第十三幕 9 『死闘』
夢の中の最終決戦は続く。
残ったのはテオフィールとリディアの二人。
激しい戦いによって、リディアの呼吸は荒くなり、テオフィールはそれ以上に疲弊している様子。
二人共まだ印の輝きは失われてはいないが、長くはもたなそうだ。
対する魔王は未だ力の底が見えず、全くの無傷で疲労も感じられない。
泰然と佇んで二人の勇者を余裕の表情で待ち構える。
『リディア、俺も前に出る』
『テオ……うん、お願い!』
今まで見てきた夢の中では、テオフィールは『異界の魂』に対抗するため印の発動と制御に集中していた。
その彼が剣を抜き放ってリディアと並び立った。
手にするのは、シンプルな形状ながら、黒い剣身に無数に散りばめられた輝きを持つ神々しいオーラを纏った剣。
まるで夜空の星々を集めたようなそれは、もしや……あれこそが星剣イクスヴァリスの真の姿か!
そうか……リディアと同じく、テオフィールも神器を最終決戦に持ち出していたんだね。
そして、二人は魔王に決死の戦いを挑む。
二人の剣の技量は達人の領域を遥かに超えて、神技と呼ぶべきほどに研ぎ澄まされたものだった。
更に、これまでの長い戦いの旅で培われた息の合った連携も……並大抵の敵ならば、とうに打倒出来ていたに違いない。
だが、それでも魔王はその場から動くことなく巨剣一本で二人の攻撃を尽く弾く。
あれ程の力を持つ二人をもってしても、掠り傷一つ与えることが出来ない。
そして、やはり全く本気を出していないように見える。
……正に魔王と呼ぶに相応しい隔絶した力を持っているのが良く分かった。
『はぁっ……はぁっ……なんて……強さなの……』
『……まるで攻撃が通らないとは』
何度攻撃しても結果は同じだった。
このままでは二人は体力を消耗するだけで、何れは……
『こうなったら……一か八か、賭けに出るわ』
『……あれを使う気か?』
『ええ。もうそれしか方法は無いでしょう?』
『……分かった』
どうやらリディアには何か切り札があるようだ。
それをここまで出さなかったのは……相応にリスクが有るということ。
彼女が言う通り、一か八かの賭けなんだろう。
『必ず隙を作るから……テオは滅魔の刃をあいつに叩き込んで!』
『ああ……任せろ!!』
『ふ……まだ何かするつもりか?もうお前たちの力では、私には勝てぬということがまだ分からぬのか。大人しく我が軍門に下れば、悪いようにはせぬぞ?』
『ほざきなさい、余裕の表情もそこまでよ。……[戦神降臨]!!!!』
!!
それが切り札か!
リディアの身体から青い闘気が勢いよく噴き上がり、印の青い光と混ざり合ってより鮮烈な輝きを放つ!!
ドンッ!!
爆発音を伴う猛烈な踏み込みによって、残像すら残しながら一瞬で魔王との間合を詰め……
『でやあーーーーーっっっ!!!!』
ギィンッッッッ!!!!
聖剣と巨剣が交錯する!!!
『ほうっ!?そんな隠し玉を持っているとはな!!面白い!!』
リディアの切り札に、流石の魔王もしっかりと剣を構えて猛然と襲いかかる斬撃を迎え撃つ!!
完全に本気を出してるのかは分からないが……今度は魔王もそれほど余裕はなさそうだ。
互角の戦いが繰り広げられているように見える。
しかし、おそらくは[鬼神降臨]と同じように発動時間はごく短いはずだ。
果たして、短期決戦の選択は吉と出るか凶と出るか!?
『ハァーーーッッ!!!』
『小娘がやりおる!!だが、それでも私を倒すことは出来ぬぞっ!!!』
ギィンッッッ!!!
ガィンッッ!!!
ドゴォッッ!!!
これまで防御しかしてこなかった魔王も、遂には巨剣による攻撃を繰り出すようになった。
二人の戦いは、もはや猛烈に吹き荒れる暴風の如く誰も寄せ付けない領域となる。
隙を伺うテオフィールも手出しが出来ない状況だが……印の光は燦然と輝きを増して、聖剣に集まって光の刃を形作る。
今はただ、リディアが隙を作るという言葉を信じて、滅魔の刃を研ぎ澄まさせているのだ。
そして、膠着していた状況が遂に動く!!
『中々楽しめたが、ここで終わりにしてやる!![天魔波旬烈氣]っ!!!!』
僅かに間合いが離れた瞬間、魔王の纏った漆黒のオーラが爆発する!!
圧倒的な破壊の力をもった闇の衝撃波が、魔王を中心に広がって周囲の全てを飲み込もうとする!
しかし、それがリディアを飲み込もうとした、その瞬間……!
『[至天一閃]!!!』
床を削りながら天に向かって聖剣が斬り上げられる!!
剣を纏っていた青い光が斬撃となって、目前まで迫っていた闇の衝撃波を切り裂き、そのまま魔王に襲いかかる!!
『!!?うおーーーーっっ!!!』
ドゴォーーーーンッッ!!!!
大技を放って硬直したところに、まともに直撃!!
だが、完全に衝撃波を相殺しきれなかったリディアも大きく吹き飛ばされる!!
『キャアーーーーッッ!!!』
ゴロゴロと何度も床を転がってようやく止まったが、もう既に青い輝きは失われ……彼女の目から光が失われていく。
『リディアっ!!!』
『テオ……今よ……!!止めを……刺してっ!!!』
最後に声を振り絞ったところで、リディアは気を失ってしまった。
そして、その場面を最後に……私の視界も急速に白い靄で覆われていくのだった。




