せかい
しろいかげは壁の隙間から中に入ってきたが、その場で静止した。私たちは適度な距離を保ちながらしろいかげを凝視した。ゆらゆらと宙を漂ってはいるが、移動する気配はない。
がっ
試しに彼が床を軽く蹴って威嚇してみる。
・・・
反応はない。
まるで私たちの姿が見えていないかのように、ただゆらゆらと宙に浮いている。
「・・もうかまう必要ないじゃない。・・行きましょ」
彼女はくるりと踵を返し歩き始めた。
「まったく、人騒がせなやつね。何なのかしら?」
「知らない」
「しかも、なんだかんだでこの塔の上のほうまで来ちゃったわ。早く帰りましょ、直哉」
あれ?
「そうだな~」
なにこれ?
「ほら、行きましょ」
フタリハトウノウエヲメザシテナイノ?
私は彼女に腕を引っ張られながら思い出す。まず彼女は機関に狙われてしまって、生きるためにこの塔をのぼる・・・はずだ。
彼はただ彼女を探していただけだ。まだふたりは何も知らないのか。
・・・おかしい。
私の記憶にこんな場面はない。
「またいつかのぼろうね、直哉」
「ああ」
帰るの?帰っちゃうの?冗談でしょ?
私はどうすればいいの?わたしは・・・
・・・・・・
瞬間、私は床に倒れた。痛みを伴いながら。お腹が痛い。
私の視界に赤い液体が見えた。
血かあ
生ぬるい液体がお腹の少し左側から、ドクドク溢れてくる。気持ち悪いなあ。
もう何も聞こえてこない。彼の声も、彼女の叫び声も、何もかも。
視界もぉかすれてきたぁ。痛い。
クラくらする。
ずずっ
私は体を横に向けた。かすれててよく見えないけど、
人。
銃。
あ、きっと女の人だ。髪長いから。
だれ・・・
あ、き・・・
パアアァンッ
私の視界は何も映さなくなった。