004 ちわ~す、三河屋でーす!
この小説は作者の思い付きや気まぐれで、妖精さんの日常をゆる~く書き綴っていく物語です。
なので、前話と今話と次話で時系列がバラバラだったり、妖精さんが地球に帰還してからの日時が曖昧だったりします。
日本 とある田舎
妖精さんが地球に帰還して世間を騒がせ、テレビのニュースやワイドショー等に動画サイトとかの映像を見て、大多数の人々が妖精の存在というものを認識した。
それから、数年経ったある日のことである。
山間の孤立した集落にある小さな小学校の体育館の中は、百人近くの老若男女で溢れ返っていた。
震度6強の地震に襲われ、集落は半壊。少ないながら死者も出ているようであった。
ここに居る人達は、全壊や半壊した自宅から、這う這うの体で避難所に指定されている体育館に集まった人達の集団である。
人々の表情は一様に暗い顔をしていた。巨大地震という災害に遭ったのだから、その表情も無理からぬことではあるのだが。
その体育館にふよふよと宙を漂いながら近づく、唐草模様の風呂敷を背負った、いかにも怪しい影が一つ。
オマケで、淡い青色をした半透明の羽まで生えている物体なのだから、不審者まる出しである。
「指示書に書いてある地図でいったら、あの小学校っぽい建物が目的地で正解なのかな?
それにしても、こんな山奥にもまだ結構な数で人が住んでいるんだな。
21世紀も中盤なのに茅葺屋根とか、リテアの田舎と比べても同じ程度にはド田舎で、ちょっとした感動モノだよ。
まるで、大昔には平家の落人が隠れ住んでた感じの集落だね」
酷いディスりようである。
しかし、その平家の隠里というのは、あながち間違いではなかったりもする集落なのであった。
そして、その怪しい物体はふよふよと飛びながら体育館へと入っていった。
「ちわ~す、三河屋でーす!」
「三河屋?」
怪しい物体は、どうやら三河屋というらしい。
「あ、妖精さんだ!」
「みんな、妖精さんが来てくれたぞ!」
「え? 妖精さん?」
「うそ!? 本物の妖精さん?」
「た、助かったのか?」
「まさか、こんな田舎に妖精さんが助けにきてくれるとは」
「ありがたやありがたや、なんまんだむなんまんだむ」
怪しい物体は、三河屋を名のったのだが、どうやら体育館に居た集団は不審者とは思わなかったみたいだ。
不審者どころか、救世主が現れたかのような安心した表情で、皆一様にホッと息を吐いたのであった。
お年寄りの中には、まるで地獄で仏に逢ったかのように、手を合わせて拝む人もチラホラと見受けられる。
まあ、体育館にいる人達が声を揃えているように、この怪しい物体は妖精なのであるが。
「みなさん困っているみたいだから、私が救援物資を持ってきました!」
「水も食糧も医薬品も全然足りなかったから助かったよ」
妖精は救援物資を持ってきたと宣うわりには、首の手前で結んだ直径10cmほどの唐草模様の風呂敷を背負っているだけである。
そんな小さな風呂敷包みの中に入るのは、飴ちゃん程度だと思う。
「妖精さん、ありがとう!」
「総理大臣と防衛大臣に頼まれたことだから、気にしないでいいよ~」
どうやら、なにげに国家から妖精への要請であったらしい。
「それじゃあ、妖精さんが災害救助の派遣ってことなの?」
「そういうことだね! 私が先遣隊ということです!」
そう言ってエヘンと胸を張る妖精さん。
「妖精さん、今度は自衛隊に入ったの?」
「どう? 似合ってるでしょ!」
妖精さんは訊ねてきた少年に迷彩柄の制服を自慢げに見せびらかすように、空中のその場でクルっと横一回転をしてみせた。
「妖精のフェアリーのイメージが……」
どうやら、少年の頭の中には、迷彩服を着た妖精というのはイメージになかったらしい。
「災害救助だからね! 自衛隊のコスプレにした方が雰囲気もでるでしょ?」
ご丁寧に黒い光沢を放っている、皮の編み上げブーツまで履いている妖精さんであった。
オマケで左の二の腕には、赤十字のマークの入った腕章までしていた。
妖精さんは芸が細かいのである。
4cm程度の皮の編み上げブーツなど、完全に細工師の職人技であろう。
まあ、妖精さんの魔法なのだが。
「そ、そうだね」
しかし、妖精さんに同意を求められてしまった少年は、何とも言えない微妙な表情をしていたのである。
「はーい! みなさん、ちゅーもーく!」
妖精の少女の声は大きく叫んだわけでもないのに、体育館全体に響き渡った。
その声で、宙に浮く妖精に体育館の中にいる人達が一斉に注目した。
ぶっちゃけ、魔法である。
「残念ながら街からこの集落へと入ってくる山道は、二つのルートともに崖崩れで道が塞がっていて使えません」
「あちゃー、やっぱり塞がれてしまってたか」
両手で顔を覆い天を仰ぐ中年の男性。その気持ちは分からないでもない。
「まあ、あんなに強い揺れだったら崖崩れが発生していたとしても、なんら不思議ではないわな」
「街に行けないということは、陸の孤島……」
「まあ、昔から此処は陸の孤島と呼ばれているのだから、今更のような気もするけど」
などと、自虐的な諧謔を披露する者までいた。
「しかしこれで、完全な陸の孤島になっちまったという訳か」
「ちなみに、北に抜ける方の道は橋も崩落していたね」
「は、橋まで落ちてしまってたのか?」
妖精さんは空気を読まずに、更なる悲報を伝えるのであった。
しかし、災害時には正しい情報を伝える必要があるのだ。
「だから、最低でも一月近くは孤立したままだと思うよ」
「そ、そんな……」
「自衛隊は助けにきてくれないのか?」
「自衛隊のヘリコプターも数に限りがあるし、被災した場所は此処だけではないからね」
「それもそうだったか……」
妖精さんの一月近く孤立したまま、自衛隊の数が足りないという非情な言葉に、がっくりと項垂れる人が多数。
「そこで、この地区は完全に孤立した集落ということで、先遣隊として私が出張ってきたということです!」
デデーン!と、自分の周囲に集中線で強調されたエフェクトを無駄にばら撒いて、ドヤ顔を決める妖精さんであった。
妖精さんは芸が細かいのである。
別名、魔法の無駄使いともいう。
本当はこの話をプロローグにしようか悩んだ。
ローファンタジー日間5位になりました! ブクマ評価してくれた読者のみなさん、ありがとうございます!m(_ _)m
目指せ日間一位! 無理っぽいけどw