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偽りの王  作者: ゆなり
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百十八

「あ、気がついた?」

 目を開けるなり、そんな声が耳に飛び込んできた。

 見やれば、人のよい笑顔を浮かべた玉祥がいた。

 思いがけない人間に、私は衝撃を受けた。なぜこんなところに玉祥がいる。

 二若は、いや、二人は手を組んでいたのか? だとしたらなぜ?

「お~い、大丈夫?」

 玉祥の声に私はぎこちなく口を開いた。

「玉祥……?」

「そうだよ。気分はどう?」

 気分……? 気分は悪くない。

 首を横に振って答えた。

「よかった。ところで何があったんだい? いきなり運び込まれてきて、僕は何がなにやら事情がさっぱり見えないのだけど」

「……ここは青稜ではないのか?」

「僕の故郷だよ」

 その返事に私は仰天した。

 青稜と玉祥の故郷は直線距離的にはさほど離れていない。早馬をつぶす覚悟で飛ばせば一昼夜で着く。

 しかし、なぜ?

 私は訳がわからなかった。

「とりあえず、食事にしようか。おなかがすいただろう?」

「そんな事は……」

 無いといいかける間に、私の腹の音が鳴り響いた。

 なんて所で鳴るんだ!

 私は羞恥のあまり片手で顔を覆った。とてもじゃないが顔向けできない。

「待ってて。すぐ用意するから」

 クスクスと小さく笑いながら玉祥は出て行った。

 顔など直接目にしていなくても、玉祥がどんな表情をしていたか目に見えるようだ。

 何時もの人のよい笑顔が更に柔らかくなって、優しさだけで出来たような笑みを浮かべていただろう。なんというか、対応が何時も通り過ぎてうっかり状況を忘れてしまいそうだ。

 玉祥と入れ代わるようにして、若い女性が入ってきた。私と年頃は変わらないだろうか。

 彼女は着替えを手にしていて、それを私へ差し出しながら言った。

「二若様、手伝いは入用でしょうか?」

 おっとり穏やかに女性は言う。

 私は彼女の申し出を丁重に断った。

 女性は使用人といった風情の人物ではない。もっと上の、屋敷の娘や奥方の様な雰囲気がある。おそらくは玉祥の身内だろう。

 着替えの手伝いに寄越したのが使用人ではなく、身内を使う理由は何か。

 極普通に考えるのならば、そのぐらい丁重に扱わねば鳴らない人間であるというのが上げられる。しかし私と玉祥に身分さは殆ど無い。使用人ではなく身内に世話をさせるほど丁重に扱う必要はない。

 となれば、使用人たちには私の存在を伏せておきたいからと考えるのが順当だ。気を失う前の状況だとか考え合わせれば、そうなるのも当然というものだろう。

 まあ、喜ばしい状況ではないというのは確かだな。

 玉祥を疑いたくは無いが……

 女性が部屋から出て行き、一人になってから受け取った着替えを広げて、私は思わず動きを止めた。

 その着替えは女物の着物だった。

 色合いは普段身に付けているものと大差なく、そのせいですぐに気付かなかった。だけどこうして広げればハッキリとわかる。これは紛れも無く女物だ。

 なぜどうしてとそんな言葉が脳裏を巡るが、すぐに頭を振って意識を切り替えた。

 どういうつもりも何も、玉祥は私が女であると知っていることを意味する。

 それにここで一人思い悩んでいても仕方が無い。情報が少なすぎて判断しようが無いのだ。

 私はその衣装に腕を通し、身支度を整えた。

 王女としての衣装なら変装で幾度も身に付けたが、こうして普段着として女物を身に付けると違和感を覚える。これで玉祥の前に出るのかと思うと何とも面映い。

 誰もいないうちに逃げ出すという選択肢もあったが、状況がある程度見えてからでも遅くないし、そもそも何もわからないうちに飛び出すなんてそれはただの無謀でしかない。これからの事はある程度状況が把握できてから動くことにしようと考えたのだ。

 誰が何の目的でここへ連れてきたのか、玉祥はある程度はなしてくれるだろう。嘘か本当かは置いておくとして、少しは状況が見えてくるのではないだろうか。だけど状況がわかったからといって、今の私に取り得る手がどれほどあるか……

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