第十幕 10 『旧交』
賢者の塔を後にした私達は、今日宿泊する予定の迎賓館へと向かうことになった。
学院に近接しているとのことだったので、校内を見学がてら徒歩で向かうことにした。
「変わってないわね〜」
「そうね。私は途中で退学したからここで過ごした時間はそれほど長いわけではないのだけど…それでも思い出深いわ」
学生時代と言うのは短くても濃い経験だと思うから、より鮮明に記憶しているんだろうね。
私は今まさに学生をやってるのだけど…きっとかけがえのない思い出になるんだろう。
学院も冬の長期休暇に入っているが、学生らしき姿はチラホラ見える。
休暇中も勉学に励むものや、部活動等に精を出す者、単に郷里が遠く帰らなかった者、様々だろう。
綺麗に整備された並木道や校舎の合間を抜けて歩いていくが、私達はかなり目立つらしい。
すれ違う人は例外なくこちらに視線を向けてくる。
何だか高貴なオーラを振り撒く貴婦人と、何だか王女様っぽい人(私!)、おっとりした雰囲気の美人のお姉さんと、ちびっ子二人。
そりゃあ目立つよね。
みんな注目されるのは慣れてるので、それほど気にしていないけど。
「母様や姉さんの知り合いは学院に残ってたりしないの?」
「ん〜…友人の一人は〜ここに残って研究職を目指すって言ってたけど〜」
「ジーナでしょ?今はここの研究員兼教員をやってるはずよ」
「あら〜、そうなのね〜。せっかくだし〜会いに行ってみようかしら〜?」
と、そんな話をしていた時…話しかけてくる人がいた。
「アネッサ!!それに、カーシャも!」
長い髪をシンプルに後ろで纏め、眼鏡を掛けた20代後半から30代前半くらいの女性だ。
「あら〜?噂をすれば、ね〜」
「ジーナ、久しぶりね」
どうやら先程まで話に出ていた人のようだ。
何とタイムリーな。
「エロジ…学長からあなた達が来るって聞いてたから、探していたのよ」
…何か言いかけたようだけど、聞かなかったことにするよ。
「あら〜、だったら到着を知らせてあげれば良かったのに〜。気が利かないエロジジイよね〜」
…ジーナさんが濁したのに台無しだよ。
案内の人も「私は何も聞いてません」って顔をしてる。
というか、あの人国家元首なんじゃないの?
「まあ良いわ。今日は迎賓館に泊まるって聞いてるけど…王妃様がいるなら当然か」
母様を呼び捨てにしてるあたり、姉さんと同じくらい気のおけない友人ってことなんだろうね。
「そうね。お忍びじゃなくて正式な訪問だからね」
「娘さんの婚約だっけ?じゃあ、そちらが…」
「そうよ。娘と言っても義理…姉の子なのだけど、実の娘と変わらないわ」
「私にとっては〜、妹みたいなものよ〜」
「ユリウス様とカリーネ様の御子なのよね。聞いているわ。…っと、申し訳ありません、ご挨拶が遅れました。私はこの学院で教員をしております、ジーナと言う者です。お母様やアネッサとは、この学院で共に学んだ友人ということになります」
「はじめまして、カティアと申します。母とアネッサ姉さんがお世話になっております。母様と同じように、気軽に接して下さい。…あ、こっちは私の養子でミーティアと言います」
「こんにちは!」
ジーナさんが自己紹介してくれたので、こちらもそれに応じてミーティア共々挨拶する。
「あら、えらいわね〜(なでなで)。じゃあ、そちらのお嬢さんは…」
「私の娘のリィナよ〜」
「は、はじめまして、お母さんがいつもお世話になってます」
「はい、はじめまして。アネッサよりもしっかりしてそうね」
そうかも。
「どういう意味よ〜」
ジーナさんの言いようにぷんすか怒るが、姉さんは少し自覚したほうがいいと思うよ。
「そのままの意味よ。それより、あの時のティダさんとのお子さん?」
「そうよ〜」
どうやらジーナさんはティダ兄の事も知っているようだ。
ティダ兄との馴れ初めは詳しく聞いたことがない。
二人とも教えてくれないんだよな〜。
…ちょうどいい機会だから、ジーナさんに聞いてみよう。
「あの〜、ティダ兄と姉さんの馴れ初めってどんな感じだったんですか?」
「あら、聞いたこと無いのかしら?」
「だって〜、恥ずかしいじゃない〜」
顔を赤らめてイヤンイヤンしてるけど、もうそんな歳じゃないでしょ。
「私も聞きたいわね」
と、母様も便乗する。
「そうね、積もる話も沢山あるしね…でも、まだちょっと用事があるから、後でそっちに行くわ」
「ええ、是非そうして頂戴」
そんな約束を取り付けて、ジーナさんとは一旦別れて、私達は宿泊場所である迎賓館に向かうのだった。




