表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

第八章 もう一人の師範

こうしてホテル・エスペランサを円満退職した俺は、慣れない着物に袖を通し、ある茶道教室の門をたたいた。

「ごめんください。」

奥庭のほうから鹿威しの音が響いている。3度カコーンと音がして、目の前の茶色い引き戸が開かれた。

「新聞の勧誘はお断りしてる・・・ん?」

「初めまして、先生。」

「その呼ばれ方も久方ぶりだな。何の用だ、若造。」

モノクルに仙人のような白髪、少し草臥れた着流し。その男こそ、俺が師範にと思う男だった。彼も彼女と同じくホテル・エスペランサで茶会を開いたことがある。だが彼女との接点はない。そして、なにより茶道の腕前は文句のつけようがないほど美しいのだ。

「俺に稽古をつけてください、先生。」

「断る。儂は一線を引いたんだ。帰れ。」

聞く耳も持たず、扉を閉めようとする彼にしがみついて、俺は叫んだ。

「俺は恋人(になる予定)の女の子を待たせてるんです!師範になって迎えに行くって(勝手に)決めたんです!彼女も俺のこと(きっと)待ってくれているんです!俺は5年で師範にならなきゃいけないんです!先生の元でしか絶対不可能です!!」

「ふむ。」

モノクルを付けなおすと、彼は俺の腕を掴んで・・・。

「その話もっと頂戴!」

先生は根っからのゴシップ好きだった。



「で、お前は隣の商業ビルの中に入っている茶道教室の女に惚れたと。」

「はい、そうです。」

「で、師範になるためにこの庵の扉を開いたと。」

「はい、そうです。」

「儂はしばらく弟子を取っていないんじゃがの。」

「存じ上げております。」

「しかも7.8年かかるところを5年でか。」

「無理も承知の上です。」

「・・・。」

先生は黙る。それもそうだ。無茶なことを言っているのは分かっている。

すっと先生が左腕を上げた。それに合わせて奥の襖が開く。

この和室には似合わない執事服の老人。かなりのやり手だと察する。

「お呼びでしょうか、師範。」

「うむ、こいつを鍛えたい。茶室を準備しろ。」

「かしこまりました。」

「先生!」

「儂は見込みのある男にしか興味がない。盆略を披露してみろ。それから決める。」

「はいっ!」

先生が先に置くの襖の先にある茶室に入っていった。その奥には水屋があるのだろう。執事も同じように歩いて行った。俺は勢いよく返事するとそのあとに急いでついて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