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第五幕 プロローグ 『旅の再開』

 リッフェル領の事件も無事に解決し、私達一行は王都に向けての旅を再開した。

 思いがけず足止めされてしまったが、別に急ぐ旅でもない。




 そうして旅を再開した私達に、道中を共にする仲間が増えた。



「護衛…ですか?」


「ええ。まあ、形だけのような気もしますが…」


「ですよね〜。私なんてこの中じゃみそっかすですよ」


 私の問に、新たに道中を共にすることになったリュシアンさんが、一座の面々を見渡しながら答え、ケイトリンさんがそれに同意する。

 いや、みそっかすって…

 あなたも十分強いでしょう。



 …そう、リュシアンさんとケイトリンさんが王都まで一緒することになったのだ。


 しかし、護衛ね…

 私が護衛対象って事なんだろうけど、ウチの一座だけで事足りるからねぇ…

 そもそも私自身が自衛できるし。


 でも、リュシアンさんの立場としては王族(私)がプラプラしてるのを放っておけないのは理解できるし、旅の仲間が増えるのは単純に嬉しい。


 ちなみに、『リュシアン様』はやめてくださいと言われたので、『リュシアンさん』と呼んでいる。


 同じようにお嬢様も『ルシェーラ』と呼ぶ事になった。

 私としてはイメージ的に『お嬢様』なんだけど。

 まあ、もう既に友人だと思ってるし、それで良いかな。


 逆に私も『様』はやめてくれと言ってるので、『カティアさん』と呼ばれてる。


 ルシェーラには敬語も止めてくれと言われたので、普通に話すようにしてるのだけど…あなたも敬語じゃない?と言ったら『私はこれが普通ですわ』との事。




「でも、お嬢…ルシェーラに聞きましたけど、彼女よりもお強いんですよね。だったら形だけなんて事はないと思いますけど」


「そう言ってもらえると。ですが、しばらく会わないうちにルシェーラは随分と実力を伸ばしたようですね。もう、私とそれほど差はないと思いますよ。うかうかしてられませんね」


「本当ですか?嬉しいですわ」


 本当に嬉しそうだ。

 婚約者に褒められて喜ぶ姿は微笑ましいけど、内容は色っぽくないね。

 乙女としてどうなんですか、それは。


「やはり実戦に優る鍛錬はないという事ですね。事務仕事ばかりでは鈍る一方ですよ」


 実質的な騎士団のトップだものね。

 指揮はしても直接戦闘をする機会は少ないのかも。


「じゃあ、今度私と手合わせしません?」


「姫さ…カティアさんと、ですか?」


「これでもAランク冒険者ですから。鍛錬相手になれると思いますよ?私も強い人と戦ってみたいですし」


「あ、カティアさん、私も是非お願いしたいですわ」


 そこでルシェーラも食いついてくる。

 ブレないね。


「では、モーリス領に着いたら公爵邸の訓練場で…」


「ふふふ〜、ディザール様に稽古もつけてもらったし、色々試したかったんですよね〜」


「「え…?」」


「…カティアさん、ディザール様にもお会いしたのですか?」


「うん。カイトも一緒だよ」


 ちなみにカイトは、ミーティアに御者をやってみたいとせがまれて一緒に御者台の上だ。

 そう言えば、ミーティアに助けに来てくれた時のことを聞いたのだけど…あまり覚えていないらしい。

 (シギル)を発動したことも、転移魔法を使ったことも覚えておらず、リーゼさんがガックリしていた。



「ディザール様に稽古を…羨ましいですわ…」


「いや〜、全く手も足も出なくて二人ともコテンパンにされたよ。最後の方は二人がかりだったのに…もう、全然駄目だった!」


「…何でコテンパンにされて嬉しそうなの?カティアちゃんてMなの?」


「ち、違いますよ!強い人と戦えばいい訓練になるじゃないですか!」


「…ケイトリン?不敬な発言は上司として見過ごせませんよ?」


「いいじゃないですか〜、カティアちゃんだって変に気を遣われるのはイヤでしょ?」


「ふふ…そうですね。変わらなく接してくれる方が嬉しいです」


「ほら!何せ私達はガールズトークした仲ですからね!」


 やっぱりケイトリンさんは面白いね〜。

 最初あった時とは全然イメージが違うよ。

 …演技とか向いてるのでは?







