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偽りの王  作者: ゆなり
20/122

二十

「お手伝いいただきありがとうございます」

 (じょう)は手伝ってくれている相手に礼を言った。

「いや。それほど急がなくとも、まだ時間はあるだろう?」

 相手は手を止めることなく困惑した様子で言った。

 凛翔(りんしょう)の護衛の1人だった。

凛翔(りんしょう)殿下にお渡しする分と、ウチの若様にお渡しする分の2部作らなければなりませんから」

 (じょう)はにこやかに答えた。

 手伝っていた護衛は首をかしげた。

「しかし、先程一度に2枚を……」

 (じょう)は人差し指を立ててシッと合図した。

 意味深な目配せを受けて、手伝いをしていた彼は黙る。

 既に1部を写し終えていて、今は2部目に入っていた。

 1部目を写す時に、紙を2重にして行っていたのだから、十分なのではないかと護衛は思ったのだ。

 最初に写した分のそれは、片割れは(じょう)の懐の中に、もう片割れは机の上でひとまとめにしてある。

 手伝いをしていた護衛は、その机のうえにあるほうの紙の内容を精査しているところだった。

 暫くもくもくと作業をしていると、女官がやってきた。

「お茶をお持ちしました。少しご休憩されてはいかがでしょうか?」

 (じょう)はにこやかに迎え入れた。

「お気遣いありがとうございます」

 根をつめて疲れていたので護衛も一も二もなくそれに賛成する。

 護衛の男と共に手早く机の上を片して書類を脇に積み上げる。

 女官はその開いた場所に茶器を並べていった。

 2人とも席についてそれを見守っていた。

「あ!!」

 ガチャン!と女官が手を滑らせて急須を取り落とした。

 机の上で無残に割れて、中に入っていた茶が豪快に撒き散らされる。

 そしてその茶は一気に机の上を広がり、脇に片してあった書類が水浸しとなってしまった。

 護衛はすばやくその紙を抱え上げたが、既に使い物にならくなっていた。

 墨が滲み判読不可能な状態となっていたのだ。

 写している最中の紙も、写し終えた紙も、原紙となる紙も、どれもが判読不可能。

 作業を継続する事はできない。

「申し訳ございません!」

 女官は床の上にひれ伏した。

 (じょう)は苦く笑って女官を立たせる。

「殿下方に報告して、指示を仰ぎましょう」

 女官は知らせてきますと慌てて走っていった。

 それを見送り、(じょう)は人の悪い笑みを浮かべた。

 護衛は厳しい顔つきのままだ。

「困りましたな」

「大丈夫。予定通りですよ」

 訝しげな顔を向けてくる相手に、(じょう)は説明した。

「都督はなんとしてもこの報告書を凛翔(りんしょう)殿下に渡したくなかったのですよ。妨害が入る事は予測の範囲内です。最悪、実力行使に出る事も考えられました。だからこそ若様はあなたを私の手伝いに貸して欲しいと凛翔(りんしょう)殿下に頼まれたのです」

 と、自分の懐を指し示す。

 唖然としつつも、彼は成程と頷いた。

「そこにあるものは、ないものとして振舞う、そういうことだな?」

「ご慧眼御見それいたします。それから、何も説明せず危険な事に巻き込んで申し訳ありません」

「なんの。凛翔(りんしょう)様をお守りする事も、その懐の中身を守ることも、どちらも我の使命。もとより護衛は側に控え万難を排すが使命で、主は態々護衛にこのような危険があるぞと一々伝えるなどありえん。そのときその状況に応じて柔軟に対処する事が求められるもの。むしろ実力行使に出られる可能性を考慮したうえでの指名とあれば、我の腕を信用しての事。誇りこそすれ責める言葉などあろうはずがない」

 (じょう)が頭を下げると、護衛は渋く告げた。

「都督はまた資料を用意する事になるだろう?」

「ええ。恐らくそうなるかと」

「その都督の出してきた資料と、どれだけ違うものか見ものであるのだな?」

 ニヤッと(じょう)は笑みを浮かべることでそれに答えた。

「楽しみな事だ」

 男達はしてやったりと満足げに頷きあった。

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