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第三幕 5 『激戦』

 当初の予定通り、開幕初撃の広域魔法3連発が功を奏し軍団(レギオン)の魔物はその多くを失った。

 しかし、それでもまだ数多くの魔物が残っており、こちらの兵力と比べてもまだ互角の状況だ。

 戦いはこれからが本番とも言えるだろう。



 開幕で大魔法を放った私、姉さん、リーゼさんは殆ど魔力を使い切っているためこれ以上は直接的な戦闘行為は継続できない。


 だが、まだ私にはやるべき事がある。

 私だけのスキル[絶唱]による全軍への支援。

 これほどの広範囲を対象とするのは初めてだが、これによって戦況が大きく左右されるかもしれない。

 責任は重大だ。


 そういえば、ゲームにおけるカティアがNPCとして登場したのは、このような戦争イベントでの事だった。

 今回と同じように、戦場全体に[絶唱]による支援が行き渡り、まるで○○無双みたいに敵を蹴散らしたっけ…



 さあ、舞台(ステージ)に上がろう。

 特別公演の始まりだよ!


「姉さん、[拡声]をお願いできる?最大級で」


「ええ、それくらいなら問題ないわ〜。頑張ってね〜。[拡声]!」


 声を大きくして遠くまで伝えることが出来るようになる魔法だ。

 最大威力で使えば戦場全体をカバーする事も可能だろう。


 私は領軍、冒険者たちの前に進み出て宣言する。


『皆さん!これより私のスキルで皆さんに支援を行います!私が歌を歌っている間は皆さんの能力が底上げされるはずです!どうか、ご武運を!どうか、無事に帰ってきてください!』


「「「うおーーーっっ!!!」」」


「「「カティアちゃーーん!!!」」」


 うわっ!?

 凄い盛り上がりだ!

 何かライブ会場みたいだよ…

 これは歌手として気分が上がるね!


 いくよ、ダードレイ一座が誇る歌姫の大舞台、魅せてあげる!


 そして、私は[絶唱]を発動させるべく、勇ましき行進曲を歌い始めた。




『見よ、我らが行く先にある栄光を

 勇敢なる者たちよ、恐れることなかれ』


(どうか、みんなに力を…)


『女神の加護は我らとともに

 我が歌声は勇者を導く女神の福音』


勝利の女神(リリア姉さん)、みんなを守って…)


『行け、その手に勝利を掴むまで

 行け、道を切り拓き、勝鬨を上げるまで』


(お願い、みんな死なないで!)




 戦場に私の歌声が響く。

 戦いが終わるその時まで何度でも繰り返す。


 リリア姉さんの加護もある。

 あとは彼らを信じるだけだ!

 








