五日目 5
結局、海里はその後あの洞窟に行かなかった。何故ならすっかり忘れていたからだ。お昼に食べたバーベキューはとても美味しくて、カレーや焼きそばまで食べてお腹がぽんぽんになってしまった。マシュマロを焼いたのは初めてだった、甘くておいしい。
肉を焼いてくれていたのは鍵の使い方を教えてくれたあのお兄さんで、この島の珍しい花や植物についていろいろ話を聞いたり写真を撮ったり。透明度の高い海と白い砂浜を見て、そういえば海で遊んでないと翡翠をさそって浜辺で城を作ったりして遊びつくしていたら夕方になってしまった。
宝探しは5日目の16時まで、と決まっていて気づいたら15時半をまわっていた。今からあの場所に行くのは無理だなと潔く諦めた。残念だが仕方ない。噂の真相はわからなかったが、不思議な体験はたくさんできたので自由研究のまとめははかどりそうだ。
翡翠とは少し仲良くなった。あまり笑わない人だが、海里の問いかけにはきちんと答えてくれるしなんやかんやで良い人だという認識だ。その後はずっと海里は翡翠と共に過ごした。
16時が過ぎ、参加者が全員本部前に集まった。見つけた宝の確認と、高価な物の発表やスタッフの目から見て頑張った人の表彰、スタッフが隠し撮りしていた参加者の面白いワンシーン発表などちょっとしたイベントで最終日は終わることになっている。しかも隠し撮りはすべてスタッフが自撮り風に撮っていて全部変顔だ。ナルシストのようにわざとらしくキメポーズをしたもの、白目をむいたもの。ツチノコのようなものが写った写真では大爆笑で盛り上がった。
「翡翠ちゃんは、何を見つけたんですか?」
バーベキュー後改めて自己紹介をして、苗字で読んだら「苗字嫌いだから名前で」と言われたのでちゃん付けで呼んでいる。翡翠も特に嫌がる様子もない。
「私かあ、何も見つけてないな。いや、まあ。新しい価値観かな?」
「?」
「嫌いだったものを、好きになれるかもっていう気持ちを手に入れた」
「凄い! 僕、まだピーマン好きになれないです。嫌なものを好きになるってすごいです!」
嫌味もなく真っすぐ素直にそう言ってくる海里の言葉は聞いていて心地がいい。さすがあの園長に育ててもらっているだけあるな、と思った。ちなみに数年前に会っているというのは海里には伝えていない。本人は覚えていないようなのでなんとなく言わなくてもいいかと思ったのだ。
「海里は?」
「僕は宝箱いっぱいのお菓子おもちゃと、お花の髪飾りと、これです」
リュックから出したのは海里の両手よりやや大きい箱だ。白地に美しい幾何学模様のようなものが描かれている。海里がパカっと開けると、音楽が鳴り始めた。綺麗な音楽だと思うが、これは唄だ。海里には、というより普通の人には聞き取れないため音楽に聞こえているようだが。
歌詞の内容はさすがに理解できない、おそらく翡翠が”混血“だからだ。ふと、翡翠が蓋の裏側を見れば何か書いてある。おそらく海里には見えていないだろう。そこに書かれているのは。
「……。“君に光と幸せを”、か」
海里に聞こえないよう小声でつぶやいた。これは、小さな小さな事実書だ。おそらく蓋を開けて音楽を聴いた時だけ効果が発揮される。誰が書いたのか知らないが、なかなか粋な事をするなと思う。常に、ではなく音楽を聴いた時だけ、というのがまた乙だ。オルゴールを聞くときはだいたい音楽を聞いてリラックスしたい時、もしかしたら少し落ち込んだ時。その音楽を聞くにふさわしいシチュエーションだろう。
美しい音楽とともに、キャンプファイヤーが色鮮やかに宝探しゲームの終わりを彩る。結局一番高価な宝を見つけたのはトレジャーハンターの女性で美しいアンティークの小物と希少な宝石、スタッフ一同から「頑張ったで賞」をもらったのは海里だった。
お祝いにスナック菓子詰め合わせか来年の宝探し参加券どっちが欲しいかとスタッフに聞かれ、1秒でお菓子と叫んだ。そして来年参加券は急きょ争奪戦のじゃんけん大会となり、他の参加者からは感謝され自分たちが見つけたらしい宝をどっさりともらっていた。
こうして、宝探しゲームは終了となる。夜は船で本土まで向かうのだが、この船が行きの船と違ってかなり豪華で参加者たちはテンション高く夜を楽しんだ。
参加者が一人足りないのだが、それに気づく者はいない。




