002 メーデー!
一部台本形式と今話は主人公の一人称。
ガラガラガラッ! グシャベキッボゴッ!
「な、なんだ!?」
「機長、左エンジンから異音です!」
「バードストライクか? アイハブ」
「ユーハブコントロール、たぶん鳥でしょうね。ハイドロも急激に下がってます」
「第1エンジンシャットダウン」
「ナンバーワンエンジンシャットダウン、チェック」
「オートパイロット解除」
「AFCS解除、チェック」
「ちっ、想定よりも滑走路からズレた!
ファイナルアプローチ中なのについてない」
「相手は鳥みたいですから、こればかりは仕方ありませんよ。
ゴーアラウンドしますか?」
「ゴーアラウンドとメーデーだな」
「メーデー、メーデー、メーデー! トーキョータワー、ニッポンエアー124、ウィーハブア、エンジントラブル!
デュートゥーザ、バードストライク! リクエスト、エマージェンシーランディング、アフターア、ゴーアラウンド」
『ニッポンエアー124、トーキョータワー、ウィルコ。
緊急事態につき、ここからは日本語で構いません。タワーからも左翼エンジンからの出火を確認しました』
「トーキョータワー、ニッポンエアー124、リクエスト、レフトターンで再度ランウェイ34レフトを希望します」
『ニッポンエアー124、トーキョータワー、レフトターン了解しました。
カイホー、アローン、カカオ、ハイウェイ、どれでも構いません。
一番操縦しやすそうな無理のないコースを選んで下さい』
『トーキョータワー、ニッポンエアー124、ラジャー』
「あ、ランプ点いてますね。エンジン火災ですか…… 部品大丈夫ですかね?」
「部品が市街地に落下しないように神にでも祈っておいてくれ。
立花、機内アナウンスを頼む」
「了解しました」
※※※※※※
「し、死ぬかと思った…… まったく帰還早々ひどい目に遭ったわ」
人間だったら絶対にバラバラの細切れにされて死んでいただろうな。
妖精ボディで助かったよ!
ジェットエンジンの吸引力は油断できないね!
ダイソンよりもパワーがあるよ。
「というか、エンジンから火を噴いてる!?」
あわわわ、ひ、火を消さなきゃ!
どうやって消火しよう?
エンジンを包み込むように障壁を展開して中の酸素を抜けば消えるのかな?
『…副操縦士の立花です。当機はエンジントラブルにより、ゴーアラウンド着陸のやり直しを行います。なお……
──レディース&ジェントルメン……』
「障壁セット、発動! 真空セット…… 発動!」
私が魔法を発動させると、瞬時にエンジンの火災は鎮火された。
酸素がないと火は燃えてくれないという、地球の法則があって助かったよ。
これが地球じゃなくてリテアだったら、魔法の炎は燃焼するのに酸素を必要としないとかいう、とんでも理論だったからなぁ。
「ふぅ、どうやら上手くいったみたいだね」
無事に火を消し止められたみたいで、よかったよかった。
って!?
「ぬおぉぉぉーーーっ!!」
今度はエンジンの部品が落下してるとか、今日は厄日か?
もう下は滑走路じゃなくて住宅地だよ! これは不味い!
アレが住宅地に落ちたら、下手したら死人が出ちゃう!
「目標、落下中の謎の物体! 短距離転移!」
ヒュン
「タッチ、回収!」
私は目視で行う短距離転移を発動させ、市街地に落下中のエンジンの部品らしきモノに手を触れて亜空間に収納した。
収納魔法って私の場合は、収納したいモノを手で触れてないと使えないんだよね。
女神様は目で見ただけで収納できちゃうのだから、マジチートです。
「お? キャプテン、火災警報ランプ消えました」
「それは重畳。まあ、あまり考えられんがもしかしたら、燃料もオイルも燃えるモノは燃えてしまったのかも知れんな。
さて、久しぶりの片肺飛行だ。慎重に行くか」
「機長は訓練以外で片肺飛行の経験が?」
「乗客を乗せてるフライトでも過去に二度あるな」
「その経験は心強いですね」
「飛行機は一つのエンジンでも飛べるように設計されているとか聞くけど、
一応、着陸するまでは見守っていたほうがよさそうだよね?」
私も巻き込まれた被害者だと思うけど、飛行機も私に巻き込まれた被害者ではあるのだから。
まさか、飛行機の通り道である空中に、いきなり妖精が現れるだなんて、地球人には思いもよらないだろうしね。
「へー、垂直尾翼に付いてる舵を右に切っているのに、それでも真っ直ぐに飛んでいるのか」
なんか不思議な感じもしますね。
そうか、右側のエンジンしか動いてないから、左に傾く力を方向舵で相殺しているのかな?
『ニッポンエアー124、ランウェイ34レフト、クリアードトゥランド、ウインド250アット4』
『ランウェイ34レフト、クリアードトゥランド、ニッポンエアー124』
※※※※※※
『ニッポンエアー124、エンジンからの出火は消えたみたいですけど、
念の為に消防車が放水しますので、滑走路上で待機していて下さい』
『トーキョータワー、ニッポンエアー124、了解しました』
『ニッポンエアー124、コンタクトグランド、121デシマルセーブン』
『コンタクトグランド、121デシマルセブン、ニッポンエアー124』
ふ~、無事に着陸できてよかったよかった。
不可抗力だったとしても、私が原因で飛行機が墜落でもしたら、さすがに良心の呵責に苛まれるもんなぁ。
もっとも、私の魂は元日本人とはいえ、もう既に妖精の色の方が濃いんだよね。
だから、たとえ飛行機が墜落していたとしても、あまり良心の呵責に苛まれないような気もするけど。
まあ、目覚めが悪くはなりそうだけどね。
リテアでは自分の手で人間を殺しても、べつに苦しんだりもしなかったしね。
だからといって、罪もない人間を殺すような、そんな外道な行いはやってませんよ?
そんな事をしたら、女神様に折檻されちゃいますので。
それはそうと……
「壊れたエンジンって弁償することになったら高そうだなぁ」
大型旅客機のエンジンなんだから、一億円でも足りなさそうな気がしますね。
私が弁償しないといけないのかな?
でも、私は無一文なんですよ?
まあ、亜空間収納の中に金貨を数万枚は貯め込んでるけどさ。
日本円や米ドルは持っていないということで。
今回のことは不可抗力なのだから、ノーカンでお願いします。
私もひどい目に遭ったことだしね。
まあ、この会社の飛行機が墜落しそうになったら、私の目の届く範囲で一度だけ助けてあげよっかな?
それで埋め合わせにするので、許してちょんまげ。
「さて、これからどうしよっかな?」
とりあえず、美味しいモノでも食べに行きましょうかね?
羽田空港 整備場
「なんだ、このタービンブレードの壊れ方は?」
「たまげたなぁ」
「これって絶対にバードストライクじゃないですよね……」
「ああ、まるで金属片を吸い込んだみたいな破壊の痕だな」
「ブレードが金属疲労で破断したのかも知れないな」
「その可能性が一番高そうですね」
作者の趣味に走りました!
コックピット内のやりとりと航空無線の内容は適当ですw
妖精さんは簡単には死なない(`・ω・´)