第八幕 17 『こころ』
シェラさんと『奇術師』の戦いが始まったのを横目に、私達はミーティアと対峙する。
…チラっと見たけど、とても割って入れるような戦いじゃないね、あれは。
とにかく、シェラさんがヤツを引き受けてくれているうちに、こっちを何とかしないと!
だが…
初撃はカイトが防いでくれたが、私はまだミーティア相手に刃を向けることを躊躇している。
「[炎槍・散]」
一旦間合いを離れたミーティアは、魔法により何本もの炎の槍を放ち、それを追うようにして再びこちらに向かってくる。
「ミーティアっ!!」
ぴくっ…
!!
今…反応した!?
キィンッ!
私の呼び掛けに一瞬反応を見せたと思ったが…そのままカイトと斬り結ぶ。
「ミーティア!!目を覚ませっ!!」
ぴくっ…
まただ!
カイトの言葉にも反応を見せた!
やっぱり気のせいなんかじゃない!!
何とかしてミーティアを止めることができれば…きっと何とかなる!
「ミーティアちゃん〜、ごめんねぇ〜…[雷縛鎖]!!」
カイトから離れた瞬間を狙って、姉さんが魔法を放つ。
雷撃系の攻撃魔法だが、殺傷力が低い捕縛目的のものだ。
だが…
「[幽幻転生]」
ミーティアに直撃すると思われた雷撃は…すっ、と彼女をすり抜けた!?
なに…あの魔法…?
「うそ〜…神代魔法よ〜、あれ〜」
やっぱり…以前も転移魔法とか使ってたし、基本スペックが段違いだ…!
「[輪転霧消]!!」
ティセラさんが放ったのは、相手の支援魔法を打ち消す魔法だ。
これであのすり抜け効果はなくなる…か?
ミーティアは気にした様子もなく、再び双剣で向かってくる。
「ミーティア!!聞こえてるんでしょう!?」
「ミーティア!!」
「ミーティアちゃんっ!!」
きっと、私達の声は彼女の心に届いてる。
そうじゃなければ…今のあの娘の力はこんな物じゃない…もっと強力な魔法や本気の斬撃を振るえば、今頃私達はもっと甚大な被害を被ってるはずだ。
私達を忘れたわけじゃない…あの娘も闘ってるんだ!!
「……うぅ…ま、ま…」
!!
ミーティアが苦しそうなうめき声をあげる。
しかし、それでも彼女は剣を振るって戦うことをやめない。
あと…あともう少しなのに…!!
あの娘の心に届かせるにはどうしたら…
心……魂……
そうだ、私はどうやってあの娘の居場所を突き止めた?
魂を結ぶのは…正に今この時なんじゃないか?
あの時、ミーティアを探そうとして印を発動させるために歌った歌を再び口ずさむ…
あの娘のお気に入りの歌…
暖かな金銀の光が私から溢れ出し、リル姉さんの印が発動する。
ミーティアが私に向かってきた。
「カティアっ!!」
「…大丈夫だよ。ミーティア…ママはここにいるよ」
双剣を私に振るおうとするミーティアに対して、私は両手を広げて迎え入れる。
「あぁ……ああっ!!」
ミーティアは一層苦しそうな声を上げてその歩みを止め、剣を取り落とした。
「大丈夫…大丈夫だよ…」
あなたと私の絆は、誰にも断ち切ることなんてできやしない。
魂を分けた娘なのだから…
そして、私はミーティアを優しく抱きしめて…
私の意識は白く染まっていくのだった。
…ここは?
ふと気がつくと、あたり一面は暗闇に閉ざされていた。
「よう、やっと来たか」
「っ!?」
唐突にかけられた声に驚くが、それは聞き覚えのある声だった。
声のする方向に向き直ると、予想通りの人物が。
「ゼアルさんっ!」
「おう」
「何故ここに?……いえ、ここはどこなんです?」
「ここはミーティアの心の中だ」
「ミーティアの…」
そうか、私は印を発動して…ミーティアの魂と繋がったのか。
「それで、ゼアルさんは……」
「ああ…ミーティアが心を閉ざしてしまったんでな。表に出られなくなっちまったんだ」
もう、なんて役に立たない…
「…お前、いま役立たず、とか思わなかったか?」
ギクッ!
何故分かる……?
「い、いいえ?…でも、心を閉ざしてるって、いったい何故……」
今日私をお見送りしてくれたときは別に変わった様子はなかったけど。
そうすると、やっぱりあの『調律師』とやらの異能のせいなのか?
「突然な、声が聞こえたんだ…『己の本分を思い出せ』とかなんとか」
己の本分…?
まさか…
この世界に寄る辺なき迷い子だった彼女。
それを思いださせられた…そういう事なのか?
なんて事を…
でもね……ミーティア、今のあなたはもうこの世界の一員なんだよ?
あなたは一人じゃないでしょう?
それを、教えてあげないと。
「ここはミーティアの心の中なんだよね?あの娘と話をするにはどうしたらいいの?」
「この世界の何処かに、ミーティアの魂の核があるはずだ。先ずはそれを探さねぇと。……頼んだぜ、俺が幾ら呼びかけても反応がねえんだ。だが、お前ならきっと……」
魂の核…
とにかくそれを探し出して、教えてあげないと。
あなたには、あなたの事を大切に思う人達が沢山いるんだってことを。




