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第三幕 エピローグ 『告白』

 ついに王都へ旅立つ日がやって来た。


 カイトさんのことは吹っ切れたとは言い難いけど、お酒を飲んで愚痴ったら少しは気が晴れた…らしい。

 まあ、覚えてないんだけど。

 次の日に起きたらちょっとスッキリしてたのは確かだ。


 その日のことをロウエンさんに聞いても「かんべんしてほしいッス」としか言わないし、父さんに聞いても「まあ、甘える相手がいなかったからな。普通の絡み酒だったぞ」だって。

 普通の絡み酒って何なのさ…

 気になるけど、怖いので深くは聞かないことにした。




 今は一座の皆揃って東門外の馬車発着場に集まっている。

 小道具大道具などを積んだ荷馬車が3台。

 その他にも乗り合い馬車のようなものが3台あって徒歩と馬車を交代しながら旅していく。

 一座の総勢は、その家族も含めれば50名を超える大所帯だ。


 それぞれが挨拶回りした相手や、噂を聞きつけて集まった住民が見送りに来ているので早朝にも関わらず随分と賑やかだ。


 私も見送りに来てくれたユリシアさん、プルシアさんと別れの言葉を交わしている。


「ユリシアさん、プルシアさん、お世話になりました。つぎお会いするとしたら王都ですね」


「こちらこそ、贔屓にしていただきありがとうございました」


「そうそう、私なんかカティアちゃんのお陰で技術が上がったしね。感謝してもし足りないわ」


「そうだ、カティアさん、これを…」


「?手紙…ですか?」


「父の商会への紹介状です。何かご入用なものがありましたら、融通してくれると思いますよ」


「え!?いいんですか?」


「ふふ、こちらとしても、カティアさんと取引があるのはメリットがあるのでお気になさらずに」


「そうそう、歌姫カティアは王都でも話題をさらうこと間違いなし!だからね。有名人とコネが持てるのはウチとしてもありがたいのよ」


「そう言う事でしたら…ありがとうございます」


 メリットがあると言うのは本当の事だと思うけど、純粋な好意からだと言うのが伝わってくる。

 有り難く好意を受け取ることにする。




「カティアちゃん!」


「あ!レイラさん!皆さんも!」


 結局挨拶が出来なかったレイラさんたち元『鳶』の面々が見送りに来てくれていた。


「良かった、なかなか会えなくて挨拶できないと思ってました」


「ごめんなさいね、ちょっと長めの依頼を受けてたのよ」


「俺たちもだ。帰ってきたら噂を聞いたんでな。間に合って良かった」


「カティアさん、王都に行っても頑張って下さいね」


「レダさんとザイルさんもお元気で!」


「王都の近くには有名なダンジョンがあるからね。私達も何れはチャレンジするかも知れないわ」


「あ、そうなんですか?その時は是非会いに来てくださいね」


「もちろん、真っ先に会いに行くわよ!」








 さて、名残は尽きないがそろそろ出発だ。


 …って、ミーティアはどこ行ったんだろう?

 私と一緒に集合場所に来たはずなんだけど…

 私がユリシアさんたちと話し込んでいる間にどこかに行ってしまった。


 ん〜…もう馬車に載せてもらったのかな?



「お〜い!ママ〜!!」


 ああ、いたいた。

 やっぱりもう馬車に…って!?


「か、カカカ、カイトさんっ!?」


 ここ数日姿を見かけなかったカイトさんが、ミーティアと一緒に御者台に座っているではないか!?


