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転生斡旋所

転生斡旋所#10

作者: 灰色

彼は料理を生業としてきた。日本料理のみならず、様々な国の料理に興味を持ち各国を回っていたが、ある国で強盗に刺され命を失った。


勧められたお茶に口をつけ、不味そうな顔をしてテーブルに戻し、それ以降見向きもしない。

「俺に出来るのは料理だけだ。料理を出来るなら、どこでも良い。あえて希望を言うなら、見たことの無い素材と料理に触れられるならそれで良い」

渡された資料にろくに目を通さず、一方的に言い放つ。

「いえ、そういう訳にはいかないんですよ。資料に目を通し、ご希望の世界等を伺う必要があるんです」

額の汗を拭いながら担当者は先ずは資料に目を通させようとするが、料理人は資料に触れようともしない。

「資料など不要。要望以外はお前が適当に決めろ」

良く言えば頑固な料理人。悪く言えば人の言う事に耳を貸さない自己中心的人物。

何度同じようなやり取りを繰り返したのか、担当者の顔には疲労が見える。

「では折衷案として、私の方で幾つか候補を作成しますので、その中から選んで頂けますか」

本来はマニュアル違反だが、いつまでも無駄なやり取りを繰り返すよりは建設的だと判断し、提案してみる。

「何個も要らん。一つで良い。さっさと決めろ」

そう言うとどこかへ行けと言わんばかりに手を振る。担当者は一先ず退室し、提案を練る事にした。


「見たことの無い素材や香辛料と言うと、やはり異世界でしょうか」

・異世界、魔物等を食糧にする

「待遇としては、あまり低いと文句を言われそうですね」

・下級貴族、食道楽な親

「主人格は当然本人として、いつ頃前世を思い出すか。幼少期だと料理出来ないでしょうし、成人する前辺りが無難でしょう」

・12歳頃に前世の記憶を取り戻す

「後は……」

担当者は、これまでの転生者が希望した内容を参考にしながら、項目を埋めていくのであった。


「お待たせしまして申し訳ありません」

「本当だよ。どれだけ待たせるんだ。建物が役所に似ていると思えば、働いている奴も公務員みたいにトロいのか。そんなので良くやっていけるな」

自分はなにもせず人に作業を押し付けておいて、この言い分。担当者も流石に不快になるが、表面上はいつも通りの笑顔で対応する。

「こちらが、候補一覧になります」

「一つで良いと言ったはずだが。余分なことをして、その結果待たされたのかよ。お前の耳は飾りか。言われた通りの事も出来ねえのか」

候補の中から、最初の案だけを取り上げ、それ以外には見向きもしない。

「これで我慢してやる。だが、下級貴族は駄目だ。俺は料理を食べたいんじゃなく、作りたいんだ。それなりの食堂の子供にしろ。後……」

結局、他の条件にも色々と難癖を着け、何とか転生条件が決まった。

「では、転生作業を開始します。良い人生と成ることをお祈りしております」

「祈るだけか。気楽なもんだ」

最後まで悪態をつきながら、転生して行く。

作業が終了した瞬間、担当者は安堵の溜め息と共につい愚痴を言ってしまう。

「頑固親父の粋を通り越して、モンスタークレーマーでしたか。公務員を馬鹿にする発言もありきたりのものばかり。どこの会社にも楽な部署があれば厳しい部署もある。職業ではなく人による事もわからないとか」

相当ストレスを感じたのか、愚痴が止まらない。

「料理の腕には自信があっても、人の気持ちや社会人経験が皆無で、空気を読むことが出来ない人種ですね。徹頭徹尾、自分が上の立場でマウントを取ろうとする。最終的に転生先を決めるのは私であり、立場はこちらが上だと最後まで解らなかったようです」

若干不穏当な言葉を最後に、ようやく気分を切り替える事が出来たのか、次の仕事を開始するのであった。


さて、そろそろあの料理人の転生結果を確認しますか。正直、気がのりませんが。


・前世とは植生が全く異なり、料理の技術も比べ物にならない程高い世界に転生する

・高級料理店の息子として生まれる

・全く家業に興味を持たずに育ち、12歳の頃に前世の記憶を取り戻す

・前世の記憶と経験は全く役に立たず、一から食材や調理技術を磨く必要があるが、前世の記憶が邪魔をして謙虚な態度が取れない

・実家では料理を教えるのに親子の情が絡むといけないので、外に料理修行に出される

・修行先でも態度の大きさは変わらず、修行場を点々とする事に

・まともな技術が身に付かないまま実家に戻り、弟妹達の下で下働きをしながら調理を学ぼうとするが、プライドの高さが問題となり、料理修行と称して旅に出る


「前世と全く同じような流れで流浪の料理人になりましたか。条件を変えても、性根を変えないとどうしようも無いですね。精神的に歳を取るとよほどの事が無いと他者の意見を受け入れられず、自分を肯定するので精一杯になる。上に一度相談した方が良さそうですね」

そう結論付けると、次の業務に取りかかるのであった。



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