014 官邸に突撃!
12時に間に合わなかった…
東京 首相官邸
その日、妖精さんは総理大臣官邸にお邪魔していた。
政府関係者が偶然にも、妖精さんを都内で目撃して声を掛けたら、妖精さんが官邸に遊びに行ってもいいとの返事をしてくれたのだった。
別名、妖精さんを食い物で釣ったともいう。
妖精さんは食い意地が張っているともいう。
そして、もう一方の当事者である総理大臣の方はというと、忙しいスケジュールを調整し合間を縫って、45分だけ時間を捻出したのである。
ちなみに、この面会は極秘の会談であった。
まだ海のものとも山のものともつかぬ妖精さんとの面会である、おいそれと報道陣に公開する気にはなれなかったのである。
また、諸外国の目も気になったのだ。
いずれバレるにせよ、現時点で日本政府が未確認生命体と接触を持ったなどと、まだ外国には知られたくなかったのであった。
もっとも、総理大臣が極秘で誰かと面会しているようである。と、そこまでは気付かれているのではあるが。
総理大臣の執務時間中というのは、いつどこで誰と会ったとかの情報までは隠せないのだから。
だから、日本の政治家というのは、お忍びで料亭を使うのであろう。
閑話休題。
「妖精さん、はじめまして。ミサさんとお呼びした方がよいのかな?」
「妖精さんでもミサさんでも、どっちでもいいよ」
総理大臣の言葉に適当に返事をする妖精さんであった。
妖精さんの頭の中は、約束である美味しい物を食べることで埋め尽くされていたのだから、おざなりな対応になるのもむべなるかな。
「では、妖精さんと」
「それよりも、ここにあるスイーツって食べてもいいの?」
妖精さんはテーブルに置いてある、果物やケーキ等のスイーツをチラッチラッと盗み見しつつ、総理の顔と交互に見比べていた。
そして、眼差しをウルウルさせ上目遣いに、ホスト役の総理大臣に確認する妖精さんであった。
「ええ、遠慮なくどうぞ」
「わーい! いっただっきまーす!」
総理の許可が出ると、妖精さんは瞬時にスイーツの載っているテーブルへと突撃していった。
どうやら、日本の総理大臣の威厳や重要性というのは、スイーツに負けるらしい。
そして、妖精さんの食い意地が張っているという情報は確かなようだったと、その場にいた政府関係者一同が心を同じくした瞬間でもあった。
ちゃんとスイーツを用意しておいて良かったなぁと。
※※※※※※
「このケーキ凄く美味しいよ!」
「妖精さんのお口に合ってよかった。取り寄せた甲斐があったというモノです」
口の周りを生クリームでドベドベ塗れにしながら、妖精さんは興奮気味にケーキの美味しさを褒め称えた。
そして、妖精さんへのおもてなしは、どうやらスイーツにして正解だったなと、一安心をする総理であった。
「ドコのお店のケーキなの?」
「そのケーキは、神戸のゼクスパンというケーキ屋さんの、銀座店から取り寄せました」
ゼクスパン、おそらく日本語の六甲をドイツ語で無理やりこじつけたのか、誤訳なのであろう。
六甲をドイツ語に無理やり直すにしても、ゼクススパンかゼクスヘルムになるはずだ。
「ふーん、パンなのにケーキ屋さんなんだね」
「大手パンメーカーでもケーキを作ってますし、似通った分野なのでしょう」
正確な店の名前の由来はというと、大正時代に開業した時に店主の子供が付けたのが、ゼクスパンの始まりであった
当時はパン屋だったから、ゼクススパンよりも一つスを抜いた方が語呂も良いということで、ゼクスパンにしたというのが店の由来である。
ちなみに、パンの語源はドイツ語ではなくて、ポルトガル語である。
ドイツ語でパンはブートである。まあ、些細なことではあるが。
そして、ゼクスパンは名前由来である、六甲→ ろっこ→ 6個入りのバターロールが今でも根強い人気商品なのであった。
「このオレンジもオレンジなのにオレンジじゃない! これも凄く美味しい!」
美味しさのあまり、語彙が死んでしまった妖精さんであった。
「それはデコポンという品種みたいです」
総理は苦笑いしつつ、妖精さんがオレンジと連呼していたオレンジもどきの品種を教えてあげた。
「なにこれ? なにこれ? このブドウ美味すぎ!」
美味しさのあまり、またもや語彙が死んでしまった妖精さんであった。
「そのブドウは紅伊豆という品種ですね」
デコポンとブトウの果汁で、口の周りがドベドベ塗れになった妖精さんに、笑いを堪えながら総理は優しく教えてあげた。
収穫する季節が正反対に近い果物を同時に食べれるのは、まさしく文明の利器、冷凍技術のおかげである。
ちなみに、デコポンも紅伊豆も高級品種で値段もお高いのだが、妖精さんがそれを知ることはなかった。
それにしても、妖精さんの小さな体のドコに食べたモノが入っていくのだろう?
そう不思議に思いながらも、15分程度の間、妖精さんが一心不乱にスイーツを食べる様子を眺めていた総理大臣であった。
もっとも、総理自身も水羊羹を食べていたのだが。
忙しい総理大臣は、この後の予定の時間も迫っていることだし、妖精さんに割ける時間はもう30分を切っていた。
そう、時間は有限なのだ。
そして、妖精さんの食べる勢いが弱まったのを見てとり、そろそろ頃合いかと思い、妖精さんに声を掛けることにした。
ここまでは前座で、ここからが本題であった。
本題に入れなかったw
来週からは毎日更新は厳しいと思います。