大魔王メリエル
「ふははははっ!!」
メリエルの高笑いが響き渡る。
どうやらかなりノリノリのご様子。
さて、カティアたち一行がやって来たモンスター・メイズ第三のエリアだ。
そこは森林地帯の風景から一変し、何やらおどろおどろしい雰囲気の屋内……魔王城の大広間と言ったところか。
そして目の前に現れたメリエル。
彼女は全身黒ずくめの格好で、本人は大魔王などと名乗っていたが……
「大魔王というか……どっちかと言うと、魔女っ子だよね」
「うんうん、すごく可愛いね〜」
大魔王というには威厳が足りてないようだ。
一応、こめかみの辺りから角が生えてるのが、彼女的には大魔王ポイントらしいが、それすら可愛らしい。
ちびっ子がコスプレしているかのような微笑ましさを感じて、カティアたちはほっこりしていた。
しかし、その空気はいつまでも続かない。
カティアたちの余裕の態度に、ぷんすか!とご立腹なメリエルは……
「むむ〜……我を舐めてると痛い目みるぞ〜。……よかろう!我の本当の力を見せてやる!出でよ!」
彼女が魔法の杖(魔女っ子ステッキ風)を振りかざすと星屑の煌めきが舞い散り、それが床に落ちると巨大な光の魔法陣を描き出す。
そして、ゴゴゴ……と地面が鳴動を始めたではないか!
「「「「!!??」」」」
カティアたちが驚愕の表情で立ちすくむ間も、刻一刻と事態は進行する。
石畳の床が割れ、大魔王メリエル(笑)の足元から何か巨大なモノが姿を見せ始めた。
そこに立ったままのメリエルを飲み込みながら、それはゆっくりと地面からせり上がってくる。
「ちょっ!?ここ本当に教室の中なの!?」
それは今更だろう。
やがて全容を現したそれは全高2〜30メートルはあろうかという見上げるほどの……
「……木?」
『ふふふ……ただの木じゃないぞ!』
どこからともなくメリエルの声が響くと、一見してただの大きな木のように見えたそれは更なる変化を見せはじめた。
幹が、枝が、葉が……グニャグニャと蠢いてその形を大きく変えていく。
「これは……竜!!?」
『ふふふ……ふははは!!どうだ、見たか!!これぞ我の力によって生み出されし大魔界樹・神竜形態だ!!』
「大魔界樹……!!」
「神竜形態だって!?」
ついにその真の姿を見せた大魔王メリエルに、カティアは驚愕する。
その威容はこれまでの魔物とほ比べ物にならない圧倒的な生命力を感じさせ、まさに大魔王を名乗るのに相応しいもの。
「くっ……何だか厨二っぽいけど……」
「でも凄くヤバそうだよ!?」
「しかし、これを倒せばクリアと言う事なんだろう?」
「……倒せますかね?」
巨大な竜を前にして戦闘態勢は取ってみたものの……魔法も使えず、果たして模擬剣だけでこれを倒せるものか?
『では、そろそろ行くぞ!!!』
……もうすっかり大魔王になりきってるメリエルである。
ともかく、熾烈な戦いの火蓋が切られた!!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ドゴォっ!!!
猛烈な勢いで振り下ろされた竜の尾が石畳を砕き割る。
「うわっ!?危なっ!!」
「ちょっ!?これ本当に安全なの!?」
大魔界樹・神竜形態(長ったらしいので、以後『魔界竜』)の攻撃を躱したギリギリで躱したカティア……そして彼女の肩に担がれたレティシアは、あまりにも苛烈で大迫力のそれに思わず悲鳴をあげる。
戦闘開始直後は戦って撃破することも考えたカティアたちだったが、やはり魔法が使えないハンデはかなり大きく、今は逃げの一手となっている。
フローラから聞いた話では、大ボスを倒さずともゴールに辿り着ければ良いはず……と、第三エリア『魔王城』の広々とした回廊を奥に向かって全力疾走しているところだった。
カティアとカイト、リディーは自らの足で走っているが、3人から遅れそうになったレティシアはカティアの肩に担がれていた。
最初は横抱きだったのだがその余裕も無くなっている。
「ステラとフリードがあんなだったの、これだよね!?」
「うぷ……ちょっと気持ち悪くなってきた」
「も、もう少し我慢して!!」
別の意味でもピンチである。
『ふはははは!!そぅら、逃げ惑うがよい!!!』
「完全になりきってるな……すっかり人格が変わってる。……!まずい!!ブレス来るぞ!!」
竜と言えばこれ!と言わんばかりに魔界竜は大きく息を吸い込んでブレスの予備動作に入った。
「学園祭のアトラクションでブレスなんか撃つな〜!!」
「く、来るよっ!!……うぷっ」
「あの柱の陰に!!」
リディーが指差した先、極太の柱の向こう側に回り込んでブレス攻撃から回避を試みる。
そして……!!
『GRRRRAAA!!!!』
耳をつんざく竜の咆哮とともに、その顎から光のブレスが放たれた!!!




