018 契約魔法
秋葉原 某ショップの店長室
「それでは、この条件で妖精さんも構いませんね?」
「私はそれでいいよ」
どうやら、妖精さんと店長との話し合いは纏まったらしい。
そして、この店の店長は社長も兼ねていたみたいである。
つまり、この店は個人経営の商店に毛が生えた程度の、中小企業のオタグッズ販売店といったところだろう。
ちなみに店員BとCは、妖精さんを店長に引き合わせ説明したあとで、自分の仕事へと戻っていった。
その時に店員Cは、棒付きキャンディを追加で二本、妖精さんにプレゼントしてあげていた。
店員Cはいいヤツである。
「では、この書類にサインをお願いします」
そう言って店長は、細かな契約が書かれた書類を差し出してきたが、それに妖精さんが待ったを掛けた。
「妖精である私は人間と同じ契約はできないんじゃないかな?」
「それはどういった意味でしょうか?」
「だって、私には住所とかってないもん」
そう、妖精さんは住所不定の無職なのである。
そして、妖精は人間ではないのだから、人間社会の法にも縛られないのであった。
「そ、そうでしたか…… しかし、それでは困りましたね」
「私は契約魔法も使えるから大丈夫だよ!」
胸を張ってドヤ顔で自慢げに答える妖精さんだった。
「契約魔法…ですか? それって危険ではないのですよね?」
「まあ、そう心配しないでも安全だから見してあげる」
そう言うが早いか、心配顔の店長を余所に妖精さんは軽く手を振り、契約の魔法を使ってみせた。
「こ、これは!? もしかして、魔法陣ですか?」
驚いてみせる店長の左手の甲には、魔法陣の紋様が浮かび上がっていた。
それを見て、二十数年前の若かりし頃の光景が脳裏に甦ってきた店長であった。
もしかしたら、
『くっ、また疼き出しやがった…… 鎮まれ鎮まれ、俺の左腕よ!』
とか、中二病ごっこでもやっていたのかも知れない。
オタグッズの店を経営しているぐらいなのだから、ほぼ確定した過去であろう。
「この時点では、まだ契約は完了していません」
「契約は完了させるには、どうすれば良いのでしょうか?」
まだ契約は完了してないという妖精さんの言葉に、自分の手の甲に浮かんだ魔法陣を眺めながら、店長は困ったような顔をしてみせた。
「店長さんが契約を合意することに同意するんだよ」
「なるほど…… しかし、本当に危険はないのですよね?」
もう一度念を押す店長であった。
「危険はないよ。それに妖精は嘘を吐けないんだよね」
「わかりました。妖精さんを信じます」
そして店長は、意を決したかのように一つ頷いてから、契約に同意した。
その瞬間、契約魔法の魔法陣は手の甲に吸い込まれるようにして、消えていったのであった。
店長はその様子を驚愕の表情で見つめていた。
「手の甲に浮かんでいた紋様が吸い込まれた?」
「これにて、契約は完了しました」
そう言って妖精さんはニッコリと微笑んだ。
しかし、その後に妖精さんは爆弾発言を投下するのだった。
「ちなみに、妖精の契約魔法を破ると最悪の場合は死に至りますので、
その点は、十分に注意してくださいね?」
「それって十分に危険じゃないですかぁぁ!」
店長は驚きとともに焦り、妖精さんに詰め寄った。話が違うではないかと。
これは完全に妖精さんの説明不足である。
「ああ、その点は心配しないでも大丈夫だよ」
「それは、どういう意味でしょうか?」
何が大丈夫なんだ? 全然大丈夫ではないよと、店長は訝しげに眉を上げ聞き返した。
「悪意を持って契約の不履行をしない限りにおいて、という意味ですね」
「悪意を持っているとか、どうやって判断するのです?」
今にも泣きそうな顔をしている店長が心配そうに訊ねた。
「契約は魂に紐付けされているから、悪意を持って契約をないがしろにしなければ大丈夫ということだよ」
「つまり、普通に行動している限りは安全なのですね?」
「そういうことだね。それに、一度目は警告として手の甲に再度、紋様が浮かび上がって警告してくれるから、直ぐに死ぬということはないよ」
「それでしたら、一安心といったところです」
妖精さんが付け足した説明によって、ようやく店長は安心したのだった。
そう、店長は別に妖精さんとの契約を不履行にするつもりなど毛頭なかったのだから、よくよく考えてみると別に危険なことなど最初からなかったのだから。
逆に魔法陣を身に宿した俺って格好良い!とまで思えてきたらしかった。
どうやら、店長の中二病が再発してしまったみたいである。
ちなみに、二度目の契約不履行を行った場合には、極度の体調不良に見舞われ、三度目はほぼ確実に死に至るのであった。
リテア世界では、遅くとも二度目の時点で、土下座をしながら泣いて許しを請うから、契約魔法で死亡することは稀であった。
そしてその後、妖精さんは店内にある商品を見て回り、ひとこと口に出した。
「いっそのことフィギアで、オナホでも作ったら売れるんじゃない?」
漫画にアニメやゲームとかに登場する、女性キャラクターが扇情的に描いてある、抱き枕とかもあることだしね。
「妖精さん、女性キャラのオナホはもう既にありますよ」
「そのオナホって俗にダルマとかいうヤツだから、キャラの顔がないでしょ?」
「ないですね」
「版権の問題とかなのかな?」
「ええ、まあ、おそらくは…… あとコストの問題でしょうか?」
「アタッチメント式にして頭部を交換できるようにするとかしたら、頭部だけでも売れるんじゃないかな?」
「その発想はなかった!」
頭部だけ別売りにすれば、版権の問題もクリアーできそうですしね。
というか、商品のパッケージには、キャラクターが描かれているのだから、版権問題は初めからクリアーしているような気がしないでもない。
そう、海賊版でもない限りはね。
女性のオタク向けに、男性キャラのディルドとかも良さそうですね。
でも、こっちはあまり売れないのかな?
妖精さんに現代人の倫理観はかなり希薄ですw
ぐぐったら、キャラクターオナホありましたよ… 日本人は業が深い…