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偽りの王  作者: ゆなり
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三十六

 何事もなければ……とは思っていた。

 だが、本当に何かあると思っていたわけでもない。万が一の場合の保険でしかなかった。正直な所、そこまで愚かな手に出るとは、考えていなかった。

 むしろこんな真似をすれば確実に今の地位を追われるのは確実で、その地位を維持しようと考えたら、絶対にとらない手段だからだ。


 都督の動き自体は予想を超える物ではなかった。

 真祥(しんしょう)を糾弾し、潔白を声高に叫び、そして対抗するように真祥(しんしょう)の証言を覆すような証人を作り出している。

 どう考えても定石通りだ。

 だがそれではまだ甘い。

 都督に有利な証言をする者は、どれも都督と関係の深いものばかりで、口裏を合わせているといわれても仕方がないものだ。

 その証言者達について、当日にどういう行動をとっていたか、下働き達に証言を求めたところ、矛盾する証言がボロボロ出てきて、信用性に揺らぎが出ている。

 正直ここまで穴のある対応するとは思っていなかった。

 伯達(はくたつ)派の人間が都督に有利になる証言をするはずがなく、それも見越して証言を捏造するべきだろうに、おかげで都督はかなりの窮地に追い込まれている。

 凛翔(りんしょう)は未だ調査を粘っているが、これ以上の証拠は出てこないだろうと思っている。後は皇帝がそれらをどう判断するかだ。

 都督と真祥(しんしょう)の主張が平行線で、その証人となりそうな者はない。法の範囲において現状でとりうる手段は、都督の権限を一部凍結し皇帝や司法の裁可を仰ぐことだ。凛翔(りんしょう)でも皇子としての強権で都督を捌く事はできるが、凛翔(りんしょう)自身はそれを是とすることはないようだった。

 この分なら私の危惧したとおりの展開にはならないかもしれないと思い始めていた矢先だった。真祥(しんしょう)の処遇に問題ないと。

「若様、美齢(びれい)の近辺を、不審な人物がうろついております」

 真祥(しんしょう)の妹の近くに張り込ませている従者達から不穏な報告が入った。

 はじめはまさかと思った。そんな事をすれば、都督は自らの首を絞めることが目に見えていた。

 だが従者達は真剣で真実だと判断せざるを得なかった。

 今現在、私のとれる手など本当に限られている。凛翔(りんしょう)からはこの件から外されている上に、護衛という名の監視が付けられている以上、私が実際に手出しする事はできない。かといって従者達を危険に晒す事もしたくない。不本意ながら消極的な手段をとらざるを得ず、非常にもどかしくあった。

「お前達の存在を気取られぬよう気をつけろ」

「対処は不要ということですね?」

「最初に申し渡したとおり、ギリギリまで泳がせておけ」

「判りました」

 部屋で一人軟禁状態で、自由に動き回れないのがかなりもどかしい。

 従者達の報告と、凛翔(りんしょう)のもたらす情報だけが頼りだった。

 都督は真祥(しんしょう)を合法的に追い落とし、その地位に固執するのではないかと私は思っていた。真祥(しんしょう)を排除しなければ、確実に都督は終わりだからだ。

 捏造などで犯罪の証拠を集めることを合法というかは別として、そういった穏便な手を使うだろうというのが私の予想だったのだ。妹に従者達を張り付かせたのは、単に保険のつもりでしかなかった。

 事実、都督は当初はそういった行動に出ていた。だが、度重なる不首尾で、それらは水泡に帰した。

 前都督を排除し、祭伯達(さいはくたつ)を失脚させたように、今回もまた直接的な手段に出たのだろう。二度同じ手が通じると思うなど浅はかにも程がある。

 従者達の報告から祭伯達(さいはくたつ)は人質をとられることをとても恐れている節があった。屋敷内には屈強な人間が幾人もつめているし、外出の際には護衛だってついてる。

 襲撃などしようものならかなり大事になるのは間違いがない。

 そこまで大事になってもみ消せるほど都督は有能ではなく、例え真祥(しんしょう)を力づくで排除出来たとしても、待っているのは破滅だけだ。

 そのぐらいの判断も出来ないほど思考が停止しているという事か。

美齢(びれい)の外出に、ずっと張り付いていました」

「潜む人員が増えています。およそ5名といったところです」

「屋敷の人員の動向を見ています。襲撃する時期を窺っていると思われます」

 刻一刻と従者達の報告は厳しい内容となっていった。

 今は都督を監視するのを中断させ、三人とも揃ってそちらにかかりきりにさせている。

「襲撃!拉致されました」

 一報が飛び込んでくる。

 とうとうやったかといった感じだった。

「被害状況は?」

「屋敷の人員は多少の怪我人程度で、ほとんど被害はありません。物的被害については外から観察した程度では判りかねます」

美齢(びれい)の様子はどうだ」

「比較的落ち着いている様子です。見たところ大きな怪我も無く、隠れ家に連れて行かれた後は、縛られ部屋に閉じ込められております。また、犯人の中に1人冷静な人間がいるようで、そこまで手荒な真似はされていません。犯人達の中にはそれに不満を持つ者がおり、内部分裂しかかっています」

「判った。引き続き監視を頼む」

 一人報告に来た伶はすぐさま踵を返し部屋を出て行った。

 緊迫した状況ながら、冷徹に事後の事を予想する。

 少なくとも、この状況ではたとえ証拠がなくとも、都督を無罪放免とする事はありえない。恐らく都督の更迭については避けられないだろう。誘拐犯を確保できれば確実に処断する事ができる。

 残るは二つの陣営の権力の綱引きだ。

 外部の人間である私の口出す事ではないし、その権限もない。あるとしたら今現在のところ凛翔(りんしょう)だけだ。

 もともと凛翔(りんしょう)とは都督は排除する方向で話し合っていた。

 都督という頭を失って、どんな暴走をするかが最も気にかかるところだった。

 今のところそういった暴走をしそうな人間は皆無ではないが、祭伯達(さいはくたつ)らの手で十分抑えることができそうな者ばかり。その点についてはあまり心配は要らないと思う。

 この騒動の結末如何によるが、犠牲者は出さずに済ませたい。可能ならば現場に駆けつけ指揮を取りたいくらいだ。

凛翔(りんしょう)は恐らく私の従者達の動きを把握している。凛翔(りんしょう)がどう行動するか読みきれないが、みすみす見逃すとも思えない。人に期待するしかないというのは情けないが、上手く収めるだろう。

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