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偽りの王  作者: ゆなり
120/122

百十九

 着替え終わり、部屋に置かれていた椅子へ腰掛けて堂々巡りの考えに想いをはせていたら、玉祥が食事の載った盆を手に戻ってきた。

「お待たせ。遅くなってゴメンよ」

 ニコニコと邪気のない笑顔で言う。

 不慣れな手つきで卓の上に食事を並べてくれた。

 物問いた気に見ていたら、彼は言った。

「色々と言いたい事、聞きたい事はあると思うけど、まずは食べてから。ね?」

 玉祥の言う通りなんだろう。グウグウと腹の虫を鳴らしていて真剣な話も無い。

 私は苦笑しつつ食事に手を付けると、無言で腹に収めていく。

 言葉など無くとも気まずさなどは感じなかった。

 玉祥態度が何時も通りだったからかもしれない。

「何から話そうか」

 私が食べ終わり、食器を提げた後、玉祥はそう言って切り出した。

「まず、二若がなぜここにいるかということからかな」

 少し悩んで玉祥はそういった。

 私も異論は無いので頷いた。

「昨夜、もう今朝といっていい時間だったかな。真祥が急にやってきてね。佑茜様からの結婚の贈り物だといって、大きな箱を運んできたんだよ。秘密の贈り物だから、僕と光美以外には見せるなって伝言付でね」

「その箱の中に入っていたのが私か」

「そう。あと手紙も入っていて、世話は光美にやらせるようにって指示まで入っていて、変だなと思ったらビックリするじゃないか。二若が女の子だったんだから」

 大げさなくらい玉祥は驚きを強調していた。

 その表情は驚くというよりも、酷く楽しげに見えた。

 しかしだ。

 私は少しだけ赤くなった。

「見たのか?」

 何がとは言わなかったが、玉祥には正確に伝わったようだ。

「僕は見ていないよ。ちゃんと光美に着替えさせてもらったから、安心してね」

 見慣れた優しげな微笑に、複雑な気持ちになった。

「怒らないのか?」

「怒る? どうしてだい?」

 玉祥は心底不思議そうに首をかしげる。

「私はずっと騙してたんだぞ。腹立たしいだろう?」

「なんだそんな事か」

 そう言って笑った玉祥に、ほんのり柔らかな色が浮かぶ。

 これは人を深く思いやる時に見せる色だ。なんだそんなことと、玉祥は本気で思っている。信じられないことに、怒りなど全く抱いていない証拠だ。

「そんな事じゃないだろう」

「僕にとっては『そんな事』だよ。二若が好きで偽っていたわけじゃないんだってちゃんと理解している。蒔恵の情勢は僕も承知しているし、当時の雰囲気とかを考えれば、全然おかしくないだろう? 本当の性別を知られたら何が待ち受けているか、子供だって理解できるんだ。秘密にするのは仕方が無いよ。それに二若が女の子だって知って、そうだったんだと色々納得もしたしね」

 その言葉に私は引きつりそうになった。

「私は玉祥に女と思われるような振る舞いをしていたのか?」

「違うよ。二若は完璧に男の子だった」

 それは喜んでよいのか、私は何ともいえない思いを抱いた。

「では何に腑に落ちた?」

「佑茜様だよ」

「佑茜様?」

 意外な名に眉を顰めた。

「そう。昔から何か変だな~って思っていたことがあったんだけど、二若が女の子だって知って、だからだったんだとようやく理解できたんだ」

「佑茜様が変?」

 いつだって佑茜は変だけど、そういった意味合いでの変ではないのだろう。

「二若は泳げないよね」

 その問いに私は頷いた。

「僕は泳げるんだよ」

「知っている。子供の頃、川でちょくちょく泳いでいただろう」

「そうなんだけど、ちょっと違うかな。子供の頃、佑茜様に泳げるように鳴れって特訓させられたことがあるんだ。ほら、うちの南には天曼川が流れているだろう? もし何かあって光美と二人で逃げ出した時に、川へ追い詰められて泳げなかったら死んでしまう。だから自分の大切な人を担いで渡れるくらいに泳げるようになれって言われて、必死に泳ぎを身に付けたんだよ」

「……知らなかった」

 一体いつの間にそんなことをしていたんだ。

「二若が里帰りしていた時の事だからね。あの時は二若がいなくてムシャクシャして八つ当たりされているのかもと思ったけど、僕の身を真剣に考えてくれていたんだろうって今ならわかるかな。それに二若のこともだね。二若が国から戻ってきた後に、泳ぎの特訓をしないのかと聞いたら、まだ小さいから可愛そうだっていってやらなかったし、何年かしてもう一度聞いたら今はそれどころじゃないって言っていた。だけどなんかおかしいなってずっと思っていた。女の子だから水に入れられなかったんだね。だって濡れて着替えるために服を脱いだらすぐに周りに知られてしまうし、かといって濡れたまま着替えないのもおかしいよね。だから二若に泳ぎの練習をさせなかったし、二若がいない時を狙って僕に特訓したんだなって思うんだ」

 玉祥の言うとおりだ。だからこそ私は川などに入らないようにしていたのだから。

 今になって思い返せば、真夏の暑い盛りに、稀に川や池に入るくらいで佑茜や玉祥が泳ぐことは少なかった。

 佑茜や玉祥が泳げるのは、身体能力が優れているだけだろうと考えていた。二人が隠れて泳ぎの特訓などしているなど、全く知らなかった。

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