第四章 ぶっきらぼう
1ヶ月分の休暇を無事習得し、俺は彼女の茶道教室へと足を運んだ。初日、大勢の新入りに囲まれて俺はあまり印象に残らないだろう。彼女がそんなに人気だと思わなかった。でもあれだけ綺麗なんだ。それもそうか、と商業ビルの外にある喫煙所に向かった。
「ったく、今日は新入りが多いなあ。」
聞き覚えのある声に、聞きなれない言葉遣い。
ぶっきらぼうに言い放つその人は紛れもなく彼女だった。俺は深呼吸を一つして、喫煙所に入りそのまま彼女の隣に腰かけた。
タバコに火をつけ、俺は何食わぬ顔で吸う。心臓はバクバクだった。
彼女はシガレットケースをひっくり返して、タバコを探しているようだ。
しばらく見ていると、
「ちっ。」
苛立ちたっぷりに彼女は舌打ちをした。どうやら目当てのものはなかったらしい。
自分の箱から1本取り出し、彼女の前でひらひらと振ってみる。ゆっくりと視線を上げ、そしてそのまま・・・。
はじめましての俺たちがそこにいた。
「吸う?」
彼女に尋ねる。
「いいんですか?」
不機嫌そうに彼女が問う。
「これも何かのご縁だと思って。」
笑顔を二重に隠した俺はまるで道化師だ。
「・・・どうも。」
それを彼女は微塵も気にしなかった。
ふっと、レモンの香りがした。
「ゲホッ、ガホッ!」
彼女がむせ込み、口から煙を吐いている。俺のタバコはメッダの14mg。つまりタール数が14mgということになる。彼女は普段それより軽いものを吸っているのだろう。むせこんでもおかしくない。でもそれがなんだか可愛らしくて。
「あはははは!」
つい、俺は笑ってしまった。それを彼女はキッと睨んで反撃の言葉を投げてくる。
それすらも愛おしい。
しばらく話していると彼女は悪態をついたことを気にしているようでこう言った。
「このことを隠しておいてほしいって懇願でもすればいいのか?喫煙所で悪態ついていたなんて教室の評判にも関わりますからね。」
「そんなつもりじゃあないんだけどな。そうだなぁ・・・。」
好都合だと思った。なんて詐欺師とも思った。なんでもいい。彼女が、俺が彼女の隣に居られるのならそれでよかった。最初は彼女を見つけられただけでよかったのに、この一瞬で俺は強欲になった。
俺は彼女がどうしても欲しい。
生きる意味をくれた、俺の人生は無価値だと思っていた俺を変えてくれた、彼女が欲しい。
計測をする、計算をする、思考する。
5年だ。5年で彼女を手に入れる。
まずは布石の1ヶ月。
「ねぇ、センセ。俺に稽古つけてよ。」