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であい

私は傘をじっと見ていた。否、見ているのは傘ではない、塔だ。


「まさか・・・でも・・」


私に良からぬ妄想が浮かんだ。信じたくはないが、


「ここは・・・あのライトノベルの世界だ」


誰でも一度は妄想したことがあるだろう。物語の世界に行けたらいいと、私は自分の感情を整理しようと反射的に頭を抱えた。


「ここがラノベの世界なら・・・」


静かな街が余計に静かになる。頭が真っ白になる。私はしゃがみこんだ。一体どうなっているんだ。


フルフルッ


私は何度も頭を振った。信じられない。何もかも疑わしい。夢ならそろそろ覚めてもいいじゃない?

恐怖にも似た感覚が私を襲った。


「・・・」

何も言わず私は顔を上げた。これがいまの私の精一杯の抵抗。ただ顔を上げた。

傘が私の視界に入ってきた。恐怖が更に大きくなる。


「私はラノベが好き。・・確かにそう。・・・でも、こんな・・・・こんなっ・・」


今までラノベの世界に自分が紛れたら、なんて何度も考えていた。どんなに楽しいだろうと。しかし、


「・・怖い」


かすれたような声だったと思う。私にしか聞こえないほどの叫びだったと思う。私は静寂の恐怖の中で一人、この世界に生きていた。


●〇●〇


崩壊した街はただただその形だけを残して、訪れる者を拒みはしない。


ザッ


足音が一つ響く。


ザッザッザッ


足音が連続して鳴り響く。歩行、ゆっくりと響く歩く音。


「おーい華凛かりん、どこだー。いないなら゛いない゛って返事しろよー」


青年の声が街を震わせる。青年は短い黒髪をわしゃわしゃと掻いた。返事はない。街が静寂の姿に戻る。


「うーん、どこ行ったんだ。アイツ」


青年は立ち止まり、くるりと半回転した。その目線の先には巨大な傘があった。不気味に光る灰色の主柱、その先端から遥かに伸びる物体は位置が高すぎて何なのか確認できない。放物線を描くそれは街を覆い、夜をつくる。青年は灰色に染められた空の下に佇んでいた。


「まいったなあ、アイツどこいったんだよ」


青年はキョロキョロとあたりを見回した。荒廃、半壊した家が並ぶ。


フウッ


一陣の風が吹く。ガタガタと家屋の屋根が震えだす。暗い街中に風、青年はますます彼女が心配になってきた。


「・・・はあ」


青年はめげずに歩きだした。彼女の名前を叫びながら・・・


●〇●〇


一陣の風が吹く。あたりの家屋は脆く、ガタガタと震えだした。少女はヒッと小声を漏らしながら体を小さくした。


「・・怖いよぉ」


少女は小さな家屋の中にいた。窓は乱暴に割られ、中は外に比べかなり暗い。異世界に迷い込んだ恐怖に少女はすっかり気が折れてしまった。日の光が全く差し込まない。少女は体を折って震えていた。


ザッザッ


足音。


「エッ・・ひっ」


頭を抱え込み震える少女。だんだんと足音が近くなっていくのがわかった。

耳元近くから足音が響いたところで足音が止んだ。


「・・・み、見つかった?あぁ・・私もうダメだ。きっと異世界らしく魔法か何かで殺されるんだわ。あぁ~ぁ、私死ぬなら寿命か病気がよかっ・」


「ねぇ、君」


案外、爽やかな声。まあ、罠でしょうね。いかにもラノベの世界らしいわ。

少女は丸くなったままそんなことを考えていた。


「ねぇ、君?大丈夫?具合悪いの?」


罠だ。爽やかな罠だ。どうせ顔を上げたその先にこの声からは想像もつかないグロテスクな魔物でもいるんだろう。

少女は無視し続ける。


「あの・・さ・。華凛かりんていう女の子、知ってる?」


何言ってるんだか。私にとってここは異世界よ。゛かりん゛なんて知ってるわけ・・・

かりん・・・か凛・・華りん・・華凛!

知ってる、私は華凛という名前を知っている。断片的に記憶に張り付いている女の子の姿。長い黒髪で、強気で、


「・・おかっぱ」


つい、少女はぼそっと声にだした。丸くなったまま。


「そう!おかっぱの女の子!見なかった?」


爽やかな声が何トーンか上がったのがわかった。若干の共感が生まれ、少女の肩が少し上がった。


「・・・見て・・ない・・」


目だけで正面を見る。ぼんやりと人影が浮かぶ。魔物じゃない、人間?・・・ハッとして顔を上げる。


「知ってる?」


エラいイケメンがそこにいた。しかも私はそのイケメンを知っている。名前もこの先、彼がどうなるのかも・・・


「・・直哉」


少女は彼の名前をふたりにしか聞こえないような小声で言った。

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