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偽りの王  作者: ゆなり
28/122

二十八

 都督派と反都督派という、敵対する二つの組織。

 宿舎消失。

 そして私の暗殺。

 ここにそんな大勢の人間が送り込まれたとは考えにくい。

 工作員は一人ないし二人程度だろう。

 と考えると、あの火の回り方は異常だ。

 もっと内部に詳しい人間がいなければおかしい。

 だが都督があれほどあからさまに暗殺をするだろうか。

 疑われるのは自分だと判るはずだ。

 ならば都督が疑われて得をする人間の仕業と見るのが良い。

 真祥(しんしょう)が聞いたという密談もおかしい。

 あれほど簡単に聞かれるというのは、わざとそうしたという可能性が高い。

 都督と会話していたというもう1人の人物がそれを狙っていたとしたら。

 そいつが反都督側の人間とも通じ合っていたら。

 罠にかけられたのは私であり都督であり、そして囮に使われたのが真祥(しんしょう)ということだ。

 敵を騙すにはまず味方から。

 反都督派の頭である祭伯達(さいはくたつ)の企てだろう。

 政治というものはそういうもので、私が非難するには当らない。

 むしろ犠牲者の数は最小限で効率の良い手だと誉めてもいい。

 だが、この真っ直ぐな男はどう思うか。

 真祥(しんしょう)は重要な証人でもある。

 危険な橋を渡らせる意味などどこにもないのだ。

 恐らくは火事だと知ってこの男が引き返すとは予想していなかったのではないか。

 それはつまり真祥(しんしょう)という人間の性格を読み誤ったという事に他ならないだろう。

 少し祭伯達(さいはくたつ)の評価を考えねばならない。

 人物を見極めるのは頂点に立つものにとっては必須技能だ。

 それが出来ているからこそ、そしてかなり有能な人物であるからこそ、地位を追われた今でもかなりの影響力を持っていられる。

 私はそう判断していたのだが、他に優秀な人材がいてその人物が祭伯達(さいはくたつ)を補佐しているのだろうか。

 そうでなければこのちぐはぐさが説明つかない。

 調査する時間が少なくて、いまだ祭伯達(さいはくたつ)の人物像が見えてこない。

 能力値の評価について多少再考の余地があるとはいえ、人物さえ悪くなければかなり有力候補である事には代わりがない。

 罠に嵌められたのが自分だと判っているし、そのことについては思わぬところがないでもないが、私が同じ立場であったら同じ事を考えなかったとは言えず、そこまで責めようとも思わない。

 むしろこの思い切りの良さはある意味とても好ましく感じてもいる。

 政は綺麗ごとだけでは動かない。

 もちろん綺麗である事は好ましいが、それに固執して民を悪戯に危険に晒したり苦労させるのであれば、後ろ指を差されるような行為とて私は決して躊躇しない。

 だから祭伯達(さいはくたつ)の判断には共感を覚える部分もあるのだ。

 今の状態では会うとか言う以前に消される可能性が大だが、機会があれば一度会って見たいものだ。

 これを凌げばまた別の芽が出る可能性があるが、はっきり敵対する構図となってしまった今となっては中々難しいだろう。

 少なくとも、これを生き残っても私はそれの責任の所在を追及しなければならない立場にある。

 もちろんその槍玉に上がるのは都督だが、証拠の内容によっては祭伯達(さいはくたつ)とて追求しないわけにも行かない。

 その時にどんな反応が返ってくるかと考えると少し楽しみではあった。



 もしここに現れる暗殺者がいるとしたら、考えられるのは、先程の者か、都督の手の者か、祭伯達(さいはくたつ)の手の者か、まったくの第三者だ。

 だが、先ほどの者は、本職であるがゆえに不確定な行動は取るとはあまり思えず、かなり可能性は低いだろう。

 次に第三者だが、これも居るか居ないかわからない状態で可能性は低く、とりあえず考慮外としておく。

 残ったのが都督と祭伯達(さいはくたつ)の手の者。

 宿舎消失の件から鑑みて、あんなあからさまな真似は都督の本意ではないだろうし、あの暗殺者と手を組むぐらいだから余計な人員を周りに配置しているとはあまり思えない。

 何より消火活動をしようという人員が見つけられなかったぐらいだから、大規模な人員を動員はしておらず、むしろ人を遠ざけている可能性の方が高い。

 つまり可能性としてはなくもないだろうが、都督の手の者が襲ってくると言う可能性もまたかなり低い。

 残ったのは祭伯達(さいはくたつ)の手の者。

 出来るだけ確実に命を取ろうと考えていたら、そういう人員を密かに回りに固めてあったはずだ。

 襲ってくる可能性としてはかなり高い。

 これだけ派手な音を立てているのだから、幾ばくもしないうちに見つかってもおかしくない。

 ならばどうするか。

 そんなものは決まっている。

 逃げるだけだ。

 相手によっては1人2人ならばなんとかなるかもしれないが、集団で襲われたらどれほど腕の悪い相手でも難しいだろう。

 真祥(しんしょう)が邪魔だが、一応そいつらと仲間同士の間柄であるはずだから、奴らの間に捨て置いていく事にする。

 万一都督の手の者だった場合、真祥(しんしょう)の命はないだろうし、祭伯達(さいはくたつ)の手の者でも邪魔だといわれて消される可能性はあるのだが……そこは賭けだな。

 上手く行けばそいつらに真祥(しんしょう)の怪我の手当てをしてもらえ、私は無事に逃げおおせる。

 次善の策を脳裏に浮かべながら真っ暗闇の中を進んでいた。

 最善は、今すぐにでも真祥(しんしょう)を放り出して1人行動する事。

 人目を避けて密やかに移動すれば凛翔と合流する事もさほど難しくはない。

 頭では理解しているし、そうすべき事だとも思っている。

 一国の王として、どれほど唾棄すべき手段をとろうとも生き延びる事を考えなければならない事がある。

 今回のように感情のままに自身を危険に晒すなど、王として許されることではない。

 だが、恩人たる真祥(しんしょう)を見捨てるという選択は出来なかった。

 自分の甘さに反吐が出そうだ。

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