007 豚汁
ローファン日間2位が最高でしたw 一位の壁は厚かった…
前話からの続きです。
東京都内 某公園
「いらっしゃい、いらっしゃい! 美味しくて温まる豚汁が安いよー!
今なら、なんと! 妖精さん手作りの美味しい豚汁がゼロ円、タダだよー!」
「妖精さん、豚汁一杯ください」
「はい! タダだけど毎度あり~」
私は豚汁を注いだ使い捨ての丼ぶりを宙に浮かせながら、炊き出しに並んでいた冴えない容姿のする青年に手渡した。
まだ二十代っぽい兄ちゃんなのに、生活が苦しいのか。
この兄ちゃんは冴えない容姿だから、不器用な生き方しかできなくて貧困に喘いでいるんだろうなぁ。
つまり、LUCK値が低い人間は不器用で、社会への適応能力が低いとも言えるのかも知れない。
器用な人間や世渡りの上手い人間というのは、ちゃんと自分の居場所を自分で確保できる能力に長けているのであろう。
LUCK値が高いと、仮にトラブルに巻き込まれたとしても、自分で事態を打開できたりするもんね。
また、自分一人で解決できない時には、周囲の人間を使って事態の打開を図ることが出来るのが器用な人間なんだろうね。
周囲の人間を巻き込むのや人を使うのが上手いとも言うのかな?
この冴えない青年に言えることは、頑張れとしか言いようがないけど、頑張れ!
そのうち、きっと良いこともあるさ。 ……たぶん、きっと、めいびー。
妖精さん特製の豚汁には、運気アップの魔法が僅かながら入っているしね!
というか、私が作ったら魔法を使わなくても、微量だったら勝手に魔法が施されちゃうんだよ。
動物が呼吸する時に自然と二酸化炭素を吐き出すように、妖精も体内からマナが自然に漏れ出しちゃうんだよね。
そう、妖精とはリテア世界では、マナを供給して世界の調和を司る、自然を管理して維持する、移動式のマナ供給タンクの役割があったりもするのだ。
元々マナがなくて妖精もいない、この地球では知らんけど。
「妖精さん、スマホで一緒にツーショット撮ってもいいですか?」
今度はアラフォーらしき女性の順番だけど、豚汁だけでなく私とツーショットの写真を希望ですと?
厚かましい女性だな。ああ、おばちゃんだからか、納得した。
まあ、これもサービスサービスっと。
「後がつっかえてるから、5秒で仕度しな!」
「はい!」
このおばちゃんは良く訓練された愚民か?
貧乏でもそのメンタルがあれば、貴女は幸せに生きていけるよ。
あと、私も笑顔でピースサインをしておいた。
※※※※※※
「はっ!? なんで私はこんな所で貧乏人相手に、わざわざボランティアで豚汁を作っているのでしょうか?」
炊き出しに並んでいる人達の行列を捌きながら、私は我に返った。
「なんででしょうかね? たぶんそれは、妖精さんが優しいからじゃないかな?
あと、事実だけど貧乏は余計かな?」
「お姉さんも本来であれば、豚汁をタダで貰う側でしょ?」
お姉さんはビンボーなんだからとは、さすがの私でも言わないけどさ。
たった今、指摘されたばっかりだしね。
「あはは、それは成り行きというヤツなのかも知れないね」
「なりゆきかぁ」
そう、なぜだか知らないけど、お姉さんも豚汁作りを手伝ってくれているんだよね。
本来であれば、お姉さんは施しを受ける側なのに、お姉さんの根は善人なんだろうなぁ。
まあ、私は相手の魂の色が見えるから、善人なのか悪人なのか無害なのか悪意を持って近づいて来たとかは、私から見れば丸分かりではあるんだけどね。
妖精の能力は伊達ではないのだよ、伊達では。
だから、このお姉さんの魂は貧困で勝ち組の人間を妬むルサンチマンで多少は濁ってはいるけど、本質的に善人ということは判明しているのですよ。
神様以外では、妖精の眼を誤魔化すことなど出来はしないのだから。
まあ、普段は面倒だから、魂の色なんて一々見ないけどね。
こうやって面と向かってお喋りをする人の魂の色は確認するけど。
それでも、地球の人間が妖精である私に傷をつけることなど不可能なのだから、たとえ魂の色が悪人で私に害をなそうとしていたとしても、無問題ではあるんだよね。
当然だけど、害をなそうとしたら、返り討ちにはするけどさ。
というか、過去に何度かは返り討ちにしたし。
「ところで妖精さん、この豚汁の食材って何処から調達してきたの?」
「うん? 魔法でちゃちゃっと出してたのを、お姉さんも見ていたよね?」
「魔法で出したのは見て分かったけど、食材自体は魔法で作れないでしょ?」
鋭い所を突いてきましたね。
そう、お姉さんが指摘した通りであって、私の魔法では食材を作れないのは事実なのだ。
まあ、女神様だったら、無から有を作り出すことなど造作もなかったりするのだけど、私には無理なんですよ。女神様、マジチート。
それでも、私も無から水ぐらいなら出せるけどね。
それよりも、どう言い訳をしましょうか?
