001 プロローグ
一話2000字~3000字程度で、一話か二話で一つの場面が完結する、オムニバス形式の物語になる予定。 ……予定は未定だけど。
ここは地球とは違う場所、リテアと呼ばれている異世界である。
その異世界リテアのとあるお花畑で二人の少女がお喋りをしていた。
近くに咲いている草花を基準にして、少女たちと花との大きさを比べると、二人の体のサイズはかなり小さいことが見て取れる。
地球の基準でいえば、身長は15cmほどであろうか?
ついでに、三頭身である。
まるで、漫画やアニメのキャラクターのようにデフォルメされた感じの姿形をしている二人であった。
そして彼女たちには、もう一つの大きな身体的な特徴があった。
彼女たちの背中からは、自分の身体を覆えるほどの大きな羽が、そう蝶々のように美しく煌びやかな二対四枚の羽が生えていた。
一人の少女の羽は半透明ながら、微かに青みがかった色彩を帯びている。
もう一人の少女の羽も半透明なのは同じだが、こちらは仄かに淡い桃色の光を放っているのが見てとれた。
つまり、彼女たち二人は俗に妖精と呼ばれている種族なのである。
「X軸の座標固定完了…… Y軸の座標固定完了……
Z軸の座標も……固定完了! よし、あとは発動するだけだね」
青色の羽を持つ少女がブツブツと呟いた後、満足そうに頷いた。
そして、それを見ていた淡い桃色の羽を持つ少女が、心配そうに上目遣いで問い掛けた。
「ミサちゃん、本当に行っちゃうの?」
「女神様の許可も下りたしね」
「それはそうなんだけどさ……」
「この世界には、漫画やアニメにインターネットとかもないし、
数百年も離れていると、いい加減あっちの世界が恋しくなったんだよね」
おまけで、禁断症状ががが…とかの呟きが最後に聞こえてきた。
「チキュウだっけ?」
「うん、前世での私の故郷である地球だよ」
「そっか、ミサちゃんがいなくなると寂しくなるなぁ」
桃色羽の少女は、しょんぼりと俯いてしまった。
「飽きたら、そのうちまたこっちに戻ってくるから」
「ミサちゃんの故郷にあたしも一緒に行ってみたかったよ」
「次元を超える界渡りの転移魔法は制限が厳しいから、
どうしても最初は私一人だけで行くしかないんだよね」
そう言って、ミサと呼ばれた少女は肩をすくめてみせた。
「地球の座標を探すだけでも50年以上掛かったんだっけ?」
「まあ、暇つぶしの手慰みだったとはいえ、我ながらよく地球を見つけ出せたと、
自分で自分を褒めてあげたくなるほどには、時間が掛かったよね」
自分の過去の苦行を思い出して、苦笑いをするミサ。
「あたしの力では知らない次元に渡るのは無理」
「エルは地球を知らないのだから、それは仕方ないよ」
「あ~あ、あたしも地球に行ってみたかったな~」
「でも今世での私の故郷は、この世界リテアなんだから、私は戻ってくるよ」
ぐずるもう一人のエルと呼ばれた少女の頭を、ミサは心配しなくても大丈夫だよと言うように優しく撫でるのだった。
「絶対だからね!」
「約束するよ。だから、エルもそれまで元気でね」
「わかった! じゃあ、またね!」
「うん、またね。では、行ってきます」
行ってきます。そう言いながらエルに手を振るミサの姿は、淡い瑠璃色の光を残して瞬時に消え去っていた。
「あ、ミサちゃんに地球のお土産を頼むの忘れてた……」
そう言ったエルは、どよ~んと落ち込むのであった。南無。
※※※※※※
地球 日本 東京湾上空
羽田空港に着陸するためにアプローチ中の旅客機が、東京湾上空を飛んでいた。
『ニッポンエアー124、コンタクトタワー118デシマルワン』
『118デシマルワン、ニッポンエアー124』
『トーキョータワー、ニッポンエアー124、アプローチングカイホー、ILS X、ランウェイ34レフト、スポット13』
「とうちゃーく!」
澄み渡った五月晴れの東京湾上空の大空に芥子粒が一点。
右手を額に添えながらキョロキョロと周辺を見回す不審な小さな生物がいた。
異世界リテアから地球に帰還した妖精の少女ミサである。
「ふむ? あそこは羽田空港かな? それと東京タワーにスカイツリーに皇居とかの緑も見えるな。お、富士山もちゃんと見える!
どうやら転移はちゃんと成功したみたいで良かった良かった」
眼下に見えるニョキニョキと乱立する建造物は、懐かしのコンクリートジャングル。
そして遠くの雲海から末広がりに突き出すように望むのは、日本人の心の故郷とも呼べるであろう富士山。
「ふ~、ようやく戻ってこられたか。長かったな……」
そう独り言ちた妖精の目には薄っすらと光るモノが溢れていた。
しかし、感傷に浸っている少女の思考を中断させる無粋な物体が、キーンという甲高い音を響かせながら迫って来るのであった。
「ギアダウン」
「ギアダウン、チェック」
「む? なんだこの甲高い音は?」
ミサは嫌な予感がして迫りくる音の方へと振り返った。
──そして目を見開いたまま、硬直した。
「ひ、飛行機…だと!?」
ガラガラガラッ!
直系15cmの異物は、物理法則によって当然の如く飛行機のエンジンに吸い込まれてしまったのである。
「ぬおぉぉぉーーーっ!! 目があぁぁ! 目が回るぅぅぅ!!」
グシャベキッボゴッ!
そしてミンチよりも酷い有様になっているような感じの不快な音が響き渡った。
せっかく異世界から地球へと帰還を果たした妖精の少女であったが、直後に哀れにも飛行機事故に巻き込まれてしまったのであった。
オチも付いて短編で纏まってしまったような?
TS妖精少女ミサの冒険は始まりすらせずに、どうやら終わってしまったみたいだね。残念無念(´・ω・`)
今作は書き溜めも殆どないし、作者の気まぐれで不定期更新の予定。
なお、航空無線は適当ですので、突っ込まないようにw