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偽りの王  作者: ゆなり
39/122

三十九

 暫くした後、凛翔(りんしょう)が部屋に入ってきた。

美齢(びれい)を保護しましたよ」

 疲れた様子ながら、僅かながら晴れ晴れとした口調でそういう。

 凛翔(りんしょう)が保護というのだから、間違いなく安全な場所にいるのだろう。

 その事実に少しだけホッとした。

 後は真祥(しんしょう)の方だけが気がかりだ。

 恐らくはまだ現場で奮闘している従者達を思う。無事に保護できればいいのだが、従者達ならば上手くやってくれると信じていても、やはり心配は心配だ。殊に美齢(びれい)の嘆きを思えば、なんとしても無事でいて欲しい。身内が死ぬ、それも己のせいで死ぬというのが、どれほどその心を傷付け苛むか知っているだけに、そう思わずにいられなかった。

「怪我などはしていませんか?」

 と凛翔(りんしょう)に尋ねると、意外そうな顔をされた。

「まだお聞きではない?」

「ええ」

「大きな怪我はありません。ただ精神的に不安定になっているため、暫くは私が保護し、状態が安定して後帰そうと考えています」

「ならば、伯達にお預けになるといいでしょう」

「そう、ですね。私が保護するより、そちらの方が幾分気持ちも楽でしょうね」

「都督の方はいかがでしょうか」

「これから追求します」

「犯人は捕らえられたのですか?」

「無論です」

「では、その犯人たちはどこに?」

「既に収監されていますよ」

 顔を顰めそうになってしまった。収監という事は、都督の手の中ということではないか。

「でしたら、可及的速やかに、その犯人を保護してください」

「どういう……まさか!」

 凛翔(りんしょう)は言いかけ、すぐに思い至ったように目を見開いた。

 察しのいい人だ。

 だが私が指摘する前に、それに気が付いて欲しかった。

「忠告ありがとうございます!」

 凛翔(りんしょう)は部屋を飛び出していった。

 手遅れかもしれない、そう思いながらも私はそれを見送った。


 夜半になって、(じょう)(れい)が戻ってきた。耀(よう)の姿がないことから、真祥(しんしょう)は無事保護でき、そして帝都へと送られたのだろう。

「ご苦労だったな」

 二人とも酷く薄汚れ、苦労した事が偲ばれた。

真祥(しんしょう)殿は無事帝都に送り出しました」

 (じょう)が報告すると、(れい)も頷く。

「怪我が酷く、今までかかってしまいました。ご報告遅れまして申し訳ありません」

 二人の報告に私は答える。

「問題がなかったのなら言い。私はこの通り実際に動くわけにも行かない立場だ。現場を見聞きしているお前達の方が、私よりよほど正確な判断を下せるだろう」

 ここ数年、私の従者として色々な事に携わらせてきた。三人で力を合わせ相談して物事に当れば、私などいなくとも、なんら問題ない程度には鍛えてきたつもりだ。だからこそあまり心配せずに送り出せる。

 今後の事を考えると、逆にそうなってくれなければ、私が困るのだ。

美齢(びれい)凛翔(りんしょう)様の手のものに保護された後、安全な場所へ移送されました」

美齢(びれい)の方に残ったのは、(れい)か?」

「そうです」

「今頃は祭伯達(さいはくたつ)の元にいるはずだ」

「お聞き及びでしたか」

「ああ。凛翔(りんしょう)様が報せに来てくださった。読みどおり襲撃があったのだな」

 私のその言葉に答えたのは(じょう)だ。

「犯人は捕まらなかった様子です。他に真祥(しんしょう)殿の仲間と思しき者が数人負傷しましたが、どれも命に別状はありません」

「どんな様子だった?」

真祥(しんしょう)殿が一人で居る所をまず襲われました。ですが、すぐさま助っ人が現れ、加勢し出したのですが、人質の存在を仄めかされ、真祥(しんしょう)は動けなくなりました」

「まあ順当な脅し文句だ」

 私は頷いた。

「実際のところ、これを見ていたのは耀(よう)なので、私はあまり詳しくは判りません。ただ、その後の幾つかのやり取りの後、真祥(しんしょう)殿が斬られ、崖下へと突き落とされたのです」

凛翔(りんしょう)様の手の者に美齢(びれい)を任せ、私が駆けつけたとき、ちょうど崖下へと落ちていくところで、私と(じょう)とで川から引き上げました」

耀(よう)曰く、襲撃者は真祥(しんしょう)殿を突き落とした後、すぐさま蜘蛛の子を散らす勢いで現場を去ったそうで、真祥(しんしょう)殿の仲間達が崖に落ちた彼を助けようと、犯人を追うのを断念し、崖下に向かいました」

 (じょう)(れい)はかわるがわる報告していく。おおよそ想定内の出来事と見ていいだろう。

「お前達自身は、誰にも見つからなかったんだな?」

 最も気がかりな事を確認した。

「気が付かれてはいないはずです」

 (じょう)が断言し、それに(れい)も頷く。

「そうか。よく判った。他に急ぎの報告が無ければ、お前達も今日はもう休むと言い」

「都督の動向を調べなくとも良いのですか」

「そちらは凛翔(りんしょう)様が探っておいでだろう。問題ない。それに、それほどまでに疲労困憊するお前達を使うほど、私は考えなしではない」

 二人は目を見交わし、苦笑した。

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