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偽りの王  作者: ゆなり
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四十四

「君は紘菖(こうしょう)様を信じておられるのだな」

 耀(よう)は静かに真祥(しんしょう)を見返した。

「私のためにお側を離れていいのか? 暗殺されかけたのだから、側でお守りするべきだろう」

(じょう)(れい)がおります」

「……君以外にも従者なんていたか?」

「その2人とも何度か顔をあわせておいでのはずです」

「……君とは5度ほど顔を合わせたと思っているが、他には見ていないぞ」

 耀(よう)は眉を片方上げ心外だといった表情を浮かべた。

「私とは宿舎にご忠告にみえた時以外では顔を合わせてはおりませんが」

「嘘だろ!?」

「本当です。他の4度は(れい)(じょう)のどちらかか、もしくはその両方でしょう」

「三つ子なのか?」

「いいえ。ただの兄弟です」

「道理で。よく似ているな」

「……ええ、よく言われます」

 耀(よう)真祥(しんしょう)は寄り道などをする事もなく、真っ直ぐ帝都へと向かった。

 凛翔(りんしょう)二若(ふたわか)と言う貴人も居らず、勿論それを取り巻く護衛や身の回りの世話をする人員も居らず、二人きりの旅路は早く、行きの半分ほどの日程で帝都へ到着した。

 佑茜(ゆうせん)の宮の中、二若(ふたわか)の管理している居室の内、最も奥まったところにある部屋へ真祥(しんしょう)を運びいれた。

 この部屋は使用人が寝起きするための房室で、身の回りの世話をする従者などが使うためにと、二若(ふたわか)佑茜(ゆうせん)より与えられているのだ。

 そうして何食わぬ顔で、耀(よう)佑茜(ゆうせん)へ報告をしに執務室へと向かった。

「随分と遅い帰還だな。……何があった」

 佑茜(ゆうせん)は開口一番そう口にする。耀(よう)への労いの言葉などは無かった。

 耀(よう)真祥(しんしょう)を連れ帰った部分だけ伏せ、残り全てのあらましを語り、その最後に二若(ふたわか)より託された書状の一つを差し出した。

「こちらが若様からの報告書となります」

 玉祥(ぎょくしょう)佑茜(ゆうせん)に代わりそれを受け取る。

「確かに受け取ったよ。二若(ふたわか)に怪我はないのだね?」

 訊ねるその口調はとても心配げなものだ。

「打ち身、切り傷といった軽症です。無いと申し上げても構わないかと」

 耀(よう)は丁寧に答えた。

「それは良かった。随分と大変な視察だったようだね。知らせてくれてありがとう。君も長旅で疲れただろう? 今日は早めに休みなさい。残った仕事などは、明日以降でいいからね」

 安堵を滲ませ、玉祥(ぎょくしょう)は穏やかに耀(よう)を労った。

「ありがとうございます」

 礼を述べ耀(よう)真祥(しんしょう)の待つ部屋へと戻った。

「お疲れ」

 真祥(しんしょう)はそう声をかけた。

 思わず声をかけたくなるほど疲れているように見えた。

 耀(よう)は苦笑した。

「それ程、疲れているように、見えますか」

「帝都に戻って来た時はそこまで感じなかったが、今は酷く疲れている様に見える。若飛(じゃくひ)皇子はそれ程難しい方なのか?」

「……そう、ですね。難しい、と申しますか」

 言葉を捜し考え込んだ。

 真祥(しんしょう)は首を捻った。

「ところで、こんな所に連れ込んで問題はないのか? 紘菖(こうしょう)様も居られないのに見つかったらただでは済まないだろう?」

 答えにくい事なのだろうと、真祥(しんしょう)は話題を変えた。

「こちらは佑茜(ゆうせん)様の宮ですが、真祥(しんしょう)殿が居られるこの部屋などは若様の管理している居室ですので、見つかる恐れはありません」

 耀(よう)はホッとしつつ答えた。

佑茜(ゆうせん)様……?」

「ああ、若飛(じゃくひ)皇子殿下のご幼名です。若様方は今でも佑茜(ゆうせん)様とお呼びしていらっしゃります。従者である我々もそれに倣っているのです」

「随分と変わっているな」

「……ええ」

 気を取り直したように耀(よう)は言う。

「若様がお戻りになられるまで、ご不便だとは思いますが、この部屋で過していてください」

「迷惑をかけて済まない」

「背中の傷は、若様を庇っての物でしょう? 貴殿が居られなければ、若様は生きておられなかったやも知れません。怪我の手当てなど出来る限りの世話をするのは当然の事です」

 言い様に真祥(しんしょう)は苦笑してしまった。

「そう言ってもらえると気が楽になる」

 ここには二人だけだと双方に油断があった。

「こんなことだろうと思った」

 声をかけられるまで、全く気がついていなかった。

 振り返ると部屋の入り口の所で扉に寄りかかり、佑茜(ゆうせん)が顔をのぞかせていた。

 耀(よう)は上手くやっていた。

 下働きなど宮に働く人間は誰も不審には思っていなかった。

 それなのに何故、と二人は動揺してしまった。

 さすがに真祥(しんしょう)は血の気が引いた。

 何故こんな、使用人が使うような房室に、しかも二若(ふたわか)が管理するその場所にやってきたのか、彼にはまったく見当もつかなかった。

 まさか運び込まれたその日のうちに、彼の存在が屋敷の主である佑茜(ゆうせん)に見つかるなど想定外のことだった。

 噂では暗愚の誉れも名高い若飛(じゃくひ)皇子で、この皇子が何をしでかすか、想像するだけで目の前が真っ暗になりそうだった。

 これが自分ひとり処罰されるならまだしも、真祥(しんしょう)にとっては恩人である二若(ふたわか)まで類が及んでしまうかもしれないと思ったのだ。

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