005 続、三河屋さん
不定期更新と言いつつ、毎日更新してる私ってばしゅごい。
前話からの続きです。
うるめいわしは、── ←これを使うことを覚えた!
とある田舎の体育館
「──先遣隊として私が出張ってきたということです!」
「「「おおーーっ!!」」」
被災した人達にドヤ顔で告げた妖精さんに対して、まるで訓練されたサクラのように驚きの声を上げる人々。
その反応に周囲を睥睨しながら、満足げに頷く妖精さんであった。
服装こそ自衛隊の迷彩柄のコスプレをしている妖精さんであったが、その態度はというと、滅私奉公が如き自衛隊員の謙虚さというのは、妖精さんには微塵も見受けられない。
この妖精さんは、無駄に偉そうなのである。
でもまあ、妖精だから仕方ないよね。
「早速ですけど、救援物資を出したいんだけど、どこに置きましょう?」
「あの辺りにお願いします」
リーダーっぽい中年の男性が指を差したのは、体育館の舞台であった。
「りょ-かーい。それじゃあ、取り出すよー! まず最初は……
毛布! 布団! 枕! 水! 米! 野菜! 肉! カレー粉!
鍋! 大型飯盒! 携帯コンロ! ガスボンベ! 調理道具一式!」
「「「おおーーっ!!」」」
妖精さんは、唐草模様の風呂敷から次々と荷物を取り出した。
どう考えても、風呂敷包みに収まる容量ではない。
その様子を見ていた、体育館に避難している人達から歓声が上がる。
「フリーズドライの味噌汁! カップラーメン! 使い捨て食器類!
乾燥パスタ! スパゲッティの具! 缶詰諸々! お菓子諸々!」
「「「おおーーっ!!」」」
「赤ちゃんもいるから、粉ミルク! 哺乳瓶! 赤ちゃん用紙オムツ!
老人もいるから、大人用紙オムツ! タオルにバスタオルにナプキン!」
「「「おおーーっ!!」」」
「包帯に三角巾! 傷薬に消毒液! 正露丸と胃薬! 簡易医療キット!
風邪薬に解熱剤! 化粧水と乳液! ハンドクリーム! 湿布薬!」
「「「おおーーっ!!」」」
「発電機! ガソリン入り携行缶! 石油ファンヒーター! 灯油!
LED投光器! ペットフード! トイレットペーパーにティッシュ!」
「「「おおーーっ!!」」」
次から次へと風呂敷包みから緊急物資を取り出していく妖精さんの姿に、避難している人達の語彙力が低下してしまった。
初めて魔法を見たのだから、この反応は仕方がないのかも知れない。
ちなみに、わざわざ風呂敷包みから物資を取り出しているようにみせているのは、ただ単に妖精さんのこだわりの演出である。
妖精さんは無駄に芸が細かいのだから。
「それと、コンドーム!」
「いや、こんな非常時にコンドームは……」
「コンドームいらないの?」
「「「いりません!」」」
生殖可能な年齢にある多数の女性にツッコミを入れられる妖精さんであった。
どうやら、体育館でチョメチョメ致す勇気のある人はいなかったらしい。
一部の男性が残念そうにしていたのは、見なかったことしておこう。
「そっか、ピル派だったのね」
「「「違います!」」」
妖精さんの空気を読まないボケに揃ってツッコミを入れる女性たちであった。
一部の女性は目を逸らしていたけど、見なかったことにしておこう。
「じゃあ、だいたいこんなもんかな?」
「魔法って凄い!」
やりきったと満足そうな表情をする妖精さんに対して、女の子が目をキラキラさせながら興奮していた。
魔法を使っているところを生で見たのだから、少女が興奮するのもむべなるかな。
妖精さんは女の子に向かって、どんなもんだいと自慢するようにサムズアップをした。
「ちなみに、煙草は有料でアルコールは提供しません」
「まあ、タバコは嗜好品だからな……」
煙草は有料と聞いて、がっくりと肩を落とす中年の男性であった。
「でもまあ、いつ煙草が手に入るのか目処が立たないでしょうから、
マイセンライトで良ければ、一人ワンカートンだけ差し上げます」
「助かるけど、いいのかい?」
「私のお金で買ったのではないから、べつに気にしなくてもいいよ」
「そ、そうか……」
中年のオジサンは煙草の出所は聞かない方が良さそうだなと、深く考えることを放棄した。
そう、どこから入手した煙草だろうが、煙草には変わりはないのだから。
