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偽りの王  作者: ゆなり
29/122

二十九

 背中に背負っている真祥(しんしょう)が身じろぎをする。

 どうやら気がつき始めているようだ。

 これで肩を貸すだけで自力で歩いてもらえるようになれば大分楽になる。

「う……」

 うめき声が上がり、力なく垂れていた頭が持ち上がった。

「気分はどうだ」

 そのまま引きずりつつ訊ねた。

 頭を軽く振り、ようやく状況が把握できたのか、真祥(しんしょう)はギョッとしたように体を強張らせた。

 変に力が入ってしまったようで、上手く引きずれなくなる。

 仕方無しに立ち止まり肩越しに見やる。

「申し訳ありません!」

 そういって真祥(しんしょう)は身体を離そうとしたが、傷が痛んだのかふらつき、バランスを崩してしまった。

 いまだ肩越しに両腕を掴んでいた私も引きずられ、片足を突いてしまった。

「大変失礼しました!すぐ……」

 両膝をついた真祥(しんしょう)は自力で立ち上がろうとするが、力なくうずくまってしまう。

「大丈夫か?無理はするな」

 と肩を貸そうとするのだが、

「いえ。大丈夫です。お気遣いくださいますな」

 真祥(しんしょう)は妙に固辞する。

 宿舎では素直に肩を借りていたのにおかしな奴だと思ったが、あの時は火事場で今とは緊急度が違う所為だろうかと思い直す。

「遠慮はいらん。元はといえば、お前の怪我は私を庇ってついたもので、私が責任を取るべきだ。わかったらさっさと腕を貸せ」

 ほら、と手を伸ばすと、真祥(しんしょう)は躊躇いがちに応じた。

 真祥(しんしょう)の腕を肩にまわし、慎重に立ち上がらせる。

 なるべく私に体重をかけないようにしている所為で、どうしてもバランスが悪い。

 思わずふらついてしまうと、

「やはり自分で歩きます」

 とこの期に及んで遠慮しようとする。

 全く面倒な奴だ。

「つべこべ言うな。私は一刻も早く着替えたいのだからな」

 問答無用で黙らせた。

 暫し無言で夜の森を進む。

「あの、申し訳ありません」

 何がだ?と見上げる。

「助けに行ったつもりが足手まといとなって、申し訳なく思っています」

 真祥(しんしょう)は真摯に言う。

 纏う色がうっすらと見えて、本気でそれを言っているのだとわかった。

「お前がいなければ、私は今頃生きていない」

 全く律儀というかしょうのない奴だなと呆れつつも、その真っ直ぐさが私には痛かった。

「例えそうであったとしても、川原で私を捨て置いても良かったはずです」

「ありえんな。誰が盾を手放すものか。まだ安全地帯に出たわけではなく、いつ何時刺客が現れるとも知れない。そのときは充分に盾となってもらうつもりであった。ただそれだけだ」

「……」

 肩を貸して並んで歩いていると、背中がスースーした。

 先程までの背負っていた熱がなくなった所為だ。

 水に濡れた衣服が体温を奪って寒いくらい。

 早く着替えて温まらなければ風邪を引くなと漠然と思う。



 ひづめの音が響き、木の陰から姿を現す。

 騎馬の男が3人。

 どいつも武装している。

 暗すぎて顔立ちはよくわからないが、まとう色は明確な殺意。

 予想通りの展開だ。

 真祥(しんしょう)を振り払い腰に差している剣を構えるべく動き出した。

 しゃらんという音が立ち、腰元に伸ばした手が空をつかむ。

 何故!?と見ると、真祥(しんしょう)が私の剣を構えているではないか。

 振りほどこうとしていた肩に回された腕に押され、手近な木に押し付けられる。

 顔面と上半身を強かに打ちつけた。

 腕をつかんだ手は逆につかまれ、後ろ手に捻りあげられる。

 あっという間の早業で、まともに抵抗一つ出来なかった。

 刺客に気を取られたホンの瞬きほどの隙を疲れた。

 ガキンとすぐ側で金属のぶつかり合う音がする。

 空いているほうの手を木に付き身体を支えながら頭だけをねじって見やる。

 私を押さえつけている真祥(しんしょう)が、現れた刺客の剣を受け止めていた。

「何故邪魔をする!?」

 切りつけてきた刺客が怒鳴る。

 残りの2人は馬から下りて、私達を逃がさないよう取り囲もうとしている。

 ギリッと奥歯をかみ締めた。

 後ろ手に捻りあげられた挙句、木などに押さえつけられるなど、屈辱以外の何物でもない。

 ガン、ギン、ギン、と金属音が続く。

 背中に暖かいものがあり、恐らくは私の背後に真祥(しんしょう)がいるのだ。

 木に押し付けたのは背後から切られないようにするためか。

 不本意ながら真祥(しんしょう)に庇われているらしいと察せられた。

 私は大人しく守られているような人間ではないから、真祥(しんしょう)はあえてこのように強引に押さえ込むほうを選んだのだろう。

 確かにあの時、私は盾にするといったが、言葉のあやだ。

 そんな面倒な事はしない。

 しかも……どう考えても同じ陣営にいる者同士で剣を交わしているというのに、真祥(しんしょう)に動揺は全くない。

 伯達(はくたつ)の思惑など真祥(しんしょう)は知らなかったはずだ。

 なのに何故だ。

 考え込み、すぐにその理由に思い至った。

 そうか、私が“盾にする”といったからか。

 真祥(しんしょう)を“盾”と使って有効な相手が刺客としてくるといったも同然だ。

 あれだけの僅かなヒントでおおよその構図を見抜いたと見える。

 失言だったな。

「お前、伯達(はくたつ)様を裏切るのか」

 三人からの攻撃を防いでいる真祥(しんしょう)は静かに答えた。

「裏切っていない」

「だったら、そいつを寄越せ」

「俺は、この方を見捨てる事もしない」

 ギイインと一際高い音が鳴る。

伯達(はくたつ)様の元へ案内しろ。俺はこの方をお引き合わせしたい」

 堂々と真祥(しんしょう)は要求を突きつけた。

 3人は戸惑っている。

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