幕間24 リナちゃんとメリアさんの森都ぶらり街角訪問(1)
「というわけで。せっかく地上に降りたんだから、久し振りに街を散策したい!」
森都での戦いが終わって数日後の事である。
エメリナは突如としてそんな事を言い出した。
森都防衛戦は、彼女の力もあって戦いの規模の割には犠牲者も無く、建物の被害も比較的少なかった。
なので戦後とは思えないくらいに街は明るい雰囲気である。
そうでなければエメリナも空気を読んで、街を散策したい等とは言わなかっただろう。
「そうねぇ……私も久しぶりだし、森都がどれだけ変わったか見てみたいわ」
エメリナの話し相手をしていたメリアも、その提案に同意する。
なお、彼女たちが居るのは王城の客室。
当然ながら他国の王族をもてなす為の最上級のものである。
因みに、カティアとエメリナ、メリアが同室となってる。
元々は別の部屋を充てがわれていたのだが、三人とも『一緒が良い』と申し出た結果だ。
そしてカティアは現在、会議に呼ばれているため不在である。
「と言うかリナちゃん?あなた、いつまで地上にいられるの?ずっと……というわけでは無いのでしょう?」
「ん〜……結構力を使ったけど、まだ暫くはこの身体も維持できると思う。多分……一ヶ月くらいは」
エメリナが地上に降臨するに当たっては、地上で活動するための仮初めの身体を創造している。
今の彼女は高濃度の魔素をベースにした精神体……精霊に近しい存在だ。
周囲の魔素を吸収してある程度の期間維持できるものの、神の器としては不十分なので、いずれは活動限界が訪れる。
「そっか。じゃあ、その前に思い出作りしないとね」
「……うん」
メリアの言葉に、エメリナは少し寂しくなって目を伏せる。
そして、少し間をおいてから顔を上げて、懇願するように言う。
「ねぇ、メリア……あなたも、神界に来ない?」
「あら、どうしたの?急に……」
「ううん、別に……理由があるわけじゃないけど。久しぶりに地上に来たから、ちょっとセンチな気分になっちゃったのかも」
自分自身の感情をそう分析して、自嘲気味に苦笑しながらエメリナは言った。
「リナちゃん……。私は、所詮は影の存在だからね。役割が終われば輪廻に帰る事になるわ。そしてそれは……もう間近に迫ってると思う」
「……」
「あなたたち神々も同じでしょう?未来永劫まで人間たちを見守るつもりは無い……そう、地上を離れるときに言ってたもの」
「……そう、ね。たぶん私達もメリアと同じ。役割を果たすために今まで人々を見守り……そして、今この時代できっと……。その時こそ、本当の意味での神代の終わりなのかも」
「ま、どんなに離れていようと……魂が輪廻に帰ろうと……私たちがずっと友人であることに変わりはないわよ」
「……うん!もちろん!」
少ししんみりした空気は、いつものようにエメリナの元気な声で霧散するのであった。
「さて。じゃあ街に出かけようか!……と言いたいところだけど、流石にこのまま私達が街に出たら大騒ぎだよねぇ?」
「でしょうね。派手に登場したから、目撃した人も多いだろうし」
天から舞い降りたエメリナは、それはそれは目立っていた。
当然、彼女の姿を目撃したものは相当数に登るだろう。
更に、ウィラー王国の民は当然エメリナを信奉している。
信仰の対象が街をぶらついていたら、大騒ぎになることは必至だ。
「う〜ん……カティアちゃんやメリエル達が戻るまで待ってたほうが良いかな……?」
「……あの娘たちも大概目立つと思うけど。まぁ、変装すれば大丈夫でしょうし、案内は欲しいから少し待ちましょうか」
というように……二人は、カティア達が戻ってくるまで街を散策する計画を立てていくのであった。