ーー ブレーゼン領軍の兵士たち ーー



 今回の魔物の軍団(レギオン)の規模が判明したとき、多くの兵はその戦力差に死を覚悟していた。


 しかし、特級の広域殲滅魔法の使い手が三名も参加するという話を聞くと、それに希望を見出していた。


 実際に振るわれた魔法の威力を目の当たりにし、魔物の数が目に見えて減じると、兵たちの士気は一気に上がった。



 そして、一人の少女が進み出る。

 ブレゼンタムの誰もが知る有名な歌姫。


 彼女が勇壮な行進曲を歌い始めると、その歌を聞いた誰もが体中に力が漲るのを感じた。


「凄え…力が湧いてくるぞ!」


「カティアちゃんの歌にこんな力が?」


「これなら、ゴブリンやオークごとき楽勝だぜ!」


「それだけじゃねぇ、あの娘の想いが伝わってくる…『どうか、死なないで』って…」


「ああ…!あの娘を悲しませるもんか!絶対に生きて帰るぞ!」


「「「おうっ!!」」」


 そのようなやり取りが、そこかしこで行われていた。


 兵士たちの士気はこれ以上無いくらいに上がり、誰もが突撃命令を待ちわびていた。



 そして、侯爵夫人の美しくも凛々しい声が響きわたり、全軍に突撃命令が下された。


ーーーーーーーーーー




ーー 遊撃部隊 ーー



「…これが、[絶唱]の効果だってぇのか?」


「はい、おじさま。以前も遺跡の探索依頼の際にかけてもらったのですが、非常に有用でした。…何だかこの間よりも更に力が漲っている気がしますけど」


 ルシェーラの感覚は正しい。

 今回はカティアの[絶唱]の効果の他にも加護の効果が及んでおり、能力の上昇度合いは以前の倍ほどとなっている。


「これがカティア殿のスキルか。凄まじいものだな。このようなスキルがあるとは初めて知った」


「…こんなおおっぴらに使っちまって、後々厄介事にならなきゃいいが…」


「すみません、おじさま。ですが、カティアさんのお陰で犠牲を最小限に抑えられるのです。今回はどうしても…」


「ああ、別に責めちゃいねぇ。厄介事があっても俺が守ればいいだけの話だ」


「ダード。俺たち、だ」


 ティダの言葉に、同じ一座のハスラム、デビッド、クライフが頷く。


「んあ?そうだな。カティアに仇なす者はうちの一座が黙っちゃいねえ」


「ダードさん、俺もですよ」


「ははっ、そうだったな、カイト。…ところで、カティアから何か話はあったか?」


「?何の話です?」


「ああ、いや、何でもねえ(まったく、何やってんだか…)」





「!全軍に進軍の合図が出ましたわ。おじさま、私達も行きましょう!」


「おうよ。だが、行軍指揮はお前だろう?」


「ええ!…ルシェーラ隊、行きますわよ!雑魚は無視して狙うは大将首よ!」


「「「応っ!!」」」



 カティアの魔法によって蹂躙された敵軍の中央より大将に向って一気に突撃すべく行軍を開始するのだった。












「せりゃあーーっ!!」


 ルシェーラが裂帛の気合と共に槍戦斧(ハルバード)を振るうと、一度に二〜三匹を纏めて屠る。


 カティア達の魔法によって多くの魔物が倒されたとはいえ、大将に至るまでの道筋にはまだかなりの敵が行く手を阻んでいる。

 しかし、ブレゼンタムでもトップクラスの実力者で構成された部隊は、カティアの支援の効果もあり瞬く間に魔物を打倒して着実に魔物たちの総大将に向かって進んでいた。


「やるな嬢ちゃん。まるで親父の戦いぶりと重なって見えるぜ」


「ふふ、ありがとうございますおじさま。ですが私などまだまだ経験不足ですわ。カティアさんの支援がなかったら果たしてどれだけやれたか…」


 次々と魔物を屠りながらも会話するだけの余裕すらあるようだ。


「そんだけやれりゃ十分だと思うがな。しかしその槍戦斧(ハルバード)、見覚えがあるな」


「ええ、お父様から譲り受けました侯爵家伝来の『ルーンハルバード』ですわ」


「やっぱりか。しかし兄貴じゃなくてお前に譲るとは」


「兄は武官よりも文官寄りですからね。有効に使える私に、と」




「ダード、おしゃべりはそこまでのようだぞ」


「このプレッシャー、もうすぐそこにいるようです」


 ティダとカイトが警告を発する。

 ほんの数十メートル先に敵大将が居るようだが、その前には…



「ゴブリンキングか!」


「オーガキングもいるぞ!」


 ボスを守る最後の砦といったところか。

 ゴブリン、オーガの中でも最強クラスの敵が数匹立ちはだかる。


王種(キング)を配下にしているという事は、やはり皇帝種(エンペラー)なのは間違いないな!」


「カティアの支援がある今なら王種(キング)と言えども問題にならん!一気に倒して大将を丸裸にするぞ!」


 ダードレイは味方を鼓舞して自身はオーガキングに肉薄し、その勢いのまま大剣を叩きつける!


