第十三幕 45 『行動方針』
…
……
………
「はっ!?」
「ん?どうした、カティア?」
ふと気が付くと……私は現実世界に戻っていた。
突然変な声を上げた私に、テオが不思議そうに聞いてくる。
「ううん、大丈夫……ちょっと初代女王様に招かれてただけ」
「「「「……はい?」」」」
『ワフッ?』
うん、意味不明だよね……
でも、『何言ってんだ、こいつ?』みたいな目で見ないでください。
凹むから。
「実は……」
そして私は、メリアさんに彼女の領域に招かれた話をする。
ただ状況が状況だけに、少し急ぐよう皆に促し……足早に歩きながら、だ。
「…………と言う訳なんだ」
「まさか……メリア様がご顕在だったなんて」
メリエルちゃんが呆然と呟く。
ご顕在……というのとは少し違うと思うけど。
まぁ限りなく本人に近いし、子孫としては驚きだよね。
「……コピーと言うと、もしかして?」
「どうしたの、テオ?何か気になるの?」
「あぁ、いや……ほら、俺たちが攻略したアクサレナのダンジョンで克己の試練があったじゃないか」
克己の試練?
……あぁ、アレか。
そうか……あれも当人のコピーを生み出して試練の相手にしてたんだっけ。
「賢者リュートと面識があって、ダンジョンの知識も教わったと言う話だからな。もしかしてあれと似たような術で生み出された存在なのか……と思ってな」
「なるほど。そうかもね」
「まぁ、それは蛇足だな。今はとにかく森都に急がなければ」
「だな。だけど……作戦は考えておく必要があるんじゃないか?」
「私もそう思う。状況次第なのは確かだが、ある程度の行動指針は必要だろう」
イスファハン王子とジークリンデ王女がそう言うが、それは尤もな話だ。
メリアさんの話では、どんなに急いでも敵の侵攻の方が早いだろうとの予測だった。
だとすれば、私達が森都に到着する頃には既に開戦してるということだ。
「……森都は防壁こそあるものの、それ程強固なものじゃないよ。長くは耐えられないかもしれない」
メリエルちゃんが複雑そうな表情で言う。
天然の防壁とも言えるウィラー大森林があるのだから、元々そこまで外敵の侵攻を想定していないのだろう。
「……となると、到着したら既に市街戦になってる可能性があるのか」
「それは想定しておいた方が良いだろうな」
市街戦……市民の犠牲は出したくないけど、確かにその可能性は考えておく必要がある。
「メリエル、簡単で良いから森都の位置関係を教えてくれない?門や王城、主要な施設とか……」
ステラがメリエルちゃんに確認する。
それによると……森都の防壁はほぼ真円形。
門は北、南東、南西の3箇所で、王城は円の中心からやや西にずれた位置にある。
私達が本来の巡礼街道に沿って進んでいるのなら、森都の南東にある東門に到達できるはず。
一方の敵兵力は、メリアさんの情報によれば森都北方面から侵攻しているらしいが……全周囲に展開できるほどの兵力はなさそうとのこと。
これらの情報をもとに、ステラは歩きながら簡単な地図を描いたりメモを書き込んだりしてる。
「それから……皆の印の能力は共有しておきたいわね。印持ちは一騎当千……とはいかないまでも、戦術レベルではかなりの戦力になるわ。状況次第ではあるけど……市街戦になって戦闘区域が広がっていたら私達は分散した方が良いと思うのよ」
確かにステラの言う通りかもしれない。
何となく実力の程は分かってるつもりだけど……印だけでなく各人の能力は押さえておいた方が連携も取りやすいし、作戦立案の材料にもなる。
ということで、各々が自身の出来ることを共有し、これまでに整理した情報と合わせて行動方針を決めていく。
不確定要素が多いので、臨機応変という感じにはなるけど……ある程度の行動パターンは整理できたかな?
「あとは……念のためイスパルの後発隊に連絡しておかないとね。森都の決戦の援軍は時間的に無理だと思うけど……国境方面に睨みは効かせておいてもらった方が良いかも」
森に入る前にも通信魔導具で状況は伝えていたが、メリアさんに聞いた情報も含めて最新の状況と私達の行動方針を伝えておいた方が良いだろう。
そして……決戦の時はもう目前に迫っていた。




