嵐山海里 2
歩いてみると小さな島と言っても道も獣道でなかなかにハードだ、特に小学生には。もしかしたら未知の動物がいるかもしれない、と妙にドキドキしてくるが、楽しい気持ちも湧いてくる。先生や施設の皆に写真たくさん見せてあげよう、ときれいな風景や花などを次々と撮っていく。他の参加者ともすれ違うが皆血眼に宝を探していて話しかけづらい。大人たちは特に他人は蹴落としたいライバルと考えている人が多いようでギスギスしている。
そんな中、大きな双眼鏡を持った高校生くらいの女の人はがっついた雰囲気がなく自然を散策しているようだった。ちょっとだけ話しかけてみてもいいかな? と勇気を出す。何か他に噂を知らないか聞いてみたくなったのだ。
「あの」
「ん?」
女性は邪見にすることなく振り返る。
「あ、僕この島にまつわる噂を集めてて。何か怖い話とか、不思議な噂知りませんか?」
「噂、ねえ。私そういうのあんま調べずに来たからな。まあ超古代文明が眠ってるって話は聞いたことあるかな」
「なるほど」
その話は知っていたが、せっかく教えてくれたのだ。知ってます、というのも失礼な気がして相槌を打った。
「あると思いますか?」
「どうだろうね。見つけたら私教科書載っちゃうかもね」
あはは、と二人で軽く笑いあってその場は別れた。なんだか超古代文明があるような気がしてきた、これを探してみてもいいかも? と思い怪しそうな所を探していく。文明なら自然ではない、人工物などが見つかるはずだ。石がきれいに並んでいるとか、加工した跡があるとか。林の中を歩いていると、何かにつまずいた。
「うぉっとお!?」
けん、けん、と片足でスキップのように飛び跳ねなんとかバランスをとる。あっぶな~、と一息ついて何に引っかかったんだろうと草をかき分けてみるとそこに在ったのは土から生えた「何か」だった。
「これ、生えてるんじゃなくて埋まってるのかな?」
よく見ればそれは木箱のようだ。手で土をはらうと細かい装飾が見える。土は硬く手で掘ることは難しいので受付で借りた小さなスコップでざくざくと周りを掘り始めた。掘り進めてようやく土から取り出すことができた。手のひらに収まってしまうほどの小さな箱。手に取りまじまじと見ると宝箱のように見えなくもない。
「あ、もしかしてこれ宝物か!」
ようやく気付いた。掘ることに夢中で気づかなかった、恥ずかしい、と一人じたばたする。箱を振れば中からカラカラ、と何か小さくて軽いものが入っている音がする。蓋と本体を繋いでいる部分にピンポン玉くらいの大きな石が埋め込まれていて、これを外さないと蓋が開かない仕組みの様だ。
古いものなのでなかなか取れないが、これまた受付で借りてきたピンセットで石にこびりついた土を丁寧に削っていくとついに石がポロっと取れる。石をポケットにしまい、箱を開けると。
「指輪だ」
入っていたのは、豪華な宝石がついた指輪だった。手に取って見てみると美術館などでよく見る豪華な物。宝石は太陽に透かすときらきら輝いて見える。おお、すごいこれ、と感動し、よく観察すればリングの内側に何か文字が彫ってあるようだ。読めないが。
それにこの指輪、やけにリングが大きい気がした。大人の男の人でもゆるいのではないだろうか。この指輪がぴったりになるには、数メートルの身長がないといけない。
「そっか、この指輪をしていた人たちは僕たちよりも巨大だったって事だ!つまり超古代文明はあるのかも!」
わくわくが止まらない、今自分は目がきらきらしているだろうと思う。自分の知っている知識では計り知れない事を目の当たりにして海里のテンションは今最高になっている。しかし、思い出した。
「あ、これ、あの人にあげないといけないんだった」
最初に見つけた宝はあげる、そういう約束だ。宝探しは5日間続き、宝を見つけ本部に報告をしたらまた宝探しに戻ってもいいし、帰ってもいい。帰る者はいないようだが。
「まあいいか、とりあえず写真写真」
こんなの見つけたよ、と施設の皆に見せるんだとカメラを用意しようとしたが、後ろから声が聞こえた。
「おい、それは俺のモノになるんだったよな」
振り返ればあの時の男が立っている。ガタイも大きく大人の男に睨みつけられて海里は少し縮こまってしまう。その様子に男はハッと鼻で笑うと大股で近づき、海里の手を叩きつける勢いで指輪を取り上げる。
「あ、あの……」
「うるせえ! 俺のモノになるってことで手打ちにしてやったんだろうが! それとも機材弁償する方がいいのか、クソガキ!」
男はそれだけ怒鳴ると足早に草むらの中を進んでいってしまった。写真を撮りたかっただけなのに、とさすがにしょんぼりとうつむく。
(そんなに怒らなくても)
施設の先生たちは、子供たちを注意し叱ることはあっても感情的に怒ることはない。そのため海里は年上の人から感情をぶつけられることに慣れていない。あんなに怒鳴られたら言いたいことも言えないではないか、と大きくため息をついた。
そういえば、と左手に持っていた宝箱を見る。ポケットには鍵の役割をしていた石も入っていた。男は指輪だけを持っていったのでこれは海里の手元に残ったのだ。
「まあいいか、これも宝だもんね」
気を取り直して、散策を続ける。もうこれであの人と関わることもないし、さっさと嫌な事が終わって良かったと気持ちを切り替える。
散策していけば、スタッフの人が散りばめたのだろうなと思うちょっとした宝を二つ見つけた。一つはいかにも何か埋めました、という感じに土が盛り上がっていたので掘り起こしてみると、ゲームなどに出てくる宝箱のデザインをした箱に駄菓子とおもちゃがぎゅうぎゅうに詰まって入っていた。おもちゃはトランプやオセロ、ボールなど誰かと一緒にできるものばかりだ。ラッキーだ、施設の皆喜ぶぞ、と取りだして持ち運ぶ。箱が少し大きいが、箱自体が軽い素材でできているので重くはない。本部に持っていけば名前の控えと共にスタッフがキープしておいてくれるらしいので、まずは預けようと本部へと向かった。
その途中でまた見つけたのだ、歩いている目の前に紙が大量に散らばっている。スタッフが用意した宝は価値が低いものが多いので、トレジャーハンターたちは無視しているようだ。見つけても捨ててしまうらしいからそういうおこぼれでももらってきなよ、と同じ部屋で暮らす年上のお兄さんが笑いながら言っていたのを思い出し、ありがたくもらおう、とそれをすべて拾う。
「なんだろうこれ、賞状かな?」
それらはパッと見て賞状のようなデザインの紙だった。大きさもまばらで、宝は宝でも誰かのマル秘お宝系ではないだろうかと思った。書いてある内容はまだ習っていない漢字が多く何だかよくわからないが、用意したのは運営会社なので聞いてみようとそれらを宝箱に入れて抱えて歩き出す。
初日からこれなら、あと4日間楽しく過ごせそうだ。できれば、誰かと一緒に協力しながら探したいなと思いながら海里は森の中を進んでいった。