 そんな、相変わらずゆる〜い話をしながら私達は街道を進んでいく。


 まだリッフェル領は出ていないが、もう盗賊には出会わない。

 領内の各町村に速やかに通達が巡ったのだろう。

 直ぐに元の生活に戻るのは難しいかもしれないけど、そこはもとに戻った領主様や、ヨルバルトさんが何とかしてくれるに違いない。



 やがて街道はゆるやかに傾斜し始め、登り道になっていく。

 これからリッフェル領とモーリス領の間、最高地点のフィラーレ峠までずっと登りだ。

 街道は馬車も通る広い道なので、なるべく勾配が緩やかになるルートになっているが、確実にスピードは落ちるだろう。

 それほど急峻な地形というわけではないが、ブレゼンタム〜王都まででは一番の難所と言える。


 今日の宿泊予定地はフィラーレ峠の少し手前にある、フィラーレの町だ。

 人口千人程度の小さな町なのだが、難所の宿場であるという事と、とある理由で町の規模以上に賑やかであると言う。

 その理由とは…


「いや〜、楽しみだなぁ。フィラーレ温泉と言えば王国でも屈指の保養地だからね!こっちに来るときは素通りだったから、帰りは絶対よって行こうと思ってたのよ」


 そう。

 ケイトリンさんが言った通り、フィラーレの町は温泉街…所謂リゾート地という事だ。


 この世界では入浴の習慣もあるし、温泉地をリゾートとして楽しむ文化もある。


 前世日本人としても非常に楽しみである。


「…でも、ウチはそんなに高級ホテルには泊まれませんよ?リュシアンさんとかはもっと相応しいところに泊まったほうが…」


 ルシェーラはお忍び名目で私達と一緒の宿に泊まったりしてたけど、あの閣下の娘だしなぁ…って、そこまで気にはしてなかった。

 でも、流石に公爵子息が普通の宿に泊まるってのはどうなんだろ?


「お気遣いありがとうございます。ですが、その心配は無用ですよ。私は騎士ですから、遠征で野宿も慣れてますし、軒先を借りて雨風を凌いだこともあります(それに、姫を差し置いてそのような事ができるはずも無い)」


 と、話が聞こえたのか、父さんがこちらにやって来て言う。


「おう、それなんだがな。今回は一座の慰労も兼ねて、結構奮発しようと思ってる。そこそこのグレードのところにしようか、って話をしてたところだ」


「ほんと!?じゃあ私、『フィラーレ・ロイヤルリゾートホテル』がいいな!」


「バカ言うな。そりゃあ、『そこそこ』じゃなくて最高級じゃねぇか。流石にそんなとこ泊まれるわけねえだろ。…まあ、そこは無理だが、高級ホテルと言ってもいいくらいのとこにはしようかと思ってる」


「やったね!…でも、ミディット婆ちゃんの許可は取ってるの?」


「ああ。と言うかババァが言い出したことだ。…何か天変地異の前触れじゃなきゃいいんだが」


「何言ってるの。婆ちゃんは厳しいけど、いつも皆のことを考えてくれてるよ」


「…お前たちに向ける優しさの十分の一でも俺らに向けてくれりゃあ言うことねえんだがなぁ」


 それだけ気のおけない関係ってことでしょ。





 段々勾配もきつくなり、木々の緑も濃くなって山道の様相を呈して来た街道を進むこと数時間。

 一座の一行は日が落ちる前には今日の宿泊地であるフィラーレの町に到着するのだった。


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