プロローグ
日本の首都・大和は『国の理想郷』といえる、とても美しい国だ。
人々の住む盆地を山々が優しく包み込むように重なって連なり、それはまるで神様が作ってくれた生垣みたいで……その中の蒼く瑞々しい土地に、ひっそりと佇む白木の都は、言葉ではなんとも表現し難い麗しさがある。
オオウスは見晴らしの良い丘の上から、大和の都を眺めていた。天皇が大和で国を治めるようになってからずいぶん経つが、この都は真新しい。先代の垂仁天皇が亡くなり、息子のオオタラシヒコ・オシロワケが、12代目・景行天皇として即位したため、建て替えられたばかりなのだ。
中でも、ひときわ大きく広々とした天皇の邸宅が目に入ると、オオウスは憎しみたっぷりに舌打ちをした。
「こんな美しい都、アイツには勿体ないな」
苛立ちが胸にこみ上げ、愚痴がこぼれる。
「なんであんな奴が天皇に即位するんだ。先代に『何が欲しいか』と聞かれて『皇位』と即答した、クズ人間だぞ。『天皇即位』より『魔王君臨』の方がお似合いだろうに……」
すると背後に気配がした。オオウスは反射的に沈黙する。
「失礼いたします。オオウス様、陛下がお呼びです」
景行天皇の臣下の声だ。オオウスが爽やかな笑顔を顔に貼ってに振り返ると、彼は顔を赤らめ視線を逸らした。オオウスは成人男性の髪型であるミズラを結っているものの、解けば女性に紛れていても気付かれないような綺麗な顔立ちをしている。
「父上がオレになんの用でしょうか?」
「なにやら、大事な『おつかい』を頼みたいとのことです」
「そうですか……わかりました。行きましょう」
オオウスは臣下の後ろに続き、渋々山を下った。