「ニンジンさんも大根さんも長ネギさんやゴボウさんも、
みんな、『妖精さん食べて食べて』って私にお願いしてくるんだよ」
「じゃあ、豚肉は? さすがに肉のスライスは喋れないよね?」
うぐっ、鋭い所を突いてきましたね。
どうやら、言い訳には失敗してしまったみたいだ。
「そ、それは、えーと……」
「あ、目を逸らしたし」
「しょ、賞味期限ギリギリのお肉だったから、捨てるよりはと私が貰ってきたんだよ」
ちゃんと日付を確認してから取ってきた私ってば、偉い!
これぞ、エコだね。持続可能な社会というヤツだよ。
ほら、よくNGOだかNPOだかの団体が廃棄寸前の食品をメーカーやスーパーから譲ってもらって、貧乏な人達に配ったりしているもんね。
食品ロスをなくすエコロジーってヤツだよ。
「妖精さん、そのお肉はどこから貰ってきたのかな?」
「えーと、あちこちのスーパーからちょっとづつかな?」
「スーパーだったら、その賞味期限ギリギリのお肉は、翌日には総菜やお弁当の材料になるはずですよ?」
「へー、そうだったんだ。お姉さん詳しいんだね」
お姉さんは過去に、スーパーの惣菜コーナーで働いていたことでもあるのかな?
「それに、黙って人のモノを持って行くのは犯罪です」
「でも、誰が取ったのか分からなければ、問題ないんじゃない?」
それに、私が豚肉を取ったことは人間では気づかないしね。
「妖精さん……」
「な、なんでしょうか?」
なんでだろうか?
お姉さんの額に青筋が浮かんでいるような錯覚が見えるんですけど?
「それって、泥棒や詐欺師の言い分なんだよ?」
「泥棒なの? 捨てるモノを貰うのが?」
そうだったのか? 人間の細かいルールはイマイチ覚えてないんだよなぁ。
「はぁ~、妖精さんは人間社会のルールから学ぶ必要がありそうだね」
「えぇー、面倒くさいから、パス。それに、私は妖精だし」
妖精は人間のルールには縛られない生き物なんだよ。
だって、妖精は人間じゃなくて妖精だからね!
「面倒くさいからパスだなんて、そんなのでいいの?」
「妖精は気まぐれだからね!」
デデーン!と、自分の周囲に集中線で強調されたエフェクトを無駄にばら撒いて、ドヤ顔を決める妖精さんであった。
妖精さんは芸が細かいのである。魔法の無駄使いともいう。
「はぁ~、確かに妖精ってそういう気まぐれなイメージがあるから、
もう何も言い返せなくなっちゃったわ……」
妖精の私がルールブックだからね!
このお姉さんが十年後には政治家になって、福祉や教育に貧困の撲滅等に取り組むことに成るとは、妖精である私でも知り得ない未来なのでした。
妖精さんは人間だった頃の倫理観とかは、かなり希薄です。
だから、モノを盗る=窃盗とは思ってません。ほら、妖精さんってそういう生き物ですしw
次話以降は本当に不定期更新になる予定です。