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偽りの王  作者: ゆなり
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二十四

 見て回った施設は、都督の子飼いの部下が管理している物ばかり。

 成果だけを見れば素晴しいが、周辺住民の疲弊振りを見ると誉められない。

 そして問題があるといって案内された中には、税金を投入していながらなかなか成果の上げられない施設なども含まれていた。

 それらの報告書と共に凛翔(りんしょう)と事後の対策などを検討した結果を皇帝陛下に上奏すべく纏めてある。

「今後の体制についてですが」

「都督は残ってもらうわけには行きませんね」

「はい」

「問題は、後任ですか……」

 凛翔(りんしょう)は難しげな顔でうなった。

 いかにして州内の権力バランスを取るかということに尽きる。

 見て回った施設などからも、都督の影響力は小さくない。

 都督を排除した場合、それらの子飼いの部下達がどのような行動に出るか。

 例えこれぞと思う人物をすえたとしても、都督の配下だった者達が大人しく従うとは思えない。

 それこそよほど権力を持った人間だとか、州内での影響力が大きい人物でない限り無理だろう。

崔芝貴(さいしき)が無難なところかと思ってはいるのですが」

 凛翔(りんしょう)は難しげな顔のままその名を口にした。

「問題は、彼の実績が少ない事ですね」

 私の言葉に、凛翔(りんしょう)は頷く。

 崔芝貴(さいしき)とは、見て回った施設の中の長の一人だ。

 その施設は未だ成果が上げられないと問題になっているうちの一つだった。

 とは言え、周辺住民などとは非常に上手くやれており、成果となって現れてくるのもあとわずかだろうというのが凛翔(りんしょう)と私の見立てだった。

 政とはすぐさま成果として現れるような性質のものではない。

 目に見える形でそれが出てくるにはとても長い時間が掛かるのだ。

 逆に性急に事を動かせば、確実に周囲との軋轢が出てきて上手くいくものもいかなくなる。

 見て回った成功した施設の殆どがそれに該当した。

 農業技術研究所と言う施設では、素晴しい成果で食物がたわわに実っていたが、農業指導という名目で労働力を搾取された周辺住民達の困窮は深刻であった。

 そんなどうしようもない問題点すら隠すことなく披露するような人間達に政権を委ねるわけにはいかない。

 その点崔芝貴(さいしき)はとても実直な手腕を発揮していた。

 何よりも施設に振り分けられたお金などを私物化せずに、非常に真面目に仕事に取り組んでいるところが良い。

 様々な誘惑があるだろうが、それを跳ね除けて真面目に職務に取り組んでいる。

 これならば都督に据えても権力を私物化したりはしないだろうと思わせた。

 しかしいきなり州の頂点に立っても、現在の都督にしたがっている人間がその意を聞くかといったら、確実に造反して潰されるのが目に見えている。

 折角の有望そうな人材なのだから、じっくり力をためてもらって活躍してもらいたい。

 こんな事で潰れてもらっては困るのだ。

崔芝貴(さいしき)については、現在調査中なのですが、師と仰ぐ人物がいるようなのです」

 凛翔(りんしょう)は目線だけで先を促した。

 最初に派手な動きをして都督から目をつけられた私に代わり、視察中は凛翔(りんしょう)が矢面に立っていた。

 のらりくらりと間抜け皇子を演じながらも、色々な情報を都督から引き出している。

 ついついポロリと拙い事を口走り、それで実態がつかめたところも多々あった。

 そういう抜け目ないところは、兄の克敏(こくびん)皇子や我が主である佑茜(ゆうせん)と似ている。

 そうやって都督の相手を凛翔(りんしょう)が務めている間、私は影に控えて背後で色々と調査を行っていた。

 どこまで秘密裏に動けているかはかなり微妙ではある。

 使える手の内は限られている上に、ここは奴らの本拠地。

 ほぼ確実に私の動きは都督に筒抜けと見て間違いなかろう。

 現在は大人しくしているが、私が目の上のたんこぶであると都督も充分認識しているはずだ。

 上申書や報告書などを都督が目にしたら、私は即効で消されかねない。

 それらの報告書などは私と凛翔(りんしょう)がそれぞれ一部づつ持ち歩いている。

 例え私を排除してもその処分が替わる事はないとどれほど認識しているだろうか。

 凛翔(りんしょう)もまた、私が裏方に徹しているからと、その危険性が減じられたわけではないのだという事に、どれほど気がついているのだろうか。

「その師と言うのが既に引退した身なのですが、かつてはかなりの辣腕をふるっていた人物のようです」

「人柄の方はどうなのですか」

「まだそこまでは」

「引退、というくらいですから、随分とお年を召した方なのでしょうね?」

 含まれた言葉は、本当に年を取って引退したのかということだ。

「都督よりは年配であるようですが、本来ならばまだ現役で通用する方です」

「師と言う方が引退され、その地位を今の都督が引き継いだと、そういう事ですか」

 つまり何らかの権力闘争があり、敗北した師という人物がその地位を追われ、現在の都督がそれを乗っ取ったということだ。

 官庁舎の中でははっきりと反都督派の存在を感じた。

 確証は何もないが、恐らくそれらはその師という人物に連なっているのだろう。

 未だ重要な地位にその反都督派の人間が幾人も占めているところからも、その師という人物の影響力はかなりのものであると推察できる。

「その方の人物に問題がなければ」

 濁したその言葉に、私は頷いた。

「鋭意調査いたします」

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