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偽りの王  作者: ゆなり
19/122

十九

「では、都督よりお教えいただいた問題地点のうち、先程上げた四地点を視察先に追加します。そのかわり当初の視察先予定であった樹丞の視察は中止とし、それに伴い大幅な視察順の変更を行う事でよろしいですね?」

 私の言葉に都督は苦々しく頷く。

 もう少し感情を隠す努力をすればいいのにと余計な事ではあるが思った。

 凛翔(りんしょう)は困ったように私と都督のやり取りを見守っているだけだ。

 特に私に注意を促したりはしないということは、彼も私の主張に理があると多少なりとも考えているからだろう。

 話に一段落が着き、出されたお茶を啜りながら体を休める事ができた。

 一応私とて凛翔(りんしょう)やその配下の人間が多少なりとも疲弊している事は判っている。

 無茶を通したのは間違いなく私なのだ。

 部屋を辞去しようとする都督を引き留め、軽い雑談をしていた。

 お互いに忌々しく思っている間柄で、顔を合わせているなど苦痛でしかないが、あえてそれを選択したのは都督に資料集めに手を加えさせない為だ。

 折角無理を押して資料集めを下っ端に命じさせたのに、都督を簡単に開放しては無意味になってしまう。

 白々しい会話を続けていると、さほど時を置かずに資料集めを命じていた官僚が戻ってきた。

 手には紙束が。

「殿下にお見せする前に一度私が確認いたします。もう少しだけお待ちいただけますか?」

 ははは、そんな馬鹿なことを許すはずなかろうて。

「いいえ。それには及びません。結構です」

「ですが、万一足りない物や、写しも必要でしょう」

「足りない資料があればまたお願いしますし、その様なお手数をかけずとも、写しは自分達の手で行いますのでご案じなさらずとも結構です」

「その様な事をご一行にさせるわけには……」

「お気遣いはありがたく頂戴しますが、そこまで固辞するとは、なにか理由でもお有りですか?」

 そりゃあるだろう。

 迷惑そうに見ていた凛翔(りんしょう)の配下も、私と都督のやり取りに不信なもの感じたのか、困惑している”色”を僅かに見せているが、さすが凛翔(りんしょう)配下だけあって、顔色でそれと悟らせない。

「とんでもありません。資料を用意していなかったのはこちらの失態ですので、これ以上無様なところをお見せするわけにも参りません」

「確かに今回の事はそちらの落ち度ですが、それを咎め立てする心算はありません。また通常業務に加えて、私達の訪れに対応するための業務などがあり、こなさねばならない執務も普段より多くなっているはずです。その上に資料の写しなどの仕事を官僚達に割り振るのは得策ではないと思っています。都督のお気持ちは有難いですが、配下の者達の健康管理も重要な職務ではありませんか?」

「仰るとおりです」

「ならば写しは私どもで取ると言うことでよろしいですね?」

 強引に頷かせ、書類を手に入れた。

(じょう)。どの位写しに時間が掛かる?」

 私の従者の1人に手渡す。

「夕方までには終わります」

 ペラペラと受け取った紙を確認し、従者は答えた。

 都督の纏う色が悪巧みをする時のものになった。

 ……本当に判り易い。

凛翔(りんしょう)様、写しが出来上がるまで時間もありますので、ご休憩されますか?それとも庁舎内の視察を致しますか?」

 最初の罠は張り終えた。

 だから凛翔(りんしょう)がどちらを選んでも構わない。

 私の希望としては庁舎内の視察をしたいのだが、さすがにそろそろ休憩に入らないと気の毒なのも判っている。

 今回に限らず、視察の時間がないのは紛れもない現実だ。

 その限られた時間に問題を洗い出し、可能な限り対処し、検討に回すなどしなければいけない。

 明日以降は各地の視察に出かけなければならない。

 庁舎内の人間関係、特に権力バランスなどの調査は今日しか出来ない。

 表面的なことしか判らずとも、実際に見て観察する事で察する事はいくつもあるのだ。

「視察を致しましょう。庁舎内を視察できるのは今日をおいてありませんから」

 凛翔(りんしょう)はあっさり言う。

 克敏(こくびん)と同様随分と生真面目な皇子なのだな。

 少しだけ見直した。



 都督の先導の元庁舎内を練り歩く。

 凛翔(りんしょう)の配下の人員は荷物の整理などで先に今日の宿へ移動している。

 護衛が数人いるだけだった。

 庁舎内を回って可能な限り官吏達に声をかけていった。

 都督には随分と後ろ暗いところがあるということと、もう一つ、この庁舎内にはそれに反発する相手が少なからずいた。

 それもかなり高位に食い込んでいる。

 話しかけた官僚達の反応でおおよその事は見て取れた。

 こういう時に自分の能力が非常に便利だと思う。

 都督に推薦された視察先の話を振ると、大概は殆ど反応がないのだが、中には侮りや警戒が見えた。

 そして反発。

 侮りは私が都督の言いなりとなるしかないだろうと言う事だし、警戒は私の派手な行動が呼び込んだもの。

 だけど反発は違う。

 都督側の人間だと思っているから、だ。

 ここには随分と色々込み入った事情がありそうだ。

 慎重に行動しなければ、どんな状況になるか、下手をすれば状況を悪化させかねない。

 民からすれば為政者側がバタバタしていて良い事は一つもなく、そしてただでさえ色々と困った事になっているだろうから、民のためにも絶対に悪化などさせるわけにはいかない。

 それを考えると調査に割ける時間も人手も何もかもが足りなかった。

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