008 その後のお姉さん
なんとか書けたのじゃー!
東京都内 某所
「うーん、今日はナニして遊ぼうかな? うーん……暇だなぁ。
こんなにやることなくて暇なら、そろそろ一度リテアにでも帰ろうかな?」
きっとエルも寂しがっているだろうし、もう私の故郷はあっちの世界なんだからね。
私はやることもなく、ふらふらと行く当てもなく都内の空中散歩をしていた。
『──どうかみなさま、大沢遥を大沢遥を、どうぞよろしくお願いいたします!
ありがとうございます! ありがとうございます!』
「うん? 街頭演説とか選挙の応援演説とかいうヤツなのかな?
それにしても、この女の人の声って…… どこかで聞いたことがあるような? ないような?
なんだか懐かしい声のような気もしますね。でも、どこで聞いた声だったっけ?
うーん、思い出せん」
思い出せないのは、なんかムズムズするから、ちょっくら覗いてみることにしますか。
私は街頭演説をしている声のする方向へと、ふわふわと飛んでいった。
『──であるからして、今こそ我々は立たねばならぬのであーる!』
パチパチパチ
聴衆の拍手に釣られて、思わず私も拍手をしてしまったではありませんか。
「うむ、そこそこの数の聴衆がいるということは、この女性の演説には耳を傾ける価値があるということなんだろう。たぶん」
最後の方しか聞けなかったし、詳しい内容までは知らんけど。
『ありがとうございます! ありがとうございます!
妖精さんもありがとうござい…って!? えー! よ、妖精さん!?』
はい、私が妖精さんです。
※※※※※※
「妖精さん、お久しぶりです! もう一度会ってお礼を言いたかったのですけど、なかなか妖精さんに会えなくて」
「妖精は気まぐれだからね。でも、お礼ってなんのことかな?」
「私のこと覚えてないかな? ほら、一緒に公園で豚汁を作ったのを」
はて? 豚汁? そういえば昔に公園で、豚汁を作って炊き出しをした記憶あるな。
あの時、炊き出しを施される側であるはずのお姉さんが一緒に手伝ってくれたっけか。
なんか、人間社会のルールうんぬんとかも言われたような気もしたけど。
「もしかして、豚汁のお姉さん? たぶん十年振りぐらいかな?」
「そそ、その豚汁のお姉さんで正解だよ!」
「あの時の豚汁と唐揚げ弁当が美味しかったから覚えているよ!」
「私は豚汁と唐揚げ弁当のオマケかい!」
メインディッシュは豚汁と唐揚げ弁当だったんだから仕方ないよね。
そう、あの時は豚汁のお礼にと、余ってた唐揚げ弁当を貰えたんだよね!
魔法でチンして温めなおした唐揚げは、ジューシーで美味しかったなぁ。
あ、思い出したら、口の中から涎が……
「それにしても街頭演説なんかして、お姉さん選挙にでも立候補するの?」
「というか私はもう既に、選挙に当選して国会議員になっちゃったのよ。
今日は他の立候補者の応援演説をしていたんだよ」
炊き出しの行列に並んでいた、あの時のお姉さんが国会議員とは、それはまた凄い出世をしたもんだ。
「へーそうだったんだぁ。私は妖精だから人間の政治に興味とかないし、全然知らなかったよ」
「妖精さんには選挙権とかないし、それは仕方ないよ」
「それにしても、十年経ってもお姉さんってあんまり変わってないよね。今流行りの美魔女ってヤツ?」
「美魔女って…… まあ、アラフォーなのは認めるけど」
お姉さんにアンチエイジングの魔法なんて使った記憶ないんだけどな。
おかしいですね?
「それよりも妖精さん、あの時に私に幸運でもプレゼントしてくれたの?」
「うん? あれから良いことでもあったのかな?」
でも、わざわざ聞いてくるということは、あれからお姉さんは運が向いてきたということなのかな?
まあ、LUCK値は少し弄って上げておいたけど、それは言わぬが花というモノでしょう。
「うん、国会議員になっちゃうぐらいには幸運だったよ」
「お姉さんも随分と出世したね!」
妖精は幸運のシンボルだから、私と一緒に居た時間が長かったから、もしかしたらお姉さんの運が上向いたのかも知れないね。
あと、情けは人の為ならず、巡り巡って自分の為。とかいう昔のありがたい格言もあることだし、お姉さんが自分で幸運を引き寄せたのかもね?
「それだけではないのよ? あの後、妖精さんと別れてから直ぐに、宝くじに当たるわ彼氏はできるわ、その他諸々おかしなぐらいに幸運が舞い込んできたのよ」
ふーん、それは少しラッキー度合いが強すぎる気もしますね。
ちょっとお姉さんのステータスを調べてみますか。
「どれどれ…… うん? なん…だと…!?」
「どうかしたの?」
「あの時、私が上げたお姉さんのLUCK値から、それよりも更に倍になっている?」
そりゃあ、選挙で当選もするわけだわ。
自力で幸運を掴み取るとは、お姉さんってば恐ろしい子!
「妖精さん、LUCK値ってなに?」
「あー、それは人間には見えない隠れステータスみたいなモノだよ」
「へー、そんなのがあるんだ」
「妖精の私にしか見えない数値だけどね」
「ふーん、まるでゲームみたいだね」
ゲームか…… ゲームとはちょっと違うけど、あながち間違いとも言えないんだよなぁ。
私が異世界であるリテアに転生して、そこから次元の壁を越えて地球に帰還しているし、リテアでは女神様が私の母親みたいな保護者だったしね。
それに、世界というのはどの世界を取ってみても、神様の箱庭というのは共通する普遍的なモノだからね。
そう、この地球に住んでいる人類が知らないというだけで。
まあそれは、ある程度文明が進んでいる地球人にとっては、知らない方が幸せなことなのかも知れないけど。
特に一神教を信じる宗教家とか発狂しちゃいそうだしね。
「でも、人間には見えないのだから、気にするだけ無駄だよ」
「まあ、それもそっか」
どうやら、お姉さんはLUCK値に関して追求することを諦めてくれたみたいだ。
人間には見えない隠れた数値だから、現世利益にはならないと判断したのかな?
「ところで、お姉さんはドコの党に所属しているの?」
「国家資本主義日本労働者党という、まだ小さな政党よ」
「それって与党なの? 野党なの?」
なんか資本を社会に変えるだけで、とても香ばしい政党名に成るような気がしないでもない。
党首は七三分けでチョビ髭を生やしている人とかじゃないよね?
あと、モルヒネの打ちすぎで薬中になったデブとか、同僚にいませんよね?
「一応は野党なんだけど、私の所属する党は政権に対して是々非々の対応かな?」
「あ、やっぱり野党なんだ」
「ほら、福祉とか貧困とかって分野は、どちらかというと今まで与党だとなおざりにされてきた部分じゃない?」
「あまり票には直接結びつかない分野だからね」
自分に投票してくれる有権者の声に優先的に耳を傾けるのが政治家だしね。
これは民主主義の欠点と言えるのかも知れないな。
それから、もう少しだけ他愛のない世間話をした後で、お姉さんとお別れをした。
「あ、結局お姉さんの名前を聞くの忘れてた……」
大沢なんとかさんは別人で、お姉さんは大沢さんの応援演説だったから、自分の名前を連呼しなかったもんなぁ。
まあ、基本的に妖精との出会いは一期一会なのだから、名前は気にしないでも、まあいっか。
完全にストックが尽きた…
来週の更新予定は未定です。