第十四幕 22 『エメリナの領域』
エメリナ大神殿……何故か総本山と呼ばれない事に疑問を抱いていたのだけど、つい最近その理由が分かった。
私達がメリアさんに連れられて訪れたウィラーの聖域。
あそこは普通の人々には知られていないが、王家や神殿関係者の間には神が住まう伝説の地として伝わっている。
何でも、そのような地を差し置いて『総本山』を名乗るのは恐れ多い……と言う事らしい
そんな話をしながら私達は大神殿の階段を登る。
「あそこは神代以前からある精霊信仰の聖地だし、私は関係ないんだけどね〜。多分、時代が進む過程で信仰が混ざっちゃったのかな?」
「なるほど」
「今のあのメリアは、地脈の守護者みたいなものなのよ」
「え!?……そうだったの?ウパルパ様とかゼアルさんと同じ?」
「そう。元々はあの娘の育ての親がその役割を担っていたんだけど」
育ての親……メリアさんに薬師としての知識と技術を伝えたと言われている、『森の魔女』の事だね。
さて、そんな話をしているうちに礼拝堂の中に入り、祭壇の前までやって来た。
かなり多くの人はいるものの、広大な空間なので混雑するほどではない。
リナ姉さんの神像の前まで進み出るが……
「……あまりエメリナ様ご本人とは似ておりませんのね」
ルシェーラが像を見ながらポツリと呟く。
確かに……美しい女神を模した素晴らしい美術品とも言えるのだけど、本人にはあまり似ていない。
リル姉さんの神像もそんな感じだったね。
まぁ、本人を見ながら作ったわけじゃないだろうし、仕方ないだろう。
「リナ姉さんは、もっとこう……元気溌剌な雰囲気じゃないと」
「いいんじゃない?これで。あまり私に似せすぎても、メリアあたりに『威厳が無い』とか言われそうだし」
気にしてるのか……
「でも、地上に降臨されてお顔が知られたから……作り直されたりして」
「メリエルをモデルにしても良さそうね?見た目も雰囲気もよく似てるし……」
ステラの言う通りかも。
二人並ぶと姉妹みたい。
「さ、そんな事より……リルお姉ちゃんに会いに行きましょ」
リナ姉さんに促されて、それぞれ跪いて両手を組み祈りを捧げる……フリをする。
なんせ、その対象は隣にいるわけだからね。
「……ここがリナ姉さんの領域?」
いつもの神界に引き上げられる感覚がして、気が付いた時に立っていた場所は……
「森の中の湖……綺麗」
ステラがうっとりと呟く。
彼女が言った通り、そこは静かな湖畔の森の中であった。
カッコーは鳴いてない。
と言うか、ステラがいるということは……やっぱり。
私やテオ、メリエルちゃんだけじゃなくて、ステラにルシェーラ、シフィル……一緒に神殿に来ていたメンバー全員が神界に招かれたようだ。
「ここがカティアさんが仰っていた神界ですのね」
「私達も招かれるとは思ってなかったわ」
「私が地上側にいるからね。折角だから皆様一緒にご招待よ」
そしてもちろんリナ姉さんも私達と一緒に神界に来ている。
「さて、リルお姉ちゃんは……私の家かな?ほら、あそこ」
そう言ってリナ姉さんが指差す方には……長い桟橋のように湖に突き出た細長い陸地が見えた。
その先に一軒の家が建っている。
あれがリナ姉さんの家なんだね。
よく目を凝らすと、家の前の庭に誰かが立って、こちらに向かって手を振っている。
「リル姉さんだね」
「だね。それじゃあ、行こうか」
「「「はい!」」」
そして私達一行は、リナ姉さんの家に招待されるのであった。