「ああ、挨拶は終わったか?」


「ママ、おそ〜い!」


「え!?なんで!?どうしてカイトさんがここに!?」


「…聞いてないのか?」


「何を!?」


「いや、俺も王都に行くんだが。一座のメンバーとして」


「はあっ!?」


「おうっ!どうしたお前ら、何か揉め事か?」


 と、そこに父さんがやって来た。

 すかさず、どういう事かと詰め寄る。


「ちょっと!!父さん、どういう事!?」


「あ?何がだ?」


「カイトさんが!一座って!!」


「ああ…言ってなかったか?」


「聞いてないよっ!?」


「わりぃわりぃ。実はな、王都にって話があって直ぐにスカウトしてたんだ」


「はぁ!?じゃあ最初っからじゃない!!」


「おう。せっかくだからウチも楽団を充実させようと思ってな。カイトのリュートの腕前は知ってんだろ」


「えっ?えっ?じゃあ、最近街にいなかったのは?」


「…ダードさん、それも伝えてないんですか?」


「あ〜、すまん、忘れてたわ」


「と〜う〜さん!?」


「…俺もこの街は長いんだがな、近隣の町村にも知り合いがいるから挨拶に周ってたんだよ」


「…それで街にいなかったの…?」


「あ〜、どうやら行き違いがあったようだな…すまん…」


「うっ…うっ……うわ〜〜〜んっ!!」


 私は感極まって思わずカイトさんに抱きついた。

 感情が溢れ出て制御出来ないよ…


「お、おい!?」


「うぇ〜〜〜んっ!!」


「カティア…」


 子供のように泣きじゃくる私の背中を、カイトさんはポンポン、と優しく叩く。


「ママ、どうしたの?」


「ん〜?パパに久しぶりに会えて嬉しいんだろ」


「そっか〜!よかったね〜!」


 ミーティアと父さんが何か話してるが、それも頭に入ってこない。

 驚き、喜び、怒り、安堵、いろいろな感情が綯い交ぜになってもう訳がわからない。


「ぐすっ…ひっく…カイトさん…ひっく…カイトさぁん…」


 カイトさんの胸に顔をうずめて嗚咽をこらえる。

 ああ…こうしてると何だか安心するな…

 遠慮がちに背中に回されていた腕が力強く私を抱きしめる。


「カイトさん…私…カイトさんとずっと一緒に居たいよ…離れたくないよ…」


「カティア…」


「私は…カイトさんの事が好きです…」


 怖くて言葉に出せなかった想いが、自然と口を衝いて出てくる。


「カティア…俺は…」


「ううん、いいの。まだ、答えは出せないんでしょう?」


 カイトさんが何かを抱えてるのは分かってる。

 でも、もう私の気持を伝えるのを、抑える事なんてできなかった。


「約束したよね。いつか、カイトさんの悩みを聞かせてくれるって」


 あの星空の下で交わした約束を、私は覚えている。


「だから、私、カイトさんの力になりたいな…それで、悩みごとが解決したら、答えを聞かせてほしい…」


「…ああ、必ず。その時が来たら、必ずお前の想いに応えよう」


「はいっ!!」


 私は満面の笑みを浮かべて、抱きついた腕に力を込めて精一杯抱きしめた。







ーー ダードレイ、アネッサ、ミーティアのコソコソ話 ーー



(…もう、答えなんて出てるだろーに。ホント、くそ真面目なヤツだぜ。まぁ、カイトの事情も複雑だろうし、今はしょうがねぇか…)


(本当よね〜。あれでまだ付き合ってないなんて、おかしな話よね〜。でも、カティアちゃんが嬉しそうだし〜、これでよかったのかしら〜)


(ねえ、おじいちゃんたち、なにをこそこそおはなししてるの〜?)


(そうね〜、パパとママが仲良くて良かったわ〜、って事よ〜)


(パパ、ママ、なかよし!うれしい!)


(でも、ダードさん?カティアちゃんの怒りの矛先が向くんじゃないかしら〜?)


(…まあ、結果が良かったんだからいいじゃねぇか。そもそもアイツがうじうじしてたのが悪い)


(開き直りね〜。…ところで、いつまでああしてるのかしら〜?皆の注目の的になってるけど、二人とも自分たちの世界に入って気づいてないわね〜)


(…ああ。この後羞恥に身悶えするんだろうな。それで俺への怒りが吹き飛んでくれりゃあいいんだがな)


(ダードさんは反省した方がいいわ〜)


(おじいちゃん、めっ!なの)




ーーーーーーーー




 パチパチパチパチ、と言う拍手の音で我に返る。

 ふと周りを見ると、一座の面々と見送りに来ていた人たちの視線を一身に集めている。


 …

 ……

 ………みぎゃーーっ!?


 見られてた!?

 聞かれてた!?


 …そりゃそうだ、最初から皆いたんだもの。


 うわ〜〜〜っ!?

 は、はずかしぃ〜〜〜っっ!!

 公衆の目の前で子供みたいに泣きわめいた挙げ句、愛の告白を聞かれるなんて!?



「あ、あぅあぅ…」


「…これは恥ずかしいな…」


 あ、カイトさんも赤くなってる。

 いつも冷静なのに、何だか新鮮だ。


 すっごく恥ずかしいけど…ちゃんと素直な気持ちを伝えることが出来て、心は晴れやかだ。


 まだ答えは聞けないけど、彼の気持ちも伝わっている。

 後は、私がカイトさんの力になって、彼の悩み事を一緒に解決するんだ。







 ああ…あんなにも憂鬱だった旅立ちが、今は希望に満ち溢れている。

 我ながら現金なものだ。




 きっとこの道の行く先には色々なことが待ち受けているだろう。

 出会いや別れ、喜びや悲しみ、人生は山あり谷あり、旅のようなもの。

 その旅をともにしてくれる人がいてくれるなら、こんなに心強いことはない。

 血の繋がりはなくても、強い絆で結ばれた家族のような仲間たち。

 そして、愛しい人…




 私はこれからも、彼らと共に人生という長い旅路を歩んでいくんだ。




ーー 第三幕 転生歌姫と新たなる旅立ち 閉幕 ーー

少し短いですが、これにて第三幕は終了となります。

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