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偽りの王  作者: ゆなり
51/122

五十

 視察についての報告等一段落がつき、今度は佑茜(ゆうせん)の執務室へと移動して、私がこちらの現状を訊ねる番となった。

「賊に手傷を負わされたとのことですが、克敏(こくびん)様のお怪我の程はいかがなのでしょうか」

「心配ない。怪我といってもかすり傷のような物だ。とっくに復帰して軍務についている」

「そうでしたか。して、賊の方は」

 玉祥(ぎょくしょう)が眉を八の字にして情けない表情を浮かべた。

「訊いていると思うのだけれど、白牙(びゃくが)の捜索に全力を挙げているんだよ。けど、なかなか尻尾がつかめなくてね」

 さもあらん、だ。

 私があれだけ探って全く全容をつかまえる事が出来なかったのだ。そう簡単に手がかりを得ることは出来まい。

「普段えばり散らすだけで何の役にも立っておらん宗南(そうなん)の手の者が、点数稼ぎとばかりに張り切っている所為で、民とのいざこざが絶えない上に、それらへの陳述が全部回ってきていて仕事にならない。こちらの管轄にまで横槍を入れてくるから、隊士達もあちらの者達と一触即発の状態だ」

 佑茜(ゆうせん)の心からのぼやきは、とても珍しいことだった。

 いつもなら適当に書類仕事を放り出してフラフラしているのに、真面目に机に向かって仕事をしているのは、それだけ処理しなければならない書類が多い所為だろう。

 私達の元にまで上がってくる書類がそれだけ多いと言うことは、下の混乱はさらに酷いという事に他ならない。

 第三皇子宗南(そうなん)は、佑茜(ゆうせん)と同じ様に王都の警備隊を取り仕切っている。

 だが、その配下の人材は酷いもので、仕事はしない上に普段は威張り散らしているばかりで、街の者から非常に煙たがられているのだ。

 佑茜(ゆうせん)配下の王都の警備隊も、とばっちりで白い目で見られることも多く、私達にとっても頭痛の種であった。

 現在は王都の警備隊の制服は、佑茜(ゆうせん)配下と宗南(そうなん)配下の者では全く別物なので、多少は区別して貰えているのが救いだ。しかし、その役立たず共がいきなり職務を遂行しようとしても、普段何もしていない分際で知識・技術・能力があるはずもなく、街の者達に迷惑をかけるばかりで物の役に立っていないという事だ。

「こんな下らん陳述書に一々目を通すなど、うんざりだ。さっさと代われ」

二若(ふたわか)は旅から戻ったばかりで、少しは休ませて上げませんと」

 苛々として言う佑茜(ゆうせん)を、玉祥(ぎょくしょう)が宥めた。

「いや、大丈夫だ。気を使ってくれてありがとう、玉祥(ぎょくしょう)。私一人のんびりなど出来ないし、旅装を解いたらすぐ取り掛かる」

「無理はいけないよ」

「大丈夫。任せてくれ」

 心配げに顔を曇らせた玉祥(ぎょくしょう)に、大丈夫だと頷いて見せた。

「何でもいいから早くしろ」

 対する佑茜(ゆうせん)は面倒くさそうな様子を隠しもしない。

 私と玉祥(ぎょくしょう)は目を見合わせ苦笑してしまった。

「それでは後でな」

「急がなくていいからね」

 玉祥(ぎょくしょう)に見送られ、佑茜(ゆうせん)の執務室を後にした。


 真祥(しんしょう)と話をしたかったが、それよりも急いで出さねばならない指示などがある。

 幾分申し訳なく思いながらも、そちらを優先し、自室に真っ直ぐ向かった。

 部屋では、久しぶりに従者が三人揃い待ち構えていた。

「お戻りをお待ちしておりました」

 先に帝都へ戻っていた耀(よう)が口火を切った

「お前もご苦労だったな」

「とんでもございません」

 旅装を脱ぎながら文机へと足を動かした。

 脱いだ衣装は傍らに居る(れい)へと手渡し、代わりに渡される室内着へと袖を通す。

「何か問題は?」

 これはそういった報告が各所から寄せられているかどうかと言う確認だ。

「現在のところはございません」

 耀(よう)の言葉に頷く。

 文机に向かいサラサラと指示を書き付けていきながら、更なる問いを向けた。

真祥(しんしょう)の怪我はどうだ」

「帝都に戻ってまいりました頃には、日常生活には差し支えない程度に回復しております。それ以降、今がどのような状態かは、わかりかねます」

 見つかってしまったから、ということだろう。

佑茜(ゆうせん)様はなんと?」

「役に立ちそうだと仰せで、お引取りになりました」

 佑茜(ゆうせん)らしい物言いに、苦笑してしまった。

「若様のご指示通り、匿う事叶いませんでした。申し訳ございません」

「謝る必要などない。そうなることも十分見越していたのだからな。何があったんだ?」

「何も……。帝都に戻り真祥(しんしょう)殿を指示された部屋へお通しした直後、佑茜(ゆうせん)様御自らお出でになられたのです」

「直後、か」

 流石にそれは予想外だった。

 書き物の手を止め、耀(よう)を振り返った。

「はい。私が若様を置いて戻ったことに、不審をお覚えになられたようです」

 確かに道理だ。

 しかしそんな瑣末なことに気がつくなど、佑茜(ゆうせん)には油断も隙も見せられたものではない。

 他にも細々とした報告を聞きながら、手早く指示書を書き上げていった。

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