど、現実問題として時間が足りない。

 ならば優先順位をつけて片付けていくしかなかろう。

 また、優先順位は高くとも時間内に解決できそうに無く、その分他の順位の低い物に労力を振り分けた方が良い物、労力を振り分けるのではなく最悪の場合を想定して準備をして置くべき物、優先順位は低くとも手間のかからない物はなるべく片付けるといった事も考慮に入れての作業割り振りだ。

 最優先かつ重要なことは、玉印の行方を探ること。祖国の命運がかかっているのだからこれは譲れない。

 しかしそれを持っているであろう相手が白牙では、見つけられる可能性はかなり低い。

 簡単に見つかるのならば、手の内の者を白牙という集団へもっと楽に潜入させることが出来た筈だ。しかし白牙という集団に手の者を潜入させるどころか、その組織の一端すら掴めなかったのだ。だから玉印を取り戻す事は、望み薄だと言うのは判りきっている。なのでこれについては代替案を用意しておくこととする。

 次はこの飾り布を使った人物の正体。

 だが……、私はこれを放置することとした。

 命が残り僅かと判っていなければ、何をおいても探ったと思う。だが、その人物がちょっかいをかけてきてもあと最大一月少々の時間耐えればよい。例え女と知られているのだとしても、それを明らかにされる前に私が死んでしまえば関係の無いことだ。私の死体もきちんと始末すれば、それが公になるなどという事はありえない。

 ある意味禍根を残すものだと理解もしているが、他にも労力を割かねばならない事が山積みの状態では、かかずらっている余裕はありはしなかった。

 飾り布の次に優先されるのは、朱晋(しゅしん)についてだ。

 折角の機会なのだから、彼には私の道連れとなってもらう。ついでに第五皇子にもお付き合い願うとして、そのための工作をしておかねばならない。

 そのためには二人の動向を探り、私にとって都合のよい行動を取ってもらう。

 この二つの件だけで私の動かせる人員は手一杯になるだろう。

 殆どは個人的に契約している者達ばかりだ。

 彼らのような優秀な人材は貴重で、私の死と共に失うのは痛い損失であるし、彼らを路頭に迷わすことも気が引ける。

 私が死んだ後に彼らが希望すれば、妹に召抱えてもらえるよう手を打っておくつもりだ。

 他にも用意しておかねばならない書類や、準備して置かなければならない物品もある。

 基本的にはこの宮でふんぞり返って指示を出すだけではあるが、彼等のもたらす情報を能動的に判断しそして新たに指示を出したり、書類を用意したりとすべきことは多い。

 その上、私の後を任せられるよう、かつ、周りに気が付かれない様に、真祥(しんしょう)へ仕事を引き継いで置かなければならない。

 毎日深夜までかけて机にかじりつき、寸暇を惜しんで仕事をこなす事となった。

 佑茜(ゆうせん)の部下としての仕事や、祖国から送られてくる決済すべき書類など通常の処理に加え、視察に行っていた間に溜まっていた分、そして白牙捕獲騒動による始末書の作成等々があり、処理しても処理しても終りが見えないような状況だったのだ。

 私が死んだ後に混乱を招かないための準備をせねばならず、ただでさえ時間がない状況だというのに、白牙関連の仕事までが増大していて、私の手に負えなくなってきていた。

 手が回らないと言う理由をつけて、真祥(しんしょう)に無理矢理私の仕事を手伝わせる口実にはなったのだが、逆に真祥(しんしょう)に手伝わせている事を理由に、時間的余裕はあるはずだと言いがかりを付けられ、更に佑茜(ゆうせん)に剣の特訓を受ける事となってしまったのだ。

 早朝の玉祥(ぎょくしょう)との練習は今まで通りで、代英(だいえい)が参加するようにはなったがすべき事が変ることではない。

 しかし佑茜(ゆうせん)はその早朝練習だけでは不十分と言い、夕刻の日が少し翳り始めた頃に直々に手ほどきを受ける事となったのだ。

 だが、連日ギリギリの睡眠時間で動いている私には、その特訓に体が付いてこなくなってきていた。

 目の下の隈は日に日に濃くなり、疲労は蓄積されていくばかりで、体が鉛のように重かった。

 万全の状態であっても佑茜(ゆうせん)には手も足も出ないと言うのに、その様な状態でまともについていける筈も無く、無様に打ち据えられ防戦一方だった。

「どうした。そんなことでは守れる物も守れんぞ」

「くっ」

 言葉と共に振り下ろされる佑茜(ゆうせん)の重い一撃を真正面から受け止め、押し切られそうになる中それをギリギリの所で踏みとどまって受け流した。だが受け流した私自身にあまりにも余裕が無く、勢い余って体勢を崩してしまった。

 そこへ受け流した筈の佑茜(ゆうせん)の剣がすぐさま斬りあがってきて、柄頭が顔面へと迫った。

 私は酷く体勢を崩していたため、それを防御する暇など無かった。

 咄嗟に剣から片手を離し、その空いたほうの腕で顔面を盾にして顔面への直撃を防いだが、ただ直撃を防いだだけで勢いは全く殺す事ができず、弾き飛ばされ地面にもんどりうって転がった。

 すぐさま立ち上がるべく身を起こしたが、眼前に切っ先を突きつけられて動けなくなった。

「一回死亡、だな」

 佑茜(ゆうせん)は無表情で告げる。

「帝都を離れている間、鍛錬を怠っていただろう。以前と比べて鈍りすぎだ」

「返す言葉もございません」

「そんな状態で油断を招くなど、お前はそんなに死にたいのか? 部下がそんな情けない事だと、俺の顔が潰れるのだと……」

 くどくどと佑茜(ゆうせん)は嫌味交じりの説教を述べていた。

 私はただそれを項垂れて聞いているしかなかった。

 何故こんな事になっているかと言うと、視察時に襲撃されて真祥(しんしょう)が居なかったら危なかったのだと告げてしまったせいだ。

 けしからんと、強制的に特訓させられる事となったのだ。

 そんな時間的余裕の無い私は、勿論抵抗した。

「しかし、未だ白牙も捕まっておりませんし、かの騒動の為に書類も山積みになっております」

 尤もらしい私のその言葉は、あっさりと却下された。

「お前は真祥(しんしょう)に手伝わせているだろう。訓練を受ける程度の時間はある筈だ」

 そう返されると反論の余地もなく、結果、稽古という名の扱きを受ける事となったのだ。

 特訓が開始されてから既に一刻ほどの時間が経とうとしていた。

 体力温存して逃げの一手を打ち続けていたのだが、相手をしている佑茜(ゆうせん)の体力は化け物級で、軽く汗をかいた程度でしかないとうのに、反面私のほうは足元がフラフラで、手に力が入らず構えているだけで大変な状態だった。

 まともに打ち合える筈もなく、あっさり吹き飛ばされてしまったのだ。そのあまりの衝撃に腕はしびれていた。

 言い訳にしかならないが、せめて白牙関連の仕事が無ければもう少し睡眠も取れるし、精神的にも体力的にも負担は軽く、ここまで一方的に打ち込まれるなんて事も無かった筈なのだ。

 あと僅かのことと理解していても、これから一月ほどの激務を思い気が遠くなりそうだった。

 心のそこから忌々しい白牙め。

 奴が黄泉路へやって来たら、その時はこの恨み、全部ぶつけてイビリ倒してやる。

 八つ当たり気味な恨みつらみを募らせていた。

 そもそも奴の、白牙のせいで私は非常に迷惑をこうむっているのだから、その位の嫌がらせは許される筈だ。

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