第七幕 37 『武神杯〜準決勝 決着』
ーーーー 観客席 ーーーー
カティアvsラウル
二人の戦いは前評判通りのハイレベルな激戦となり、観客たちはその熱い戦いにあらん限りの声を上げる。
あるいは一進一退の攻防に固唾を飲んで見守っている。
何れにしても目が離せない戦いだ。
特にカティア姫の、舞を踊るかのように華麗な格闘術は彼女自身の容姿も相まって多くの観客を魅了していた。
一方のラウルの豪快な技の数々は見応えがあり、カティアに負けず劣らず観客の声援を受けている。
貴賓席で観戦している者たちは大声を上げることこそ無いものの、夢中になって見ているのは一般席の観客と変わらない。
「カティアさん、格闘も凄いのですわね…」
これまで何度もカティアの戦いを見てきたルシェーラも驚きの表情で呟く。
「本当、カッコいいわね〜。おおっ!そこだ!行けっ!!」
「…レティ、はしたないですよ」
シュッシュッ!と身振りを混じえながら応援するレティシアを兄のリュシアンが嗜める。
「いいじゃないこれくらい。本当はもっと大声で応援したいんだから。ねえ、カイ…テオフィルスさん?」
「ん?ああ…そうだな。一般席の方が楽しめたかも知れないな」
「ですよね!でも、ミーティアちゃんやクラーナちゃんは関係なしって感じかな」
レティシアの言うとおり、ちびっ子二人は貴賓席の際、柵にかじりついて大声で応援している。
「ママ〜!がんばれ〜!!」
「おねえさま!がんばってください!!」
二人の一生懸命な様子を、大人たちは微笑ましげに見守っている。
「イスファハン王子。あのラウルと言う者はそなたの護衛との事だったな」
ユリウス国王が来賓のカカロニアの王子に聞く。
「ええ、カカロニアからアクサレナの道中の護衛ということで、Aランク冒険者の何名かに指名依頼を出したんですよ。ここに滞在中は自由行動なんですけどね…まさか大会に参加してるとは」
「ふむ…なかなかの強者だな。今のところカティアとは互角だが、少しづつ彼の方が押して来ているように見える」
「そうですね、ヤツはカカロニアでも一、ニを争う猛者ですから。ですが…カティア姫もこのまま押されるだけじゃ無いのでしょう?」
「どうだろう?私もカティアの戦いをそれほど見たことがあるわけではないからな…テオフィルス殿はどう見る?」
「私も格闘戦を見るのははじめてですが…イスファハン王子の言う通りこのまはまでは終わらないでしょうね。ダードさんも言ってましたが、なんせ彼女は戦いの引き出しが多いですから」
「なるほど。とにかく目が離せんな」
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ラウルさんの攻撃はいよいよ苛烈さを極めてきている。
今のところ何とか捌いて有効打を貰うことは無いが、このままペースを上げて行かれると手が付けられなくなる。
ここらで仕掛けさせてもらうよ!
隙らしい隙など無いが、比較的大振りの拳をかいくぐって懐に飛び込み、双掌打を叩き込む!!
それはもう片方の腕で防がれるが構わずに無理やり吹き飛ばす!
ドゴォッ!!
『おおーっと!カティア選手、ラウル選手を大きく吹き飛ばしました!!』
『いや。あれはダメージ無ぇだろ』
そうだろうね。
衝撃を逃がすように自分から後に跳んだのだろうから。
だけど今のは間合いを離すのが目的だ。
私自身も後退して距離を更に離しながら…詠唱を開始する!
「今更魔法か!それは効かねえぞ!!」
そう言って拳に魔法封じの光を纏わせながら猛然と距離を詰めてくるが、構わずに詠唱を継続する。
そして、彼が到達する前に完了し、私はその引き金を引いた!!
「[天雷]!!」
落雷の魔法が発動し、天から一筋の雷が地に落ちる!!
ラウルさんはそれを迎撃すべく光る拳を天に突き上げた!
「無駄だ!!」
だが、私の狙いはラウルさんでは無い!
ラウルさんに向かっていくと思われた雷は、途中でその軌道を変え…近くに突き刺さっていた薙刀に落ちる!!
「なにっ!?」
薙刀を伝って炸裂した雷は舞台を破壊し、飛礫と細かな電撃を周囲に撒き散らす!!
「ぐあっ!?」
よし!
思った通り、魔法の核を狙わなければ無効化は出来ない!!
副次的に発生した電撃では殆ど本来の威力は無いとはいえ、僅かでも痺れを与えるはず…!
ここが千載一遇のチャンスだ!!
私はこの機を逃すまいと一気に距離を詰め、無防備になったラウルさんの鳩尾に渾身の掌底を叩き込んだ!!
「うぐぅっ!!…ま、まだだっ!!」
まだ致命判定されず、ラウルさんは耐える。
だが…!
私は傍らに突き刺さったままの薙刀を引き抜く!
「せりゃあーーーっ!!」
掌底のダメージでまだ防御体勢が取れないところに駄目押しの斬撃を見舞う!!
「う、うぉーーーっ!!!」
ラウルさんは裂帛の気合を発してそれを防ごうとするが…!
それよりも早く刃が彼の身体に吸い込まれる!
そして、今度こそついに致命判定となったラウルさんは、舞台外に弾き出されるのだった。
『そこまで!!勝者、カティア選手!!』
ウォーーーーーーーッ!!!
ワァーーーーッッ!!
勝利宣言と共に歓声が爆発する!
私はその声に突き動かされて、思わず両手を天に突き上げた。
ふぅ…何とか勝てた。
疲れた…
でも、それ以上に充実感で満たされている。
『カティア選手の勝利です!!全くの互角と思われた戦いでしたが、決着は正に一瞬の出来事でした!』
『武器、格闘、魔法…あらゆる手札を見事活かしきったな』
『あんな近接戦闘の最中に〜上級魔法を入れるんだもの〜。凄い度胸よね〜』
『それもあるが…上手いことあの位置に誘導したもんだ』
そうなんだよね。
ちょうど薙刀を突き刺したところの近くをラウルさんが通るような位置取りをして、魔法を放つタイミングもかなりシビアだったんだけど、何とか上手くいって良かったよ。
「ふう…負けた負けた!完敗だ!」
「あ、ラウルさん」
「強えな、姫さん。格闘はほぼ互角な上に武器も魔法も凄えんだからよ。ありゃあ勝てねえわ」
「そんなことないですよ、ギリギリでした」
「へっ!謙遜すんなって!次はティダのアニキか、あのイーディスってヤツだが…勝ってくれよ!」
「はい、ベストを尽くします!」
私とラウルさんは固く握手を交わした。
『さあ、準決勝に相応しい素晴らしい戦いを見せてくれました両選手に盛大な拍手をお願いします!!』
ワァーーーーッッ!!!
パチパチパチパチッ!!
カティアさまーーっ!!ステキーーっ!!
ラウルーーっ!!強かったぞーーっ!!
私達の健闘を皆が讃えてくれる。
それに応えて手を振りながら、私は舞台を下りるのだった。