ちなみに、煙草の出所は地震で被災したタバコ工場に転がっていた、商品としては売れなくなった煙草だったりする。
どうせ廃棄するならと、妖精さんがタバコ工場から貰ってきたのである。
「では、煙草を吸う人は手を挙げてくださーい!」
妖精さんは手を挙げた人数分のカートンを取り出した。
その数なんと、45カートン。田舎は禁煙に指定されている場所も少ないことから、喫煙率が高いのである。
あと、農業などに従事している自営業の人が多いのも要因なのかも知れない。
「妖精さんって煙草吸うの?」
「え? 吸わないよ? それにたとえ吸えたとしても、人間が吸う煙草ではサイズが合わないよ」
自分の身長の半分以上の長さの煙草を吸う妖精さん……
想像したらシュールなこと間違いなしである。
「わ、わし、アルコールが切れると手が震えるんじゃが……」
「この際だから、アルコール依存症を治してみるのも、良い機会だと思いますよ?」
妖精さんの非情な言葉に、まるで死刑判決を下された被告人のように、がっくりと項垂れるアルコール依存症の爺さん。
アル中には厳しい妖精さんなのであった。
「あ、そうだ。この中に、お医者さんか看護師さん薬剤師さんはいますか?」
「現役ではないけど、私が看護師の資格は持ってます」
おばさん以上おばあさん未満といった感じの、ご婦人が手を挙げた。
「あー助かりました。はい、コレ渡しておきますね」
「これは?」
「お薬でも緊急に必要になりそうな、インスリンや狭心症薬とかが入ってます」
「西脇のおじいちゃんが糖尿病ですので、助かりました」
ペラペラと個人情報を喋っちゃっても大丈夫なんですかね?
まあ、田舎は個人のプライバシーもへったくれもなさそうだから、いいのかも知れない。
「それでは、そろそろお暇させていただきますね」
「妖精さん、ぶぶ漬けはお出ししてませんよ?」
「おばさん、京都出身なの?」
「関西出身ではあります」
妖精さんの問いに、ご婦人はニッコリと微笑んで答えた。
大災害に見舞われたというのに、どうやらこのご婦人には心の余裕があるみたいだ。
母は強しということなのかも知れない。
「妖精さん、帰っちゃうの?」
小学生低学年の女の子が妖精さんに帰って欲しくなさそうに、心配そうな表情で訊ねてきた。
体育館にいる大勢の人達も、声にこそ出さなかったが女の子と似たような表情をしている。
これからのことを考えたら、みんな心細いのであろう。
「隣の集落の避難所にも支援物資を持って行かなくてはならないし、山を越えた先にある集落にも行く必要があるんだよ」
「そうだったな。被災したのは此処だけではなかったのだな。いや、すまんかった」
「あ、そうだ。此処って携帯は繋がりますよね?」
「繋がり難いですけど、一応は」
「これ、渡しておきますね」
そう言って妖精さんは、体育館に避難している人の纏め役みたいな中年の男性にメモを渡した。
「この電話番号は?」
「自衛隊の災害救助担当者直通の番号ですので、不足している物資とか救急搬送が必要な人が出たら、その番号に連絡を入れて下さい」
「なるほど、了解しました」
「さて、他の被災者も待っていることだし、そろそろ本当にお暇させてもらいます」
この地区での仕事は終わったとばかりに、妖精さんは話を打ち切った。
そして、ふわふわと宙を飛びながら体育館の外へと向かって行った。
「妖精さん、ありがとう!」
「「「妖精さん、ありがとー!」」」
校庭に出て手を振って見送る大勢の人達に向かって、妖精さんもまたバイバイと手を振り返しながら、高度を上げた。
「うむ、一日一善、善きことを為した。
さて、次の避難所は何処だったかな?」
こうして妖精さんは唐草模様の風呂敷を背負いながら、次の目的地に向かって飛び立っていくのであった。
この物語は異世界で妖精になった元日本人(元男)が地球に帰還して、気ままに過ごすお話である。たぶん。
他に救援物資で足りなさそうなモノあったかな?
ローファン日間3位…だと!? 少し承認欲求が満たされましたw
目指せ日間一位! でも、ちょっと厳しいかな?
ということで、ブクマ評価ポイントよろしくお願いします(`・ω・´)ゞ