みらい
「・・直哉」
私は誰にも聞こえないような声で彼を呼んだ。彼は大きく目を開き、私を見ている。
「えっ・・俺の名前、なんで知ってんの。も、もしかして、華凛の友達?」
友達、
まあ、似たようなものだと言ってしまえばそれまでだけど。でも、それだと事態が悪化するかもしれないな。
私が黙っていると直哉が口を開いた。
「もしよければ、一緒に華凛を探してくれないかな?一人だとつらくてね」
「・・・・」
正直、面倒だと思った。でも何か行動しないことには、この世界から出ることはできないのだろうとも思っていた。
華凛を探すシーンは確かにあった。直哉が自力で塔の扉をこじ開けて、檻の中に閉じ込められた華凛を救出。
私は自分の記憶を再確認する。華凛はあの傘の中、頑丈な檻の中。
「あの傘の中・・」
教えたほうが早いと思った。
「ほ、本当に?ありがとう、キミ!」
直哉はポンポンと私の肩を軽く叩いた。
「じゃ・・キミも行こうよ。一人で女の子がこんな場所にいるの・・危ないよ。行こう。」
「・・・・いい」
「うんうん。良かった。じゃあ・・・・」
「そうじゃなくて・・・・嫌って意味よ。」
べつに自分が動かなくてもいいのかも。そのままシナリオ通り、二人がちゃんとハッピーエンドを迎えれば、きっと終わりよ。
私は、そう結論づけた。
「なんで?!」
「なんでって・・・・・・」
面倒くさい、と一言で済んでしまう簡単な質問だった。私は彼を《知っている。》なぜなら私はあのライトノベルの内容を覚えているから。彼は、直哉はこの街の生まれだ。華凛もそうだ。
その幼なじみが今、行方不明。心配に思う気持ちが大きくなるのは当然だろう。
ちなみに、あの傘の中には無数の罠が張り巡らされていて、二人は悪戦苦闘することになる。
だから私は一緒に行くことを拒んだのだ。
仕込みボウガンから、鉄の処女から、審問椅子まで描写されていた気がする。
「・・・・死にたくないから・・・・」
「・・・・そう」
意外な彼の反応に少し驚いた。てっきり彼のことだから、また冗談だと真に受けないと思っていたのに。
「・・でも、アイツとは幼なじみだし、やっぱり心配だから・・」
コツンッ
軽い、高い音が街に響いた。例えるなら『金属音』。
彼は辺りを見回してそれなしき物を手にとった。
その瞬間、
パシッ
私の取り、走り出した。あの傘の方へ。
「ちょっ・・何?なんなのよっ」
「いいから走って!」
彼は走りながら叫んだ。呆気にとられたような気がして何が起きたのかわからなかった。
「じゃないとキミ・・・・」
彼は言った。
「本当に死んじゃうよっ!」
と。