「グギャアーーッ!!」


 袈裟がけに切り裂かれたオーガキングは血飛沫を上げて絶命する。



 ゴブリンキングにティダが音もなく接近、すれ違いざまに目に見えぬほどの連撃を見舞って切り刻む。

 相手に攻撃どころか視認さえさせずに一方的に倒してしまう。

 まるで通常のゴブリンに対するのとなんら変わらない。



 もう一人のAランク冒険者、フランツも負けてない。

 まるで歩くような足取りで、ふらっとオーガキングの前に出たと思うと、僅かに反りのある長剣を抜き放ち…と思った瞬間には既に納刀している。

 遅れてオーガキングの上半金と下半身がズレていきなき別れとなる。




「流石はAランク、桁違いの強さですわね」


「俺も負けてられんな、はあっ!!」


 カイトはゴブリンキングの戦斧の一撃を紙一重で避けながら、ミスリル合金の長剣で首筋に切り込むと、その太い首を一撃で断ち切ってしまう。


「カイト様も、負けてないですわね。それにその剣…凄まじい切れ味ですわね」


「ああ、こいつは特別製だ。俺には勿体ないくらいの業物だよ」


 その表情はどこか嬉しそうだ。

 カティアの神代魔法によって生み出された剣はしっかりと研ぎも行われ、その切れ味は魔剣とも呼べるほどに凄まじいものとなっていた。

 本来はAランクに相当するゴブリンキングを一刀のもとに切り伏せたのも、カイト自身の剣の腕もさることながら、この剣の存在によるところが大きいだろう。



「よし!抜けるぞ!」


「…いた!大将だ!」


「オーガエンペラー!」


 側近とも言うべき王種(キング)たちを瞬く間に倒した遊撃部隊は、ついに魔軍の大将に相対することとなった。



 その相手はオーガ系の魔物の中でも最強を誇る、脅威度Sランクのオーガエンペラー。


 そのプレッシャーは、かつての異界の魂に乗っ取られたオーガもどきのそれに匹敵するほどのものだ。

 通常のオーガよりも一回りも二回りも上回る巨躯を誇り、圧倒的なパワーから繰り出される攻撃はいかなる防御も意味をなさないだろう。

 体はまるで血に染まったかのような真紅であり、額の中央と両脇に合わせて3本の捻じくれた角が生えている。

 その手に持つのは曰く有りげな禍々しさの大戦斧。


 まさに魔物の皇帝たる風格。

 これまで屠ってきた魔物たちとは一線を画す相手に違いない。




『人間共め、まさか、ここまでやるとは…』


「「喋った!?」」


『ふん、魔物が喋るのがそんなにおかしいか?』


「…ああ、おかしいね。例え皇帝種(エンペラー)と言えども、魔物が喋るなんて話は聞いたことがねえ」


 ダードレイの言う通り、魔物というのは理性をほとんど持たず、人間を見れば一方的に襲ってくるのが常だ。

 ましてやこのように会話をするだけの知能を持つなど、あり得ないことだった。


『ククッ…まあ、俺は特殊かもしれんな。ともかく、どうやらお前たちが一番の強者であろう。ならば、お前たちとあの強力な魔法を使う奴らを倒せば、後は雑魚ばかりという事だな』


「はっ!なに勝った気でいやがる。お前はここで倒されるんだから後の心配なんざ必要ねえ。ごたごた言ってねえでさっさとかかってきな!」


「待って、おじさま!…あなたは何故喋れるの?特殊だと言ってたけどどういう事なの?」


『ふん、それは教えてやる義理はないな。自分で考える事だ』


「なら!目的は何なの?」


『目的?決まってる。この先には大きな人間の街があるだろう?そこを支配して、我らの王国を築くのさ。人間共は皆奴隷にしてやる。男どもは死ぬまで強制労働、女どもは我らの繁殖のための母体になってもらおう』


「!?…そんな事はさせませんわ!」


「おい、てめえ。随分と能天気じゃねえか。はっきり言っておめえの配下は全然手応えがなかったぞ。そんな体たらくで人間様に勝とうなんざ片腹痛えわ」


『…ふん、雑魚を何匹屠ったくらいでいい気になるなよ。俺をそこらのやつらと同じだと考えんことだ』


「まあ、同じじゃねえな。口だけはよく回るみてえだしな」


(…ダードさん、煽りまくりだな。しかし、上手い手かもしれん。これで冷静さを失ってくれればやりやすい)


『きさま!その減らず口、後悔するなよ!!』


 意図的なのか、そうでないのか。

 ダードレイの煽り文句にオーガエンペラーは冷静さを失い、怒りに震えて襲いかかってきた!



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