第十三幕 52 『森都防衛戦6 精霊樹』
私が参戦して暫く経った。
膠着状態、あるいは押し込まれつつあった戦況は、徐々に反転攻勢へと移行する。
自分で言うのも何だけど、印を常駐化させた私の力は他の兵力とは一線を画すもので、縦横無尽の無双状態だった。
この分なら他の皆も……いや、油断は禁物だ。
ウィラーを陥落させるのが目的なら、七天禍の誰かが来てるかもしれない。
それだけじゃない。
アクサレナで猛威を振るったあの黒魔巨兵。
調律師は仕切り直すなどと言っていたが、その間投入しないという訳でもないだろう。
今のところグラナ兵の中に嫌な雰囲気を感じた者はいなかったが……注意はしておかないと。
魔物も一般兵にとっては脅威だけど、精々がCランク程度だろうか。
私が優先的に倒してるので問題ない。
出来ることならこのまま押し切りたいが……
ーーーー ステラ ーーーー
エメリナ大神殿の大鐘楼へと上った私は、街を俯瞰して戦況を確認することができた。
大樹広場を要とした扇形に区切られた区域。
北街区のそこかしこで戦闘が行われているのが良く分かるわ。
一番大規模な戦闘が行われているのは、北門から大樹広場に向かうメインストリートかしら。
そこにはカティアが向かったはず。
今は徐々に敵勢力を押し戻しているように見えた。
他の場所でも攻勢に転じているところがいくつか。
何れも印持ちの誰かしらが参戦しているところでしょう。
私の役割は、カティアたちがカバーしきれない戦闘区域のフォロー。
普通の弓ではここから戦場まで矢を届かせることなど出来ないでしょうけど……
私は印を発動して弓を構え、数本の矢を同時に番える。
そして、慎重に狙いを定めて弓を引き……矢を解き放った!!
そして、その矢が届くのを確認する前に、次の矢を素早く番えて再び放つ!
それを何度も繰り返す。
私の印の力によって呼び出された弓から放たれた矢は、銀の光を纏って狙い通りに敵陣へと降り注いだ。
きっと……今の攻撃は、魔物だけでなく敵兵の何人かの命を奪ったかもしれない。
なるべく魔物が密集している場所を狙ったつもりだけど、それも完璧とは断言できない。
人の命をこの手で奪ったかもしれない。
ともすればその事実に手が震えそうになるけど……
(カティアやテオフィルスさんたちはもっと過酷な前線で戦ってるのよ。安全な場所から狙撃してるだけのあなたが、そんな事でどうするの?しっかりしなさい!!)
自分で自分を叱咤して、さらに攻撃を続ける。
だけど……
願わくば、出来るだけ早く、犠牲がこれ以上増える前に戦闘が終わってくれますように……
ーーーー メリエル ーーーー
エメリナ大神殿の鐘楼から無数の銀の光が放たれるのが見えた。
多分あれはステラが頑張ってるんだね。
私も頑張って参戦するよ!!
……なんて意気込んでみたけど。
さて、どうやってグラナをギャフンと言わせようか?
カティア達にも後から参戦するって言ったけど、魔法使いの私が単独で前線に向かうのは無謀すぎるよね。
私だって、ちゃんとそれくらいは分かってるんだから。
お父さんにお願いして兵士さんを借りても良いけど……ここは折角だから、アレを使おうかな?
何が出来るかは実際に試してみないと分からないけど。
私は、ここ大樹広場の主……この森都を見守っていると言われている御神木『慈悲深き者の精霊樹』に歩み寄る。
ウィラー大森林の大木ですら若木に見えるほどの巨木。
大人が十人いても囲めない程に太い幹に手を当てる。
お父さんたちの『何をするつもりなのか……?』と言う視線をヒシヒシと感じるけど、私はそれらの雑念を払い意識を集中させていく。
……多分、私の『緑の支配者』の力だけでは足りない。
(……お姉ちゃん、力を貸して!)
私は目を閉じて更に集中する。
私の力と、お姉ちゃんから受け継いだエメリナ様の力。
今、ウィラーを守るために!!
そして、私の意志に呼応するかのように目の前に複雑精緻な光の文様が浮かび上がった。
「おぉ……!本当に……メリエナから受け継いだのだな……」
お父さんが感嘆の声を上げるのが聞こえた。
「精霊樹よ!!お願い!!私に力を貸して!!」
私の願いと、『緑の支配者』の力を乗せた印の光が精霊樹に吸い込まれる。
そして、巨大な樹全体が淡い光を放つ。
「せ、精霊樹が……!?」
「何が起きるんだ?」
「メリエル様の力とは、一体……?」
多くの驚きの声でその場がざわめく。
何が起こるのかは、まだ私にも分からない。
精霊樹……あなたの力を、私に教えて?
そして……私と一緒にウィラーを守って!!




