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偽りの王  作者: ゆなり
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四十八

 宮廷に到着し皇帝への報告を済ませると、凛翔(りんしょう)とは別れ佑茜(ゆうせん)の宮へ戻る事となった。

 執務室を出て凛翔(りんしょう)と挨拶を交わす。

「後日、御礼に窺います。若飛(じゃくひ)兄上にお伝えください」

「必ずお伝えいたします」

 ちなみに、都督は既にこの場にはない。

 皇帝への報告に、都督は同席できなかったのだ。

 凛翔(りんしょう)の側近と共に別室で待機している。

 いや、それとも待機していた、と言うべきか。

 彼は皇帝の命で既にそこから連れ出され、しかるべき処罰を受ける事となったはずだ。

 皇帝の指示を受け側使いの人間が、私達が部屋を辞する前に出て行ったから、間違いはなかろう。

「今回は大変な目に巻き込んでしまい、申し訳ありません」

「お気遣いなく。身辺にはお気を付け下さいませ」

 凛翔(りんしょう)が頷き立ち去るのを見届け、私も宮へと足を向けた。

 (じょう)(れい)が先に戻り、帰都を知らせているはずだ。

 帰ったばかりだがゆっくりしてもいられない。

 旅装を解き佑茜(ゆうせん)への報告。その後真祥(しんしょう)と今後について話し合わねばならない。

 気になるのは、無事でいてくれているかという事だ。

 佑茜(ゆうせん)に見つかっていては、最悪の場合は命がない。

 耀(よう)ならば問題ないとは思うが、人の想像の範疇外にあるのが佑茜(ゆうせん)だ。

 何が起こっていても不思議ではない。

 無事でいてくれと願いながら、宮へと足を進めていた。

 宮に戻ると、従者達をはじめ召使らと、そして真祥(しんしょう)が出迎えに出ていた。

「お帰りなさいませ」

 従者の耀(よう)が皆を代表して声をかけてきた。

 鷹揚に頷き答える。

 真祥(しんしょう)と目が合うとわずかに笑みが帰り、すぐさま他の召使達同様頭を下げる。

 一歩中に入ると、玉祥(ぎょくしょう)が満面の笑みで待ち構えていた。

「お帰り。佑茜(ゆうせん)さまがお待ちだよ」

「ああ。……執務室か?」

 並んで廊下を歩きながら問いかけると、違うと首を振られた。

「私室の方。話があるようだね」

 背後で皆と一緒に見送っている真祥(しんしょう)に目配せして言った。

 そうだろう。

 あそこに真祥(しんしょう)がいたということは、そういう事だ。

 匿っているのを佑茜(ゆうせん)に見つかって、よく無事でいてくれたものだ。

 安堵と共に不信感も湧く。

 この宮は本当に最低限の人員しかいない。

 いな、最低限の人間しか、佑茜(ゆうせん)は入れるのを認めないのだ。

 人を寄せ付けたがらず、必要だからと何とかこの人数を維持している。

 私の身の回りの世話をするものにしても、3人の従者しか存在しない。

 昔はもっと大人数いたのだが、余計な人員が側にあることを嫌った佑茜(ゆうせん)によって排除されたのだ。

 排除と言っても国許に戻ったり、不慮の事故などで亡くなった人員の補充を許されなかったりという理由だが。

 玉祥(ぎょくしょう)側も似たようなものだ。

 貴人としては主である佑茜(ゆうせん)と、その乳兄弟の玉祥(ぎょくしょう)、側付の私というごく少数人数しかいない。

 だからその世話よりも、宮を維持するための人員が大半を占める。

 下働きや召使らの各々の役割は、他の宮とは比べ物にならないほど厳格に定められ、どこで誰が何をしているか殆どの者が把握している。

 一人欠けるだけでも宮が回りにくくなるため、人員の入れ代わり自体も殆どない。

 そのくらい人を寄せ付けたがらない佑茜(ゆうせん)が、何の意味もなく人を側に置くとは思い難い。

 どんな裏があるか考えたくもないほどだ。ただでさえ精一杯の状況だというのに、これ以上抱えられるか。

 内心でブチブチと繰り言を呟いた。

佑茜(ゆうせん)さま。二若(ふたわか)が戻りました」

「……入れ」

 入り口のところから玉祥(ぎょくしょう)が中へ声をかけると、低めた声が返ってきた。

「「失礼します」」

 部屋の主は長椅子にだらしなく寝転がっていた。

 ヒラヒラと手を振って前面のいすを指し示す。

 横着なその様子に、私も玉祥(ぎょくしょう)も今更の事と反応もせず従った。

「ただいま戻りました」

「面白い事があったそうだな」

 じろじろと私の全身を眺め、佑茜(ゆうせん)は面白くもなさそうに言った。

「仰るとおり、大変愉快な目にあいましたよ」

耀(よう)真祥(しんしょう)から聞いて、無事に帰って来るか気が気じゃなかったよ。怪我もなさそうだし、安心したけど」

 玉祥(ぎょくしょう)のほうは素直に顔を顰めていた。

「心配をかけてすまなかった。一時はどうなるかと思ったが、こうして帰ってこられた」

「犯人は捕まらなかったと聞いたけれど」

「命があっただけ運が良かった」

「火事があって川に飛び込んだんだろう? 無茶をしたね」

 玉祥(ぎょくしょう)は私が泳げない事を知っている。

 だからこその言葉だ。

 いつも泳ごうと誘われても、その都度適当な言い訳を作って逃げていた事を、暗に責められている気がする。

 時間を見つけて泳ぎの特訓とか言い出したらと、内心では冷や汗ものだ。

「コイツの運の良さは折り紙つきってことだ」

 佑茜(ゆうせん)は皮肉な口調で言った。

「犯人の見当は付いているのだろうな? その、目的も」

「…………恐らく、皇太子殿下かと思われます。標的も私ではなく、凛翔(りんしょう)様であったのではないかと、推測しております」

「そんな事だろうな」

 事も無げに佑茜(ゆうせん)は言った。

 玉祥(ぎょくしょう)は嫌そうに顔を顰めていた。

「宮廷はこれから荒れる。警戒だけは怠るなよ」

 珍しくも皇子らしい真面目な台詞だ。

「「はいっ」」

 玉祥(ぎょくしょう)と私は居住まいを正し、揃って返事をした。

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