第十一幕 9 『本気』
シフィルは再び刺突短剣を構え、私と相対する。
先程もそうだったが、攻撃の合間にも射尽くした筈の矢を回収しながら弓による攻撃も織り交ぜてくる。
この娘の持ち味はやはり息をもつかせぬほどの攻撃にあるのだと、改めて実感した。
守勢に回れば一気呵成に攻め立ててくる。
だったら……こっちも攻撃あるのみ!
私は精神を極限まで集中する。
雑念を振り払い感覚を研ぎ澄ませて、必要なもの以外はシャットアウト。
周りの声が聞こえなくなる。
目に映るのは対戦相手のシフィルのみ。
さあ……行くよ!
ーーーー シフィル ーーーー
…カティアの雰囲気が変わった。
これは、いよいよ本気を出してくるわね。
普段は感情豊かでコロコロと変わる表情が、ストンと抜け落ちる。
ピリピリと空気が張り詰める。
闘気の高まりは感じるが、それはあくまでも静謐で……
あれは、カティアが武神杯の決勝で見せた武の極み。
アレを出してくるという事は、私がそれに値する程の相手だと認めてくれたのだろう。
それは凄く嬉しいけど……果たして私にアレを凌ぐことが出来る…?
いえ、弱気になるなんて私らしく無いでしょ!
おそらくは私が矢を番えて射るより先に飛び込んでくるだろう。
予備動作無しの神速の技だし、矢で迎え撃つのはどのみち難しい。
だったら…
私は弓矢を放り投げてスティレットを抜き放ち迎撃体勢を取る。
勝負は一瞬。
小細工なしで真正面から迎え撃つ!
…来るっ!!
視認してても捉えにくい神速の踏み込みから、鋭く繰り出される斬撃が私の胴を狙って襲いかかる!!
くっ!?
駄目だ…回避が間に合わない!!
だったら!
死なばもろともよっ!!
回避よりも攻撃優先、一歩踏み出しながらスティレットを今迄で最速のスピードで突き入れる!!
そして……!!
ーーーーーーーー
「よし、そこまでだ」
スレイン先生が終了を告げる。
私の閃疾歩からの薙刀の斬撃と、シフィルのスティレットのカウンターが交錯すると思われた、その瞬間……
スレイン先生が割って入って私達の攻撃を弾き飛ばしたのだった。
「お前ら、本気でやるのは良いんだがな……寸止めを忘れてただろ?全く……模擬刀とは言え、危うく大怪我するところだったぞ」
「「す、すみません……」」
先生の言うとおりだったので二人して素直に謝る。
完全に授業だということを忘れて戦闘モードになっていたよ。
私もシフィルも。
だけど…
良くあそこに割って入れたね、先生は。
やはり只者ではないね。
「「先生、私と手合わせしません?」」
…被った。
どうやらシフィルも同じ事を考えていたらしい。
「……お前ら、反省してねぇだろ?」
あ、ヤバ…
少しトーンが低くなった先生の声に、慌ててブンブンと頭を振って否定する。
「はぁ…まあ良い。流石は武神杯出場者同士の戦いだ。見応えがあったぞ。お前らもよく見てたか?中々ここまでのレベルに到達できるもんじゃないが、得るものは多かっただろう?」
先生が他の生徒たちにそう言うと、拍手が巻き起こった。
少しでも参考にしてくれたなら嬉しいかな。
「よし、じゃあ次は……ルシェーラとフリード、前に出ろ!」
「はい!」
「うぃ〜っす!」
お?
次はルシェーラ対フリードか…この対戦も面白そうだね!
まあ、当然ながらルシェーラを応援させてもらうけど。
しかし…パワーファイターのルシェーラと、スピードとテクニックのフリードをぶつけると言うのは、お互いの成長を考えての組み合わせだろうね。
実力でも実戦経験でもルシェーラが一歩上を行くが、フリードもダンジョンに潜って実戦経験を積んだと聞くし…さて、どうなるか?
「ルシェーラちゃんが相手か…実力面じゃまだ及ばないから、胸をお借りしますってとこだな。……胸……ゲヘヘ……」
そう言いながら邪な目でルシェーラを見る。
…キモい。
「ルシェーラ!フリードなんてボコボコにしちゃいなさい!!」
「…ええ。煩悩を打ち払って差し上げますわ」
「……寸止めだっつってんだろーが」
先生は甘いです!!
ヤツは一度……では懲りないので、何度も痛い目を見せないと反省しないですよ!




