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偽りの王  作者: ゆなり
40/122

四十

 翌朝になりって、凛翔(りんしょう)と共に庁舎へと出向いた。

 随分久しぶりのような気がした。

 凛翔(りんしょう)をはじめ幾人かの顔色はあまり良くない。

 凛翔(りんしょう)の臨時の執務室に案内され、二人きりで向かい合う。

「ある程度は把握されているとは思いますが……現在の状況をお知らせします」

 随分と買いかぶられているらしい。私は仙人ではないのだから、何もかもを見通せる目など持っていないというのに。

「昨日捕らえた誘拐犯たちですが、全員処刑されました」

 凛翔(りんしょう)は重々しく告げる。

「口封じですね」

「ええ。紘菖(こうしょう)殿のご忠告を受け、急ぎ戻ってきましたが、ほんの一足遅かった」

「私の失態です。その可能性を事前にお知らせするか、誰かに伝言を持たせるべきでした」

 凛翔(りんしょう)からは微苦笑が帰ってきた。

「この程度のことは、私が初めに気がつかなければならない事です。紘菖(こうしょう)殿は私に向かい、配慮が足らないと叱って下さらなければならない位です」

 叱るだ等と、そんな事出切る筈がないというのに無茶な事を言う皇子だ。

「それで、今度の件はどのようになさいますか」

「都督は凶悪犯を処分したと言い張っています。自分はそれに一切関知していないと。証拠がない以上、私にはそれ以上追求は出来ません」

「それで私をお呼びになったのですか?」

「いいえ。もう1つ、お知らせする事があります。傅真祥(はくしんしょう)のことです。ご存知でしょうが、昨日、誰かの手のものに襲撃され、行方が知れません」

「まるで私がその行方を知っていると仰りたい口ぶりですね」

「ご存知でしょう」

 凛翔(りんしょう)はそう断じた。

真祥(しんしょう)の妹君を保護して以来、貴方の従者達の動向がわかりません。それどころか、その前から一部姿を見かけていません」

 従者達が何か工作をしていたのだろうと推察したわけだ。

 的を射た指摘だ。だがそれではまだ足りない。私に真実を話させるほどではない。

「残念ながら存じ上げません」

 ジッと私を見つめてくる。

 この程度で動揺するなどということはありえない。私は負けじと見つめ返す。

 ため息をつき、凛翔(りんしょう)は話し出した。

「共にその襲撃を受けた人間の証言によりますと、襲撃者は誘拐した妹君を引き合いに、抵抗を封じたそうです。一方的に攻撃を受け、崖下に放り出されたと。彼等はすぐさま捜索しましたが、その姿を見つけることは出来ませんでした。報せを受け、私も救助の人員を派遣しましたが、こちらも同様です。崖下には川が流れていましたので、流されたのではないかと、川を下りましたが無理でした」

「犯人は捕まらなかったわけですね」

「その通りです」

凛翔(りんしょう)様はこの件について、どのようにご沙汰なさいますか」

「……正直、考えあぐんでおります。都督が裏で糸を弾いているのは間違いありませんが、証拠がない。私の地位ならば、例え証拠がなくとも、都督を罷免する事は容易いですが、法に悖る行動はしたくありません。かといって無罪放免というのも問題かと」

 苦悩が滲み出た声音だった。

 言いがかりのような難癖をつけて、法を恣意的に運用する輩が多い事を、この方はどれほど理解されているのか。

 全ての官が凛翔(りんしょう)のように公正明大であったら、人々の暮らしは格段に暮らし易い事だろう。

 だが、凛翔(りんしょう)程の身分になると、それは逆に足枷になりかねない。国の頂点付近に立つということは、決して綺麗事だけではすまない。全ての泥を被る覚悟が居る。

 凛翔(りんしょう)の真っ直ぐさにまぶしさを感じながらも、そんなことを考えてしまった。

「少なくとも、今回の件の失態に対する責任は取らせられます。宿舎焼失、宿舎へ人員を配置しておかなかった事、また初期動作の不備に対して、次に誘拐事件についても、口封じと見られてもおかしくない行動を取った事への非難、正当な裁判を経ずに処刑した事への不法行為、真祥(しんしょう)への襲撃を未然に防げず、部下の安全を護れなかった事、上げ出せば切がありませんが、充分更迭する根拠になります」

「証拠が何もありません」

「都督自身の証言などもありますよ。それに上記に挙げた理由は、厳然たる事実です。都督を犯罪者として処刑はできずとも、その任を解くのになんら問題ありません」

「その通りですね。……判りました。その様に取り計らいます」

 不本意だろうが、凛翔(りんしょう)はそう請け負った。

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