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偽りの王  作者: ゆなり
110/122

百九

 毒も飲んで十分効果が発現し始めている。身嗜みや調度類の配置も問題ない。全ての用意が整い、客人を迎え入れる段となった。

 三姫(さんひめ)佑茜(ゆうせん)を部屋に先導して来る。

 わたしは寝台の上で横たわったまま、それを見守っていた。

 戸口からの光で逆光となり、入ってきた佑茜の表情は見えなかった。

 ただ纏う色彩がチラチラと目に映ったのだが、その意味を見分ける前に消えてしまう。体調の悪さで上手く集中できないことが原因だ。

 己の正体を気取られないために必要とはいえ、普段のように思考を巡らせる事が出来なくなる薬に、忌々しさを抱いてしまった。

 佑茜は静かな足取りで寝台側まで来た。

 病人を前にした者なら当然の配慮だが、大人しやかな佑茜は非常に不気味だった。

「お初にお目に……かかります。このような……なりで、ご無礼、いたして……おります」

 横たわったまま切れ切れに言葉を紡いだ。

「そのまま楽にしていなさい。こちらが無理をさせているのだから」

「ありがとう、ございます」

 演技ではなく体調が悪いせいで、言葉を発するだけなのに本当に息が切れる。

若飛(じゃくひ)殿下、どうぞこちらへお座りください」

 案内してきた三姫が枕元の近くに置いたイスを佑茜に進めた。

 佑茜はすんなりとそこへ腰掛ける。

 その佑茜の隣に立った三姫が、私へ腕を伸ばし額に滲む汗を拭ってくれた。佑茜は穏やかな慈愛溢れる表情でそれを見守っていた。

 ……は薄気味悪さに鳥肌が立ちそうだった。

 病人の前ならば当然かもしれないが、あの佑茜だぞ? 傍若無人を地で行く、あの佑茜が穏やかで、慈愛溢れる様子を浮かべている。これは一体何の罠だ。

 相手が佑茜ではどの様な凶悪な落とし穴が待っているか、私には予測も付かない。なんて恐ろしい。

 身体を苛む不調による悪寒だけではなく、沸き起こる恐怖に身を震わせた。

 佑茜は本気になれば、どこまでも残酷になれる。

 それ程数は多くないが、思わず目を背けたくなるような仕打ちをするところを目撃してきた。

 佑茜が私(二若(ふたわか))に危害を加える真似はしないだろう。それくらいは信じている。だが、『一姫(いちひめ)』や『三姫』に対して、そのような気遣いをするとは思えない。佑茜が本気になったら、おそらくただでは済むまい。

「わたくしに、どの様な、ご用、でしょう?」

 切れ切れに訊ねた。

「一度会ってみたいと、考えていた。これ程具合が良くないとは思っておらず、無理をさせた。許せ」

 佑茜が、許せ!?

 謝意を見せるなんてと、私は驚愕してしまった。わたしや玉祥(ぎょくしょう)がどれ程迷惑を被ろうと、大笑いはしても佑茜が謝意を見せた事などない。

 これほど下手に出るなんて、絶対に何か裏がある。何だ? 何を考えている?

 こんな小国を罠に嵌めたとて、佑茜に旨みは殆どない。この国には大した財もなければ、佑茜の権力を補強する材料にもならないし、ハッキリ言ってこの国は他国の優位に立てるような技術力もなければ、この国でしか採れない様な特産品というものもない。父王が王となる前にあった内乱の復興や再建がようやく終わって、国を建て直したばかりという状況だ。国を富ませていくのはこれからの段階で、手に入れる労力やその後の世話など手間隙を掛けるに見合う旨みは得られないだろう。

 では何が目的だ?

 一国を乗っ取るのが面白そうだったから、という理由であっても佑茜の場合は愉快犯の気があるし不思議ではない。しかし……煩わしい事が嫌いな佑茜なら、そういう悪ふざけはしそうにない。となれば狙いは国ではなく、物か人となる。

 佑茜はおおよそ人や物に執着を見せることはまずない。この国に佑茜が執着しそうといったら、『二若』くらいしかない。

 たとえ『二若』に執着していても、『三姫』に愛想を振りまく理由にはなるまい。

 ここで『一姫』や『三姫』を懐柔してもなんら意味はないだろうし、あるとしたら……懐柔して帝都へ連れ帰って、行方知れずの『二若』をおびき寄せる餌か人質にする……とかだろうか。

 別に『一姫』や『三姫』を人質なんてしなくても、人質なら三人の従者達で十分ことは足りるはずだ。

 仮に私(二若)=『三姫』と見抜いていたら、愛想など見せずに襟首掴んで強制連行しているだろう。病人に何をすると怒っても、くだらん演技はやめろと一蹴されて終わりだ。

 やはりどう考えてもおかしい。

「二若から妹は身体が弱いと聞いていたが、これほどとは思っていなかったな」

「兄が、そのような……事を申して、おりましたか。お恥ずかしい、限り、で」

 確かに言った。だが、人前に出てこない言い訳を広めるためだ。それほど佑茜に強調して話したつもりはないぞ。

「優しく気立てが良いと、誉めておった」

 それは絶対に言っていない。

「兄は、身贔屓が、過ぎるのです」

 弱々しく微笑み目を伏せた。

 己を知っている人間の前で、儚げな姫君の演技は精神的に厳しい。居た堪れない。

 恥ずかしさが凄まじい勢いで募っていた。

 毒による熱だけではなく、顔が赤くなっていくのが判った。

 全く、何の責め苦だろうか。

 佑茜が兄(=『二若』)の話題を出すのは、他に共通の話がないからだが、二若について話したい事があるせいだろう。

 普段会わない兄の知り合いが来て、そして兄の話題が出た。妹はどうする? 当然……

「兄、は……いかがでしょう? 元気にして、おりますか?」

 この問いかけがあってしかるべきだ。

 そう、私が『三姫』ならば。

 この『一姫』が『二若』の失踪を知らせていない状況なら、なおの事だ。

 これを狙って誘導したのだろうが、それを逸らす術が見つからなかった。理解していてもなお乗らねばならないなんて。

 私は内心で歯噛みした。

 佑茜が何を狙っているか判らないだけに、酷く不気味であった。

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