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偽りの王  作者: ゆなり
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百十六

 佑茜(ゆうせん)との対面を果たした後、私は一日寝て過ごした。

 体調不良を押してまで済まさねばならない案件もない。佑茜が信じたか定かではないが、『三姫(さんひめ)』の部屋にやってくる気配もなく、静かに体を休めることが出来た。夕方になると毒がほぼ抜けたが、更なる服毒はやめておいた。

 今夜は臣下達も含めた宴がある。主賓の佑茜は抜け出せないだろうという計算もあった。とはいえ、それでもあえて抜け出すのが佑茜だが、この部屋の周りにある警備を抜けてまではこないだろう。人が多く出入りするという理由で、今夜は警備の兵がかなり増やされているのだ。

 実際、兵達もどことなく殺気立っている。

 まあ、二若(ふたわか)か、佑茜辺りが何かやらかしたのだろう。

 私の元まで報告が来ていないが、それほどたいした問題ではく報告するまでもないと三姫が判断したのだろう。国家存亡とか反逆者が出たといったことなら別だが、小さな問題を事細かに報告して私の指示を仰ぐなんて真似は不要だ。そんな状況で張れば国を離れて運営などとても出来ない。

 夕食を運んできた三姫に一応訊ねたが、予想通りのものだった。

「兵が殺気立っているが、何があった?」

「騒がしかった? ネズミがうろついているものだから。気に障ったならごめんなさいね」

「いや、たいした問題ではないのなら良い。佑茜はどうしている?」

 話題を切り替えると、三姫は極普通に応じてきた。

「一姫のいっていたとおり気ままに歩き回っているわ。この離れには近づかないと仰っていたけど……」

 困惑した様子の三姫に私は言う。

「探られて困るものはない。好きにさせておけ」

「ええ。そうするつもり。兵にはこの離れに近づく者は、誰であれ切り捨てよといっていますけどね」

「……助かるよ」

 誰であれというのは、たとえ佑茜であっても、その配下の者であってもという意味だ。

 それだけ用心してもらえるなら私としても動きやすい。毒をあおる必要はないし、病弱なお姫様らしく寝台の中にいなければならないということもない。

 日が落ちて宴席が始まった。その喧騒が離れたこの部屋まで届いた。

 部屋の中は既に明かりが落とされ暗闇に沈んでいる。病人がいつまでもおきているのは不自然だからだ。しかし、昼間ずっと眠りっぱなしで目がさえていた。

 暗い中ぼんやりするのもな……とそこまで考えて、沐浴でもするかと思い至った。

 着替えはしたが寝汗をかいて気持ち悪い。体を拭く湯は運んでもらえても、風呂には入れない。ずっと汗を流してさっぱりしたいと考えていた。風呂は無理でも沐浴なら出来る。禁足地の池で水浴びをすればよいのだ。この部屋からなら誰にも見られず往復できる。

 私は着替えを取り出して早速行動に移った。

 毒の影響で足元がふらついたが、ゆっくりと動けば大丈夫だろうと、鼻歌交じりに地下通路をたどった。


 小屋から出て真っ直ぐ池へと向かう。

 誰もいないのはわかっているが、周りを見渡し他に人影がないことを確認して衣を脱いだ。そしていそいそと池の中へ入り、手足の傷が水にしみた。顔をしかめてその痛みをやり過ごす。ある程度痛みが和らいだところで、浅瀬から腰ぐらいの水深がある場所に移動した。

 水は冷たく思わず身震いしてしまった。寒い季節ではない事に感謝せねばならないだろう。

 持参した手ぬぐいで体をこすり、汗を落としていく。髪も洗いたかったが、後の手入れが面倒なため今日は断念する。濡れ髪で地下道をくぐったら余計に汚れてしまうし、乾くまで長居する気もなかったのだ。

 一通り綺麗になりサッパリとしたところで池から上がる事にした。

 着替えを置いてある池に向かって歩いていたら、がさがさと茂みを書き分ける音が聞こえて私は振り返った。動物か何かだろうと思っていて、私はうかつな事に警戒を全くしていなかった。禁足地に忍び込んでくるものはまずいない。そんな思い込みもあった。

 茂みを掻き分け姿を現したのは二若と香麗だった。

 二人の姿を目に入れて、私は反射的に声を上げていた。

「キャアアア」

 自分で自分の黄色い悲鳴に驚いた。口を押さえつつその場にしゃがみ込んだ。

 私は目まぐるしく頭を働かせた。二若はまだしもなぜ香麗がここにいる?

 殺気立った兵、三姫のネズミ発言、そして香麗。

 二若を追いかけて来て入り込んだのか? そして兵に見つかり逃亡中と。香麗が二若の正体を知っていたのか。ただ後をつけて来ただけなのか知らないが……

 秘密を知られた事による影響、特に想定される最悪の事態を考え決断した。見逃そう。

 香麗の性格を考えれば、二若の抱える秘密を触れ回るとは思えない。少なくとも二若に恋着している間はないだろう。こんな所まで追いかけてくるぐらいだからその恋着がすぐ薄まるとも考えにくい。それにこの国は後二、三年の命だ。帝国かテグシカルバか、はたまた近隣のどこかに吸収される。私がそうなるよう仕向ける。

 どこかに吸収されるまでの間、二若の秘密が漏れなければよい。よしんば最悪の事態となっても私の首ひとつで片はつこう。

 香麗を二若が助けようとしている。そして今の私が命をつないでいるのは二若のお陰だ。その命を二若のために使うのも良かろう。

 私はそんな風に考え、結論を出したのだ。

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